移り変わり
私たちの暮らす街の中心はどこかと問われれば、誰もが『駅』と応えるはずだ。
やや南寄りに位置しているものの、地図上ではおおよそ街の中央に立地している。
そんな駅周辺には、徒歩五分圏内に、役場、警察署、消防署などの各行政機関に加えて、百貨店や商店の集まった商業ビルなども集まっていた。
ちなみに、夜のお店が並ぶ地域もあって、中学生は無闇に近づかないようにと、生活指導の先生が口を酸っぱくして指導している地域もある。
お姉ちゃんとまどか先輩の情報によると、補導員さんが日曜は特に多くなるらしいので、件の歓楽街を大きく迂回するルートで駅に向かうことになった。
「リンちゃんの家って、微妙に駅遠いよね」
車一台がやっと通れる幅の道を皆で行きながら、加代ちゃんがそう感想を漏らした。
加代ちゃんに頷きつつ、私は「ウチは学区のハズレだしねー」と返す。
すると、お姉ちゃんが「加代ちゃんの家は駅近いの?」と尋ねた。
加代ちゃんは具体的な地域の名前を挙げて、そこに住んでいると答える。
「ああ、駅の近くね、それは」
頷くお姉ちゃんの言葉通り、加代ちゃんの澄んでいるのは、駅のある地区のすぐ隣の地区の地名だった。
「史ちゃんも、同じ当たりに住んでいるんだよね?」
私がそう話を振ると、史ちゃんは「はい、その通りです!」と嬉しそうに頷く。
「史の家とは二軒隣なんで、リンちゃんが遊びに来てくれたときに案内するよ」
加代ちゃんの言葉に「え、お邪魔して良いの?」と、私はすぐに尋ねた。
すると、加代ちゃんは「流石に良枝先輩とリンちゃんの家みたいに広くないから、一気に全員は無理かもだけど、出来れば皆に着て欲しいなぁ」と笑う。
「わ、私も、是非遊びに来てください!!」
加代ちゃんの前に飛び出すようにして史ちゃんがそう主張すると、千夏ちゃんも「はい、はい! 私も私も遊びに来て!!」と手を挙げて名乗り出た。
ここでいつもなら参戦してきそうなユミリンが静かだったのを意外に思ったのだけど、ずっとウチにいるあたり家庭事情が複雑そうなので、触れない方が良いだろう。
そう考えた私は「じゃあ、今度お邪魔させて貰うね~」と三人はにこやかに笑ってくれた。
「普段も歩いているんですか?」
千夏ちゃんが先頭を行くまどか先輩とお姉ちゃんにそう質問を投げ掛けた。
「まあ、自転車も良いけど、歩く方が鍛錬になるからね。ほら、気持ちがノったら軽くランニングも始められるし、自転車だと、トレーニングにはなら無いからさ」
まどか先輩は走るジェスチャーを見せながらそう返す。
下の世界ではロードタイプの自転車なども市販されていたが、この世界の時代ではまだまだ広まっていない様だ。
リーちゃん情報に寄れば、マウンテンバイクが一般化しつつあるあたりで、逆にデコレーションされた自転車などがあるらしい。
私の知るアシスト機能の殿堂とは違う方向で電動化しているらしいのが、スゴいのか、おかしいのか、判断に困るところだ。
まどか先輩に続いて「自転車も良いけど、停めるところが少ないからねー」とお姉ちゃんが答える。
下の世界では駅米にかなり多くの駐輪場があったが、この世界ではそれほど整備されていないようだ。
原付もバイクも自転車も、駐輪エリアに区別無く並べられているし、そのせいでスペースを探すのも大変みたいで、場所によっては道路まではみ出して緊急車両の通行妨害に繋がっていたりもするらしい。
リーちゃんの補正のお陰で、この時代の一般的な情報を補えているけど、下の世界との違いが大きい上に多いので、思わず声を上げないようにするのが大変だった。
「まあ、あとは、ほら、スカートで自転車は……ね?」
お姉ちゃんが私に視線を向けながら、そう口にすると、千夏ちゃんもこちらに視線を向けた。
それから「ああ」と納得したと言わんばかりに深く頷く。
「え、ちょっと、何で納得したの!?」
私が疑問を口にすると千夏ちゃんは「いや、凛花ちゃん、スカート短いから中見えちゃうでしょ」と視線を下げて足を見ながら平然と言い放った。
反射的にスカートを押さえてしまったけど、丸見えの脚はスカートで隠せるわけも無く、むしろ変な反応をしてしまったことが恥ずかしい。
「凛花も長いスカートは持ってるけど、ふわふわしてて裾が大きく広がるのが多いから、自転車だとチェーンに巻き込みそうで」
お姉ちゃんは頬に手を当てて溜め息交じりに言うと、千夏ちゃんが改めて「ああ」と頷いた。
「それに、長いスカートはエスカレーターに巻き込まれたりもするから、多少、見えてしまう恐れはあるけど、凛花には短いスカートを履いててほしいのよね」
更に続くお姉ちゃんの言葉に「ブルマ履けば大丈夫でしょ」と、ユミリンがさらりと答える。
頷く皆を見ながら『パンツじゃないから大丈夫』なんて不思議な理論は、志緒ちゃんに見せて貰った創作物の中でしか聞いたこともなかったけど、リアルに目の当たりにすると、常識って変わるんだなと、私は変なところで感心してしまった。