朝ご飯と出発
加代ちゃんの囁きを聞いたからか、史ちゃんはガバッと起き上がると、何かを探すように周囲に視線を巡らせた。
私と目が合うとそこで、目を潤ませて「凛花様!」と声を弾ませて飛びついてくる。
「え!? ちょ、史ちゃん!」
勢いが強すぎて受け止め切れなかった私は後ろに倒れ込みながら、それでもせめて史ちゃんが頭を打たないように、両腕で抱き留めた。
「凛花様~~」
抱き付いたまま史ちゃんは私の胸に顔をこすりつけてくる。
「え、なに、大丈夫?」
状況が上手く掴めず動揺する私と違って、千夏ちゃんとユミリンはすぐに行動を起こせる程度には冷静だったようだ。
「こら、フミキチ、リンリンに抱き付くな!」
「ね、寝ぼけているからだとしても、ちょっと、その、良くないと思います!」
強めの口調でダメ出しをするユミリンと、なんだか言葉に窮しているような千夏ちゃんの二人の手が史ちゃんに掛かる。
「あぁ~~~」
悲しそうな鳴き声を上げて史ちゃんが引き剥がされたことで、私はどうにか起き上がることが出来た。
一方、史ちゃんの方は、布団の上に座らされて、千夏ちゃんとユミリンから何事か言われている。
「あ、あの……」
なんだか史ちゃんが可哀想な気がして声を明け京都思ったのだけど、ポンと肩に手を置いたまどか先輩が私がそれ以上向かうのを押し止めた。
「まどか先輩?」
「姫が行くと話が厄介になる」
真面目な顔でまどか先輩に断言された私は、行きたい気持ちを押し込めて、留まることにする。
まどか先輩に言われたことで、無理に介入しても、確かに混沌を巻き起こしてしまいそうな予感が湧いてきたからだ。
「凛花様、すみませんでした」
両手を突いて正座で謝罪してきた史ちゃんに、私は慌てて「大丈夫、気にしてないから、むしろ、それはやめて!」といわゆる土下座スタイルの謝罪を止めた。
そんなにして貰うほどのことはされていない。
勢いが良かったので、怪我をする可能性が多少合った程度のことだ。
史ちゃんも寝ぼけていただろうし、そんなに強く叱ったりするようなことでも無い。
そう思っていることを伝えると、史ちゃんはウルウルと目を潤ませて、安堵してくれた。
なんだか、千夏ちゃんとユミリンは不満そうだったけど、私のみを案じてくれてありがとうと伝えてから、でも、友達同士なんだし、寝起きで頭が回っていないと制御が難しくなると訴えて、溜め息交じりではあったものの、どうにか受け入れて貰う。
こうして落着したので、私は早速着替えと布団の片付けを提案した。
今日は掛け布団と敷き布団を干すとお母さんが言っていたので、布団を二階に運ぶ班と、二階にある物干しに掛ける班に分かれて、布団を片付けた。
私は病み上がりだからと言う理由で、皆が使ったシーツを洗濯場に運んで、洗濯機に掛ける係を拝命してしまったので、どちらの班にも入れなかったが残念なところである。
ちなみに運搬がまどか先輩、ユミリン、加代ちゃんの三人、干すのがお姉ちゃん、史ちゃん、千夏ちゃんの三人だった。
正直どっちかに加わりたかったけど、まどか先輩の「姫が別行動の方が、はかどると思うから」と言われてしまったし、分担した方が早く済むのは事実なので仕方ないと諦めたのである。
皆で協力し合った結果、居間から布団は片付けられ、布団を運び終えた運搬班が設置し直してくれたテーブルには、お母さん特製の朝食が並べられた。
山盛りのバターロールに、ソーセージ、スクランブルエッグ、キュウリやレタスの葉物、マーマレード、苺、ブルーベリーの瓶詰めジャムが並べられた。
バターロールに切れ目を入れて、それぞれが好きな具材をつめて食べる。
マヨネーズにトマトケチャップも用意されていて、味付けもその人次第だ。
ワイワイと自分のおすすめを教えたり、教えて貰ったりしながら、盛り上がる朝食は、やっぱり普段より美味しい。
笑いの絶えない朝食を終えたところで、私たちは本格的に今日のお出かけの準備に入った。
「じゃあ、回るお店選びは、加代ちゃんと史ちゃんに任せて大丈夫?」
まどか先輩とお姉ちゃんが、付き添いで行くだけだからと、主導を辞退したので、当初の計画通り、加代ちゃんと史ちゃんが主導で案内してくれることになった。
基本的にというか、そもそもの目的は千夏ちゃんにお店を紹介するというコンセプトではあるのだけど、実はお店を知らないのは私もなので、こっそり便乗させて貰うつもりだったりする。
昨日の衣装作りやお裁縫の話もあって、加代ちゃんのお店紹介も手芸店や小物屋さんがメインになるそうだ。
ここで、以外にもユミリンが『そんな可愛いところに行っても大丈夫かな?』と不安を感じていたようだけど、まどか先輩に『別に嫌いじゃ無ければ楽しめば良いし、私たちには可愛いお嬢さんを護る使命もある。護衛が姫から離れるなんて論外だよ』と諭したことで吹っ切れたみたい。
ただ、そんなたいそうな話だろうかと思惑は無いけど、二人はなんだか盛り上がっているので余計なことを言うのは止めようと思った。