玩具屋さんの出会い
「今日はおもちゃ屋さんは寄らなくても良いかなって思ったけど、リンちゃんが大好きなら、寄らない手は無いよね!」
興奮気味の加代ちゃんに両手で手を包まれて、拒否も否定も出来なかった。
「あ、ありがとう、気遣ってくれて」
「気にしないで! 今も大好きって子は少なくって、こんな近くに同士がいるとは思わなかったから!」
キラキラと目を輝かせる加代ちゃんは、同志に飢えていたんだなぁと強く感じる。
どこか志緒ちゃんを思い出すのもなんだか親近感を覚えるポイントだった。
あと、情熱的で暴走気味な史ちゃんとその手綱を握る加代ちゃんってイメージだったけど、どうやら真実は似たもの同士だったらしい。
道理で相性が良いわけだと納得してしまった。
精巧なドールハウスも動物の人形も精巧でとてもクォリティーが高いものの、人形遊びというジャンル故か、どちらかというと小学生ぐらいまでの玩具という風潮があるみたいだ。
とてもポップでキュートな専門コーナーには小学生の子達の姿と、恐らくその保護者の姿しか見えない。
そんなところに、私は加代ちゃんに手を引かれて、引っ張り込まれてしまった。
すると、陳列された人形を眺めていた女の子が私たちに気が付いて振り返る。
驚いたのはその子が発した言葉だった。
「あ、加代ちゃんだ!」
身長と見た目からして、小学校三、四年生くらいに見えるので、同級生とかでは無いと思う。
そんな年下と思しき女の子に、加代ちゃんは「真由ちゃん、こんにちは。今日はお母さんとお買い物?」と優しい口調で尋ねた。
「うん。お母さんお洋服見てくるから、ここで待ってなさいって」
真由ちゃんと言われた女の子は、満面の笑みで頷く。
お人形を眺めるのも楽しかったのだろうけど、やっぱり一人は寂しいものだ。
顔見知りの加代ちゃんが来てくれて、嬉しく思ったんじゃ無いかと思う。
そんな真由ちゃんは何故かもじもじとしながら、加代ちゃんに「加代ちゃんは……えっと……」と聞きたいことを切り出せないような様子で話しかけていた。
んだろうと思って観察していると、加代ちゃんは「今日はお友達を案内してたの」と真由ちゃんに説明し始める。
そして、私に視線を向けると「それで、この人がお友達の姫ちゃん」と言い出した。
「ひめちゃん! お姉ちゃん、お姫様なの!?」
加代ちゃんの発言にも驚いたのに、それに強い反応を示した真由ちゃんの圧に、私は戸惑う。
が、ここで悪ノリしてきたユミリンが「そうだぞ。でも、今日は内緒で遊びに来ているから、皆にはナイショなんだ」と言って参加してきた。
「え、そ、そうなの!」
目を丸くした真由ちゃんは慌てて口に両手の重なる。
「だ、大丈夫、真由、ナイショに出来るよ、え、えっと……」
私を見上げながら真由ちゃんは、言葉を詰まらせた。
その理由を素早く読み取ったらしい史ちゃんが「姫様のお名前は凛花様です」と言って加わってくる。
「史ちゃんもいたんだ!」
真由ちゃんからすると突然現れたように見えたのか、史ちゃんの存在に大きく驚いていた。
その史ちゃんはニッと笑みを浮かべながら「私は凛花様のお世話係なので、ご一緒するのは当然なんですよ」と言い切る。
真由ちゃんは「お、お世話係!? す、スゴイ、史ちゃん!」と口を押さえ声を抑えているのに、それでも大興奮しているのが伝わってきた。
「ふふふ、真由ちゃん。でも、私だけじゃ無く、加代もお世話係なんですよ」
「え、加代ちゃんも!」
目をキラキラさせて真由ちゃんが加代ちゃんに視線を向ける。
視線を向けられた加代ちゃんはなんだか恥ずかしそうに頬を染めてから、周囲に素早く視線を巡らせた。
直後、もの凄い速さで千夏ちゃんを捕まえてきて「この子、千夏ちゃんもだよ」と、その影に隠れるように加代ちゃんは紹介する。
千夏ちゃんは流石と言うべきか、流れるように「私たち三人で姫さ……凛花様のお世話をしているんですよ」と小さな声で囁いた。
そうなると、真由ちゃんとしてはユミリンがどういう関係の人か気になったらしくて、無言で視線を向ける。
真由ちゃんが誰を見たのか素早く確認した千夏ちゃんは「この人と、あそこに立っている二人のお姉さんは、護衛です。悪い人が着たときに姫……凛花様を護るのがお仕事です」と言い切った。
とても滑らかな説明をアドリブだと思うわけも無く、真由ちゃんは完全に信じ込んでしまったようで「はぁ~」と熱の籠もった溜め息を吐き出す。
それから、深呼吸をするように大きく息を吸い込んで、長く吐き出した真由ちゃんは、私に視線を向けてきた。
「あ、あの、お姫様」
流石にそう呼ばれるのは抵抗があったのですぐに「り、凛花で良いですよ」と真由ちゃんに伝える。
けど、私の発言は真由ちゃんを戸惑わせてしまったようで、少し困った表情を浮かべてしまった。
そんな真由ちゃんに、加代ちゃんが「姫って呼んだら周りにバレちゃうから」と囁く。
真由ちゃんはそれを聞区と、私の方を窺いながら「りんか、さま」と辿々しく名前を呼んだ。
流石に、様付けは……と思った私は首を左右に振って「様はいりません」と伝えると、真由ちゃんは少し躊躇いがちに「りんかちゃん?」と言い換えてくれる。
私が「はい。それで」と伝えると、真由ちゃんは本当に嬉しそうに顔を輝かせてくれた。




