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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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ファーストステップ

「史ちゃんは?」

 千夏ちゃんが今度は逆に経験を問うと、史ちゃんは「全くないです」と返した。

 その横で軽く手を挙げた加代ちゃんが「私もないかなー」と言う。

 視線が私に向いたので「ダンス教室とか、バレエ教室とか、そういったところでレッスンを受けたことは無いよ……経験としては運動会のダンスくらい?」と答えた。

「あったね、運動会のダンス……でも、五年生とか、盆踊りだったっけ?」

 私の答えに、加代ちゃんが苦笑気味に反応する。

「加代……盆踊りじゃ無くて、花笠音頭だよ」

 史ちゃんは残念なモノを見るような目線で、加代ちゃんの発言を訂正した。

「似たようなもんでしょ?」

 少し慌てた様子の加代ちゃんの発言に、苦笑を浮かべた千夏ちゃんが「ユミ吉並の雑さですよ、それ」と指摘する。

「うぐっ」

 なんだか引き合いに出されたユミリンが可哀想な気がするけど、雑と評されて、加代ちゃんはそれなりのショックを受けていた。

「ま、まあ、花笠踊りも盆踊りも夏の風物詩だし、場所によっては、花笠音頭も盆踊りで踊られたりもするからあながち間違ってもいないよ」

 加代ちゃんが可哀想に思えて、フォローになっているようななっていないような微妙なフォローを入れる。

 状況もあってか、加代ちゃんは「リンちゃん!」と名を呼びながら抱き付いてきた。

「あ、ずるっ!」

「ちょ、ちょっと、加代、凛花様に抱き付くなって、うらやま……ズル……良くないわよ!」

 抱き付いてきた加代ちゃんを受け止めるのに集中してしまって、千夏ちゃんと史ちゃんから飛び出た言葉をしっかりと聞き取れなかった私は、とりあえず「まあ、まあ、今はダンスの話をしましょう」と提案する。

「り、凛花ちゃんが、そう言うなら」

「そう、ですね……ダンスの話に戻りましょう」

 千夏ちゃんと史ちゃんは、心からと言うよりは不承不承と入った風ではあるものの、提案を受け入れてくれた。


「じゃあ、四人ともちゃんとした指導は受けてない……体育の授業くらいって感じね」

 千夏ちゃんのまとめに、私たちはほぼ同じタイミングで頷いた。

「本番は文化祭だから、振り付けとか、そういったモノは考えないで基本のステップを踏む練習をしましょう」

 特に異論も無かったので、三人揃って千夏ちゃんの提案に頷く。

「はい、千夏先生」

 ここで加代ちゃんが手を挙げた。

「はい、加代ちゃん」

 千夏ちゃんに指名された加代ちゃんは「えっと、基本のステップって何ですか?」と自分の疑問を素直に言葉に出す。

 大きく頷いた千夏ちゃんは「ダンスにはいろんな種類があるでしょ?」と尋ねて来た。

 私たちが頷くと、千夏ちゃんは「その中で意外と使われることが多いのがボックスステップなのよ」と続ける。

「あれだよね。四角を描くように足を置くステップ」

 千夏ちゃんは、私の発言に「そう、さすが凛花ちゃん」とニッと微笑んだ。

「さすがって程じゃ無いよ。確か習った記憶があるし」

 私の知識の基礎となる元の世界とこの世界ではカリキュラムが違うので、皆が習っているかわからなかったのだけど、三人とは出身小学校が違うので、うちではそうだったで押し切れると思って踏み込んでみたのだけど、どうにか成功をつかみ取れたらしい。

 加代ちゃんが「たしかに、なんか習ったような……」と両手の人差し指でそれぞれのこめかみを押さえながら唸った。

 史ちゃんもうろ覚えだったようで「確かに、私も習ったような気がします」と言う。

「けど、しっかりとは覚えてないです」

 そう続けた史ちゃんに、千夏ちゃんは「実際にやってみたら思い出すんじゃ無いかな」と明るく提案した。

「確かに、遣ってみると思い出したりするね」

 ベンチから立ち上がりながら私がそう言うと、千夏ちゃんも大きく頷いて同意してくれる。

 顔を見合わせた史ちゃんと加代ちゃんも、とりあえずやってみようの方針は受け入れてくれたようで、やる気の籠もった表情で立ち上がった。


「じゃあ、言い出した私が解説するから、凛花ちゃんステップ踏んでみて」

「えっ!? 私?」

 まさか指名されるとは思っていなかったので、思ったより大きな声が出てしまった。

「ステップ踏みながら説明なんて器用なことする自信が無くて」

 申し訳なさそうに頬を掻かれてしまっては、千夏ちゃんに無理をさせる気にはならない。

「それにほら、凛花ちゃんスカート短いから、足の動きが見やすいでしょ」

 そう言われて足下を指さされてしまい、私は思わず視線を皆の足下が見れる一に下げた。

 確かに、足の肌色は私が一番見えている。

 こうなってくると、私が適任に思えてしまって、大人しく受け入れることにした。

「じゃあ、多分、大丈夫だと思うけど、おかしかったら言ってね?」

 私がそう言うと、千夏ちゃんは「うん」と笑顔で頷く。

 一方、そんな会話をしている間に、私の目の前に史ちゃんがしゃがみ込んでいた。

「史ちゃん? 何をしてるの?」

 私の問い掛けに、史ちゃんはしゃがんだままこちらを見上げて「足の動きを見るなら、視線を近づけないとと思いまして」と平然と答える。

「あ、そうだね」

 そう言って史ちゃんの発言に納得してしまった加代ちゃんまでもが、私の前でしゃがみ込んでしまった。

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