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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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具現

「どうした!?」

 ホームルームのために教室にやってきた綾川先生が、私の周りの騒然とした状況に気付いて駆け寄ってきた。

 その瞬間、タイミングの良いことに、私の頭に纏わり付いていたモヤが散ったので、急いで球魂を戻して、身体を掌握する。

「だ、大丈夫です。ちょっと、クラッときただけというか……」

 身体を起こしながらそういったものの、私に向けられる目は心配そうなものばかりだった。

 身を守るために球魂を身体から切り離しただけであって、体調が悪いワケでないので、向けられる眼差しがもうしわくて仕方が無い。

 周囲を更に見れば、やや離れた場所から、史ちゃんや委員長たちも心配そうにこちらを見てくれていた。

 綾川先生は私の目の前に指を一本立てて「何本に見える?」と尋ねてきたので、素直に「一本、右手の人差し指です」と答える。

 綾川先生は「ちょっと、触るぞ」と宣言してから、私の額に手を当てた。

 おでこから伝わってくる久川先生の体温は私よりも暖かくて心地良い。

「熱があるわけでも無いか……林田は……」

 何か次の問いを口に仕掛けた綾川先生は、周囲に渡辺君や矢野君と言った男子がいるのを確認したらしく、発言を止めた。

 それだけで続けようとした言葉はなんとなく想像が出来たが、折角綾川先生が気を遣ってくれたのに、自ら踏み込んでいくのもどうかと思ったので、軽く首を左右に振ってみる。

 綾川先生にちゃんと伝わったかはわからないが、「鈴木……幸子」と振り返りながら二人いる鈴木さんの内の一人を呼んだ。

「は、はい」

 慌てた様子で、ボブカットに眼鏡の女子、鈴木幸子さんが駆け寄ってくる。

「林田を保健室まで連れて行ってくれ」

「わ、わかりました」

 頷いた幸子さんの手を止めるようにして、お百合が「待って、幸子、あたしが連れて行くよ。あたしの方が身長も力もあるし」と言いながら私の肩に手を回してきた。

 幸子さんはどうしたら良いのかと言った表情で綾川先生に視線を向ける。

 綾川先生は即断して「確かに、中本の方が力はあるな……じゃあ、任した……それと、幸子は保健委員としてついて言って、手続きを頼む」と指示を出した。

「任せてくれよ」

 綾川先生にそう言って笑顔を見せたお百合は「よし、立てるか?」と声を掛けて私の身体を支えてくれる。

 ゆっくりと立ち上がったところで、幸子さんが綾川先生に「それじゃあ、行ってきます」と告げた。

 私はお百合に支えながら「皆ありがとう。心配掛けてごめんね」ともの凄く申し訳ない気持ちで伝える。

 そんな私に、綾川先生は「弱ってたり、調子が悪いときは素直に周りに頼れ……その代わり、お前が元気なときは弱ったり調子が悪い奴を助けてやれ」と優しい笑みを見せた。


「林田凛花さん……午前中も来てたけど……」

 ベッドに寝かされた私の横で、幸子さんが保険医の先生に、簡単な状況説明をしてくれていた。

 お百合は報告も兼ねて、私がベッドに寝たところですぐに教室に戻ってくれている。

 私はベッドで横になりながら、皆に申し訳ないと思いつつも、自分の中の変化を確認することにした。

 特に、あの得体の知れないモヤの影響を受けてであろう記憶を中心に確かめてみる。

 まずは記憶の濃度が球魂を切り離す前後でかなり違っていた。

 薄らと男子と一緒に掃除をしていたようなと言う朧気だった記憶が、一緒に椅子を上げてその下を掃いたり、軽く話をしながらテーブルをぞうきんで拭いたりしていたという具体的ではっきりしたものに変わっている。

 余りにもでティールが細かくて、球魂の切り離しを間に挟んでいなかったら、違和感を抱くこと無く記憶をすり替えられていたはずだ。

 改めて、自分が油断の出来ない状況に置かれていることを自覚した私は、早速、必要なものを具現化することにする。

 京一お父さんと身体が別れたことで、ネルギーを神世界から引き出す能力は、私にはほぼ残っていなかったのだけど、この二年で小さなアクセサリーを具現化する程度の力は引き出せるようになっていた。

 具現化するアイテムは学校で持っていてもおかしくないもので、身に付けるもの……そう考えて思い浮かんだ髪を結ぶ髪ゴムをベッドに寝たまま、毛布の下で具現化する。

 左腕にブレスレットのように手首に通した状態で出現させた髪ゴムには、さっきのモヤからの記憶書き換えを防ぐような機能を追加してみた。

 もちろん、私の想定をモヤの方が上回ってくるかもしれないけど、何もしないよりは言い筈だし、少なくとも何かをしたと思えるのは、多少の安心感を抱かせてくれる。

 そんなどちらかと言えば気休めのような道具の具現化だったのだけど、手首にに出現した髪ゴムの感触がした瞬間、想定外の事態が起こった。

『主様っ!? 主様! 聞こえるかの!?』

 突然頭に響くように聞こえてきたキツネのヴァイアであるリンリン様(本物)の声に、思わず声を漏らしそうになった私は慌てて口を押さえるように手で覆う。

 私の寝るベッドと、保険医の先生と幸子さんが話しているエリアの間にはカーテンが引かれているので、こちらの状況は見られていないはずだ。

 それでも、軽く視線を向けて、動きが無いことを確認してから、繰り返す私を呼びリンリン様に応える。

『リンリン様、とりあえず、落ち着いて貰えますか?』

 私の返しに、少し長めの沈黙を挟んだ後で『わ、わらわは常に落ち着いておる。主様はおかしなことを言うものじゃな』といつものすました声で返してきて、噴き出しそうになった。

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