決着の時
このまま史ちゃんが勝ってしまうんじゃないかと思っていたババ抜きも、カードの追加や手札の交換などが上手く作用して……というべきか、意地悪に効果を発揮してというべきか、なかなか勝者の決まらない混戦へと突入してしまった。
そんな混戦を経て、一位を獲得したのは加代ちゃんである。
同じ順に、まどか先輩も上がり、二人はそれぞれ一組目と三組目を選んだ。
価値があるかはともかく、商品扱いの私の入浴順は一組目と一緒なので、加代ちゃんが私を選んでくれたとも言える。
まあ、単純に最初の組が良かっただけかもしれないけど、錯覚でも取りあってくれているのは嬉しいので、確認せずにうぬぼれることにした。
「いやぁ、なかなか決まらないものだね」
観戦モードとなったまどか先輩の感想に、加代ちゃんは「皆真剣ですからね」とカードを手ににらめっこしている面々を見た。
カードの残り枚数は千夏ちゃんが三枚で、残る三人が二枚ずつ持っている。
サイコロを振ったばかりなので、お姉ちゃんがまず千夏ちゃんのカードを引いた。
引いたカードを裏返して、チラリと確認したお姉ちゃんは「揃わなかったわ」と左右に首を振る。
続いて千夏ちゃんが史ちゃんのカードを引いた。
直後、手に下カードを見て、千夏ちゃんは「うぐぅ」と声を漏らす。
白熱しているせいか、明らかにJOKERを引いたように見える反応だけど、千夏ちゃんは演技が上手いのでそう見せているだけかも知れなかった。
一方カードを引かれた史ちゃんはポーカーフェイスなので、疑惑が疑惑のまま、推理する情報が増えない。
ここで、ユミリンが挑発気味に「あら、千夏さん、JOKERが戻ってきてしまったのかしら?」と質問をぶつけた。
それに対して千夏ちゃんは俯いたまま「そ、想像にお任せするわ」と返す。
それぞれの手札を知らないので、実際がどうかはわからないが、純粋に受け取れば、千夏ちゃんが引いてしまって、それを嗅ぎつけたユミリンが仕掛けたというのが一番状況にマッチしているように見えた。
ただ、千夏ちゃんが演技をしている可能性もあるし、お姉ちゃんと史ちゃんは平然としているので、情報が乏しく判断が付かない。
自分たちがプレイしているわけじゃ無いのに、当事者のような緊迫感に、思わずゴクリと喉が鳴った。
なぜか、千夏ちゃんとユミリンがそれぞれ上目遣いと見下ろし目線でにらみ合ってしばらく、史ちゃんが静かな口調で「あの、引いてもよろしいでしょうか?」と問い掛けた。
その声で我に返ったのか、ユミリンは「あ、ゴメン、フミフミ」と言って自分のカードを、史ちゃんの方に向ける。
史ちゃんは、自分のカードを向けられた瞬間、何の躊躇も無く一枚を引き抜いて、直後、カードを開いた。
「上がりました、一組でお願いします」
ペコリと頭を下げて再び史ちゃんが頭を上げた瞬間、残る三人が表情を凍らせる。
一方、一拍遅れて状況を理解したまどか先輩はお腹を抱えて笑い出した。
直前の千夏ちゃんとユミリンの睨み合いが、もの凄く周囲の空気を巻き込むものだったせいか、史ちゃんによって決着が付いてしまった後は、火が消えたように静かになってしまった。
気が抜けてしまった三人のテンションに引かれてか、私のサイコロ目は『4』反対回りという面白みがないものが出て、最終ラウンドに突入するなり、お姉ちゃんがペアを引き当てる。
次いで、千夏ちゃんからカードを引いたユミリンはペアを作れず、千夏ちゃんがお姉ちゃんのカードを引いて手札が無くなったお姉ちゃんが抜けるという形で第四位が決まった。
四位を獲得したお姉ちゃんは「じゃあ、三組目で」とまどか先輩と一緒に入浴することにして、結果、残る千夏ちゃんとユミリンが二組目に収まることが決まってしまう。
それは当然プレイヤーの二人もわかったようで、二人揃ってガクッと肩を落とした。
もの凄く哀愁を感じる二人の背中に「えーと、そのぉ……決着付ける?」と聞いてみる。
二人は私の問い掛けに、ゆっくりと顔を上げ、目の前の対戦者と視線を交わし合った。
ややあって二人は大きく溜め息を吐き出してから、お互いのカードをオープンする。
「JOKER持ってるし、私の負けで良いよ」
千夏ちゃんの言葉に、ユミリンは首を振って「いや、千夏とはちゃんと決着を付けるから引き分けで」と返した。
このユミリンの言葉に、千夏ちゃんは「由美さんが良いなら、それで良いわ」と素直に受け入れる。
ある種ライバル関係みたいな二人だからか、戦うならきっちり決着を付けたいと思うのかもしれないなと思った私は、心のどこかでちょっと羨ましく思ってしまった。
競い合う相手というか、対等と思い競い合える友人なんてそう簡単に得られるものではない。
二人の本心はわからないけど、ユミリンも千夏ちゃんもそんな風に相手を思っているんじゃ無いかと思うと、自然と口元が緩んだ。
直後、千夏ちゃんがこちらを見て「なに、凛花ちゃん?」と複雑な表情で問うてくる。
次いで私の考えてることを察しているのであろうユミリンも、どこか恥ずかしいのを誤魔化すような態度で「何か言いたいことがあるの、リンリン?」と聞いてきた。
私は二人にニッと笑ってから人差し指を唇に当てる。
それから「秘密」と答えた。