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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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洗面所にて

「リンちゃん、おはよう」

 洗面所で歯を磨いていたところで、後ろから声を掛けられた。

 ちょっとダメかなとも思ったのだけど、無視するのも良くないかなと考えて、私は歯ブラシを口の中に入れたまま「ふぉふぁふぉ、ひゃひょひゃん」と応える。

 あまりにもちゃんとした言葉になってなかったせいか、加代ちゃんに「あ、ごめんね、歯磨き中に声を掛けて」と気を遣われてしまった。

「ひょっほ、ふぁっふぇね」

 ちゃんと発声は出来なかったけど、そう伝えて私は手早く口をすすぐ。

 口の中がさっぱりしたところで、歯ブラシのブラシ部分を手で洗いながら「ごめんね、加代ちゃん」と気を遣わせてしまったことを謝った。

 歯ブラシを洗い終えて振り返った私に、加代ちゃんは「うんうん。歯磨き中に話しかけて、私こそゴメン」と手を合わせて謝られてしまう。

「ぜんぜん、朝の挨拶は大事だし」

 私がそう返すと、加代ちゃんは「なんか、朝起きて、リンちゃんを見つけたら、気持ちが弾んじゃって……ちゃんとタイミングを計れば良かったよ」と苦笑気味に頬を掻いた。

 そんな加代ちゃんに「確かに、学校のお友達と、朝起きて顔を合わすなんて特別感があるよね」と頷く。

「そうだねー、中学の友達とは、今回が初めてだよ……部活の先輩もいたしね」

「部活……」

 私が加代ちゃんの言葉に反応示すと、すぐに「部活がどうかした?」と聞かれた。

「あー、その、加代ちゃんは演劇部で良かったのかな、と、思って」

 私の言葉の意図が読み取れなかったのであろう加代ちゃんは首を傾げる。

 そんな加代ちゃんに「ほら、お料理も、お裁縫も得意そうだから、調理部とか、手芸部とかに興味なかったのかなと思って」と、私は疑問に思ったことをそのまま伝えた。

 すると、加代ちゃんは「うーーーん」と少し唸ってから「これは内緒だよ」と私に耳打ちしてくる。

「う、うん」

 もちろん言いふらすつもりは無かったけど、不意打ちのような耳打ちに、変な緊張をしてしまったせいか、返事がぎこちなくなってしまった。

 加代ちゃんとしては、私の反応はどうでも良かったのか、気にする素振りも見せずに「簡単に言うと、リンちゃんや史と同じ部活に入りたかったんだよ」と教えてくれる。

 私が瞬きをしながら「そうなの?」と返すと、加代ちゃんは少し恥ずかしそうに「これでも、私、人見知りだから」と告白してくれた。

「そうなんだね……それなら納得だなぁ」

 これまでを振り返ってみても、加代ちゃんが人見知りだとは思わないけど、視点の違いなんだろうなと思う。

 他人から見る姿と、本人の自覚は違うし、私が見ている加代ちゃんは努力をした末の姿なのかもしれない。

 だとすれば、加代ちゃんは秘密の内面を教えてくれたことになるし、これは内緒にしなければと、謎の使命感が溢れてきた。

 そんな私を目をパチクリさせながら見る加代ちゃんは「リンちゃんは、そんな事ないでしょって言わないの!?」と驚いた様子で呟く。

「うん?」

 私が首を傾げると、加代ちゃんは「えっと、私が人見知りって言うと、皆、そんなこと無いって言うから……」と言葉を足してくれた。

 対して私は「うーーーん。普段の様子からすると、人見知りには見えないけど、でも、仕切るときに緊張してたりとか、行動を起こす前に覚悟を決めてから行動をしてるようにみえたから、いつも頑張って乗り越えてるんじゃ無いかなーと思って」とさっき考えたことを言葉にして伝える。

 すると、加代ちゃんに「はぁ~~~~」と盛大に溜め息を吐き出されてしまった。

「へっ!?」

 私がビックリしていると、加代ちゃんは「なんか、リンちゃんがより一層好きになっちゃったよ」と微笑む。

「な、なにがどうなって、そんなことに!?」

 まるで流れが掴めず動揺する私に、加代ちゃんは「史が夢中になる理由がよりわかった気がするよ」と加代ちゃんはなんだかわからないことを言ってポンポンと私の肩を叩いた。

「え、ちょっと、加代ちゃん? 何がどういうことか説明して貰っても良いかな?」

 置いてけぼりになっていることはわかるので、焦りながら説明を求めたのだけど、加代ちゃんは「え、無理だよ」と真顔で拒否されてしまう。

「な、なんで!?」

 加代ちゃんは「説明して、リンちゃんが自覚してしまったら、失われてしまうものもあるんだよ」という訳のわからない返しの前に、私の疑問は門前払いをされてしまった。

 そんな私に対して、加代ちゃんは不敵に笑いながら「リンちゃん、申し訳ないけど、顔を洗っても良いかな?」と普段通りの口調で言う。

 これ以上は何も言ってくれないというのを感じ取った私は諦めて洗面台を譲ることにした。

「ど、どうぞ」

「ありがと」

 一歩前に出て、蛇口を捻った加代ちゃんを見ながら、いろいろ諦めを付けた私は、洗面所の収納からタオルを取り出す。

 ポタポタと水滴を垂らしながら蛇口を閉めた加代ちゃんの手に、私は「はい、加代ちゃん」と言いつつタオルを手渡した。

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