占有
駅前を通り抜けて、私たちは目的地の百貨店へとやって来た。
駅からここまでの間、何故かお姉ちゃんが私に負ぶさるように抱き付いている。
流石に歩きづらいので離して貰おうと思ったのだけど、それを伝えようとする度にもの凄く悲しい顔をするので、結局言い出すことは出来なかった。
しかも、抱き付いかれている間、皆、私が視線を向ける度に、スッと視線を外すので、私の頭の上でお姉ちゃんが何かしているのかもしれない。
そんな状態で、私たちは百貨店の中に突入した。
この世界から四十年以上先の世界である元の世界でも、この百貨店は営業を続けていた。
近隣の商店などは、店が入れ替わったり、マンションに変わったりと、この世界の店が続いているところは少ないようなので、流石と言うべきかもしれない。
そんな百貨店の内部は、日曜日だからか、かなりの人が行き交い賑わっていた。
「お姉ちゃん、そろそろ離れてー」
私がそう言うと、お姉ちゃんは「えぇ!?」と大袈裟に驚く。
「お店の中だと、他の客さんに迷惑になるかもしれないから、ね」
そう伝えてもなかなかお姉ちゃんは離れてくれなかったので、ダメ押しで加代ちゃんに話を振ることにした。
「えっと、お店って上の階にあるんだよね、加代ちゃん?」
加代ちゃんは「え?」と少し驚いた声を出してから「あ、うん。四階だよ」と返してくれる。
「お姉ちゃん、四階行くのにエスカレーター乗るから、離れてくれないと、いろんな人に迷惑だし、危ないよ」
そこまで言ってようやく、お姉ちゃんは「……しかたないわね」と口にして、渋々と言った態度で手を解いてくれた。
ただ、離れている姿があまりにも悲しそうだったので、思わず「広いところなら……」と口にしたところで「姫ッ!」とまどか先輩に言葉を遮られる。
「まどか先輩?」
驚いた私に、まどか先輩は「甘やかしては駄目だよ。もう既に、駅からここまで姫を独占していたんだし」と言って、視線を動かした。
まどか先輩に先導されつつ視線を巡らせると、加代ちゃん、史ちゃん、千夏ちゃん、ユミリンと何か言いたそうなのに、それを我慢しているような表情を浮かべている。
お姉ちゃんは、この世界では私の実の姉だし、部活の先輩で部長だし、思うところがあっても意見し辛いだろうなと理解した。
なので、お姉ちゃんに「今日は皆とお出かけだから、お姉ちゃん、また今度ね」と少し申し訳なく思いながらもはっきりと伝える。
お姉ちゃんは「まあ、あんまり欲張って、凛花に嫌われたくないし、後輩にも嫌な先輩と思われたくないし、今日はこれで満足しておくわ」と苦笑気味に言った。
加代ちゃんの指定した四階は、子供のフロアと名付けられていて、小物屋さんだけじゃ無く、おもちゃ屋さんや文房具屋さんが割り振られていた。
ちなみに地下一階は食料品フロア、一階は生活雑貨、二階は婦人服、三階は男性向けや子供向けの衣類、五階は本屋とレストランとなっている。
更に、六階の案内もあって驚いたのだけど、案内では屋上遊園地と描かれていた。
元の世界では六階には立ち入り禁止になっているので、これも時代の違いかもしれない。
流石に遊園地自体に遊びに行きたいわけでは無いものの、どんな施設なのは気になる程度に興味を引く施設名だった。
「おや、リンリン、屋上遊園地に行きたいの?」
案内板を見ていた私の視線を辿ったのpであろうユミリンがニヤニヤしながらそう尋ねてくる。
どんな施設なのか、もの凄く興味があるのだけど、今日は集団出来ているので「どんな感じかなって思ったけど、今日の予定には入ってないだろうし、また今度で良いかなー」と返した。
「うーん、屋上遊園地は、乗り物もあるけど、ビデオゲームとかも置いてあるから、今日のメンバーだと止めておいた方が良いかな」
案内役でもある加代ちゃんがそう言って腕組みをしている。
「そうだね。皆、可愛いから、親御さんが居ないときは行かない方が安全だね」
まどか先輩が私たちを見渡しながらそう断言した。
皆もその意見に反してまで屋上に行きたいわけでは無いようで、素直に頷いている。
そんな中でユミリンが「私はリンリンが行きたいなら全力で護る覚悟だけど?」と握りこぶしを作って見せた。
私はユミリンに向かって首を左右に振って「気持ちは嬉しいけど、やっぱり今日は無しにしよう。ほら、駅の模型。私、そっちの方が見てみたいんだよね」と告げる。
「え、そうなの?」
ユミリンが驚いたように言うので、私は「模型とか、ミニチュアとか、好きだからね」と言い切った。
すると、加代ちゃんが「もしかして、リンちゃん、アレも好き?」とグッと顔を近づけて問うてくる。
「あれ?」
加代ちゃんの言う『あれ』が思い当たらず首を傾げると、動物の人形とドールハウスの組み合わさったシリーズ名を口にした。
結花ちゃん、舞花ちゃん、志緒ちゃんが好きで、私もこのシリーズの人形とドールハウスを使った遊びに参加したことがある。
一種のおままごとなので少し恥ずかしかったけど、精巧な家具や建具のドールハウスには正直心引かれていた。
なので、私は「うん」と頷く。
直後、愛がふんだんに込められた加代ちゃんのマシンガントークが炸裂した。