表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
182/446

言い訳と発展

「なんだ。ウェディングドレス姿を想像しただけなんだ」

 がっかりしたようにお姉ちゃんは溜め息を吐き出した。

「ど、ドレスとか、思い浮かべるの、は、恥ずかしいかなと思って……」

 リーちゃんが言い訳として提案してくれたのは『東雲先輩を思い浮かべたのでは無く、自分のウェディングドレス姿を思い浮かべたという話』である。

 正直なところ、元の世界でも私が東雲先輩を好きなのは周知の事実なので、知られてもなんともないのだけど、この世界ではそうはいかないのが問題だった。

 何しろ、この世界には東雲先輩がいないのである。

 いない人が好きだという話は無理があるし、ちゃんと説明するには私がこことは違う世界からやって来ていることも説明しなければならないわけで、まだ『種』の本体を絞り込めていない現状では、それを明かすのは危険だと、私だけでなくリーちゃんも考えていた。

 というわけで、この時代の芸能人に憧れてるという逃げ道も考えたのだけど、残念ながら私の頭の中にその手の知識が存在していない。

 リーちゃんに情報を引き出して貰って演技するのは出来るかもしれないが、情熱を込めることが出来る気がしなかった。

 もちろん、東雲先輩の良さならいつまでも語れる自信はあるのだけど、演技でその境地には至れない。

 そこで、リーちゃんのアイデアが、自分のウェディングドレス姿の想像だった。

 相手もいないのに、自分がドレスを着ている姿を想像するなんて、夢見る乙女過ぎて、もの凄く恥ずかしい。

 当初は東雲先輩を思い浮かべてだったけど、今はウェディングドレス姿を妄想してしまったと、皆に思われていることが恥ずかしくて仕方ないにスライドできた。

 お陰で、ボロは出ないとは思うけど、興味津々といった表情で私を見るお姉ちゃんの様子からして、そう簡単に終わりに辿り着けない気がしてならない。

 そんな事を思っているとあっ即とばかり、お姉ちゃんの質問が飛んできた。

「それでぇ、凛花ちゃんはぁ。どんなドレスが着たいのぉ?」

 普段とは違う間延びした言い方に、お姉ちゃんの何かが狂ってしまったのを自覚しながら、自分が可愛いと思うドレスを思い浮かべた。

 リーちゃんの作戦成功と言うべきか、ただそれだけなのに、自分が着たいと思われているのだと思うと、多少冷めていた熱が戻ってくる。

「や、やっぱり、あ、足下が隠れるくらいの丈だと良いかな……」

 表情がぎこちなく歪むのを感じながら、私はどうにかそれだけ答えることに成功した。


 何故か、私が参加していないのに、ウェディングドレスのイメージは膨らんでしまっていた。

 当然ながらそんな予定はまるでないのに、既に何度かお色直しをするという案まで進んでいる。

 まあ、楽しそうだから良いんだけど、自分のものじゃ無くて、私のウェディングドレスの話でここまで盛り上がれる理由がよくわからなかった。

 ただ、緋馬織にいたころにファッションショーと称した人間着せ替え人形みたいな遊びをしていたけど、その延長なのかもしれない。

「黄色のシンプルなドレスでも、凛花ちゃんには似合うと思うんです」

 千夏ちゃんの力説に、お姉ちゃんは「そうね。黄色も可愛いわよね」と大きく頷いた。

 これに、史ちゃんが「でも、そのドレスだと野獣さんと結婚するお話しを思い出しますね」と言う。

 元の時代ではお姫様もいろんなタイプがいたし、可愛らしい衣装で戦う魔法少女もいたので、ドレスのイメージの出所はいろいろあったけど、この時代ではまだお伽噺や童話の挿絵に出てくるヒロインに限られているようだった。

 既に、魔女っ子と呼ばれる魔法少女はいるみたいだけど、その衣装は普段着に近いので、ドレスのイメージとしては思い浮かばないらしい。

 白雪姫や眠り姫、親指姫と、私でも知っている物語のタイトルが飛び交っていた。

 沈黙を守り、沈静化を待っていたのだけど、それを加代ちゃんに気付かれてしまう。

「リンちゃんのドレスの話だから、リンちゃんが着たいドレスを提案してみないの? スカート丈が長い意外にも何かあるでしょ?」

 純粋な目で私を見ながら尋ねてくる加代ちゃんに、悪気はまるで感じられなかった。

 むしろ、勢いに飲まれて発言できてないのではと気遣ってくれたように思う。

 実際は息を潜めていただけなのだけど、良くも悪くもそこまでは伝わってはいなかったようだ。

「え、えっと……」

 どう返そうかと思っている間に、盛り上がっていたお姉ちゃん、千夏ちゃん、史ちゃんが会話を止め、私に揃って視線を向けてくる。

 何か、言わねばいけないという空気に、私は「そ、それ以上に、何かは思い付かないけど、さ、サテン! そうサテンみたいな生地が良いかも!」とどうにかそれらしい発言をすることに成功した。

 頑張って絞り出した『サテン』という生地の種類は、お姉ちゃん、千夏ちゃん、史ちゃんにはピンとこなかったようで、三人は顔を見合わせている。

 が、ここで、まどか先輩が「ああ、光沢のあるドレスは良いよね。ウェディングドレスにも向いてるね」と言って微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ