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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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無自覚

 今朝、まだ部屋は暗かったけど、なんだか人の動く気配を感じて、私は身体を起こした。

 軽く周囲に目線を巡らせると、自分の布団の上で音を立てないように静かにストレッチをしているまどか先輩と目が合う。

 まどか先輩は黙ったまま、身振りだけで挨拶をしてくれたので、うまく出来たかの自信は無いものも、私も身振りで応じた。

 顔を洗って歯みがきをしてくる旨をジェスチャーでまどか先輩に伝えた私は寝床を離れる。

 そう相手洗面所で歯を磨き始めたところで、加代ちゃんが合流してきたのだ。


 加代ちゃんがタオルで水を拭き取ったところで、すぐに今に戻らず、状況を聞いてみたところ、私が寝床から起き出したのに気付いて、追い掛けてきたそうだ。

 起こしてたら申し訳ないと思って謝ったのだけど、いつもこのくらいの時間に起きているというので、ホッとしたところで、今、何時か把握していないことに気が付く。

 加代ちゃんに聞こうと思ったところで、リーちゃんが『現時刻は、午前5時半位じゃ』と教えてくれた。

 リーちゃんから時刻を教えて貰った私は、思わず「流石にこの時間は早すぎじゃ無い?」と、やっぱり私が起こしてしまったんじゃ無いかト不安になって尋ねる。

 加代ちゃんは「実は……」と頬を掻きながら、少し言い難そうに早起きの理由を教えてくれた。


「なるほど、お母さんと交代でお弁当作りをしてるんだ……加代ちゃんは本当にスゴイね!」

 一応、お弁当作りなんかも研修の一環で体感しているのでわかることだけど、それなりに手間も時間もかかる作業だ。

 朝は特にもう少し寝ていたいと思うこともある。

 それらを振り切って何かをするということがまずスゴイと思った。

 しかも、加代ちゃんは基本的に真面目な性格なので、きっと手を抜いたりもしないと思う。

 絶賛するのに十分な背景が備わっていた。

「い、いや、ウチのお母さん働いてるし、手伝えることを手伝ってるだけでね……」

 加代ちゃんはそう言いながら困り顔を浮かべるけど、私はもっとスゴいことをしているのだと実感してほしくて「仕方が無く、流れでって切っ掛けなのかもしれないけど、ちゃんと継続できているし、そもそも普通の子がしないことが出来ているのは特別な……そう、加代ちゃんが特別頑張ってるって事だよ!」と伝える。

「そ……え……」

 私の訴えが予想外だったのか、加代ちゃんはなんだか戸惑った表情を浮かべていた。

「何位も出来てない私が言うのはどうかとは思うけど……努力を努力だと思わない。頑張りを頑張りだと思わない。スゴいことを平然に出来ちゃう加代ちゃんのこと、スゴく尊敬するよ」

 話していくうちに、なんだか伝えたいという気持ちが強くなってくる。

「尊敬とか言いながら、全然自分でやれそうな気がしないところが情けないけど、自分が駄目な分、加代ちゃんの凄さをより強く感じられるよ」

 私がそこまで口にしたところで、加代ちゃんの両手が私の口を押さえつけてきた。

「むぅん!?」

「り、リンちゃん……そ、そこでストップ……わかる、でしょ……全身から火が出そう……」

 私の口を押さえつけている柔らかな加代ちゃんの手は確かにもの凄く熱くなっている。

「も、持ち上げすぎ、だ、よ」

 どうやら私の発言で真っ赤になってしまったようだ。

 ただ、私としては事実を伝えただけで、持ち上げたつもりは少しも無いので、そこは訂正しなければと思ったのだけど、リーちゃんに『待つのじゃ、主様!』とストップを掛けられてしまう。

『え? なに?』

『主様に悪意が無いのはわかる……じゃが、自分の言葉の破壊力に自覚がないのは知るべきじゃ!』

 リーちゃんにそう言われて、私は『でも、訂正はちゃんとした方が良いと思うのだけど……』と考えを伝えると、大きな溜め息が聞こえてきた。

『た……溜め息って……』

『基本わらわは、主様の眷属故、反論は出来ぬし、すべきではないと思うのじゃが……将来的にやらかしかねぬということは『オリジン』も『月子』も『雪子』も懸念していた故、一言、忠告させていただくのじゃ』

 リーちゃんの真剣な口ぶりと、並んだ名前に、思わず身体が硬直してしまう。

『自分に素直に思ったことを伝えるのは喜ばしいことじゃが、それによって相手がどう思うかが欠けては意味が無いのじゃ。加えて、自分の気持ちを優先する余り、相手の状況が見えていないことがあるのじゃ。悪意が無ければ許されるのは『(わらし)』の間だけなのじゃ』

 怒っているわけでも無く、ただ事実を提示しただけと言わんばかりのリーちゃんの発言は、もの凄く突き刺さった。

 確かに、この姿になってから感情に振り回されることが多くなった気がするし、後になってそれを公開したことも何度かある。

 今だって、加代ちゃんの状況がしっかりと見えていなかったのも事実だ。

 リーちゃんの指摘に、軽いショックを受けた私は、申し訳ない気持ちで加代ちゃんをみる。

 すると先ほどよりも体温の下がった加代ちゃんの手が、私の口から離れて行った。

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