発祥と連鎖
「まどか先輩、生地にも詳しいんですね」
感心した私は、思わずお姉ちゃんを見てしまった。
「ちっ、違うわよ、凛花。お姉ちゃんは知らないわけじゃ無いのよ!」
もの凄く強く訴えてくるので、私は勢いに飲まれて「うん」と頷かされてしまう。
ただ、それだけではお姉ちゃんは気持ちが落ち着かなかったようだったので、私なりに「生地そのものを知っていても、生地の名前までは知らないこともあるよね。日本と海外で呼び方が違う物もあるしね」とフォローしてみた。
効果があるかは不明だったものの、お姉ちゃんには響いたようで、我が意を得たりと言いたげな顔で「そうなのよ!」と大きく頷いてくれる。
「それで、そのサテンってどんな生地なのか……聞いてもいいかな?」
おずおずと手を挙げた千夏ちゃんの問いを受けて、私はまどか先輩と知っていそうな加代ちゃんを見た。
二人とも説明を買って出てくれるような感じでは無かったので、私は「えっと、確か日本では繻子って呼ばれている生地で、中国発祥の生地だったかな」と記憶にある情報を口にして見る。
リーちゃんから注釈が入らなかったので、多分正しい筈だ。
「へぇ、そうなんだ」
意外にもまどか先輩が、そう口にしたので、私は「え?」と驚きで声が飛び出る。
私の反応を見たまどか先輩は「いや、てっきりヨーロッパ発祥の生地かと思ってた」と苦笑した。
「あー。確かに名前がどこかヨーロッパぽいかも」
そう言って頷くと、まどか先輩は嬉しそうに「でしょ?」とウィンクしてみせる。
自然とこなせるのも様になるのも、凄いなと思いつつ、少し頬が熱くなってしまったので、誤魔化すように知っている知識を言い重ねた。
「そ、それで、ですね。特徴はなんと言っても光沢のある生地ですね。絹糸で作られていて滑らかな肌触りなんですよ」
私の発言に、今度は加代ちゃんが「え、絹ってことはシルクなんだ」と少し驚いた表情を見せる。
その上で「てっきり化繊かと思ってたよ」と、加代ちゃんは頬を掻いた。
「あ、えっと、今は化繊で作られているモノもあるよ……というか、生地屋さんで売ってるのは化繊の方が多いんじゃ無いかなぁ」
加代ちゃんが誤解してしまう前に、私は『絹』なのは発祥したときの話で、今は違う素材でも光沢のある生地をそう呼んでいることを補足する。
「そもそも縫い方……織り方かな。その名前なんだよ」
私がそう結ぶと、加代ちゃんがパチパチと拍手をし始めた。
「え?」
「スゴイよ、リンちゃん。こんなに詳しかったなんて!」
もの凄くテンションが上がる加代ちゃんに続いて、史ちゃんが「凛花様! 私も生地についても勉強しようと思います!」と、何故そうなったのかわからない結論を口走る。
「生地には詳しくならなくても良いと思うけど……」
思わずそう返すと、史ちゃんは「凛花様の知っていることは私も知っておきたいのです!」と断言した。
「そう、なんだね。無理はしないでね」
「はいっ! 頑張ります!」
満面の笑顔で言う史ちゃんに頷きで応える。
正直、それ以上のアクションが出来なかったというのもあるけど、熱量がちょっと怖かった反面、私を知ってくれようとするのが、少し嬉しかった。
「それで、凛花は衣装作りとかにも興味があるの?」
お姉ちゃんがそう尋ねてきたので、私は何も考えずに「うん」と頷いていた。
緋馬織の時に、皆で魔女衣装の再現をした時は楽しかったし、そもそも何かを作ること自体は好きなので、服作りも興味がある。
むしろ、自分が着ることにならないなら、いくらでも没頭したいくらいだ。
「お、いいね。衣装作りは、劇には欠かせないからね。いつでも人員募集中だよ」
まどか先輩が「特に、小夜子が泣いて喜びそうだ」と言う。
「えっと、小夜子って……春日副部長……でしたっけ?」
記憶を辿ってそう尋ねると、まどか先輩は「そうそう」と大きく頷いた。
「私は服飾に興味があるので、衣装作りに参加させて貰えたら嬉しいですし、任せて貰えたら頑張ろうとは思いますが、そんなに腕前があるわけでも無いですから、春日副部長がそんなに喜ぶとは思えないんですけど……」
思ったままを言葉にすると、まどか先輩は「いやいや」と左右に首を振る。
「君はとんでもない勘違いをしているよ」
「勘違いですか?」
「いや、むしろ、考えが至っていない感じかな」
なんだか勿体ぶった言い方をするまどか先輩に、私は「どういうことです?」と思い切って聞いてみた。
すると指を一本立てたまどか先輩は「姫が服作りをしたいという」と口にする。
私が瞬きをしている間に、二本目の指が立ち上がった。
「すると、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃん、もしかしたらユミ吉や良枝も、服飾班に参加したがる。皆姫が大好きだからね」
かなりぶっ飛んだ意見ながら、否定も出来ない。
というか、あり得そうだなと思ってしまった。
そのうちに三本目が立てられ、まどか先輩は「すると、衣装班が増強されて、小夜子が喜ぶ」と続ける。
それを聞かされた私は思わず「なるほど」と頷いた。