食後の運動
「ふーー、満腹、満腹。余は満足じゃーー」
お腹をさすりながらソファに深く身を沈めたユミリンは、申し訳ないけど、おじさんのように見えた。
どうもそう感じたのは私だけではなかったようで、千夏ちゃんが「あんた、おじさんみたいね」と躊躇無く指摘する。
てっきりユミリンは食ってかかるかと思ったのだけど、ヒラヒラと手を振って「オヂサン女子だから、仕方ないねー」とあっさりと受け入れた。
千夏ちゃんも、ユミリンの対応に一瞬戸惑ったようだけど、すぐに「なに、オヂサン女子って」とジト目を向ける。
「別に何のひねりも無い。オヂサンみたいな女子って意味だけど?」
「いや、あんた、それで良いの?」
切れた様子で尋ねてくる千夏ちゃんに、ユミリンは「それで良い?」と何を聞かれているのかわからないと入った様子で首を傾げた。
「一応女の子として思うところは無いわけ?」
改めてそう尋ねた千夏ちゃんに、ユミリンは「ああ」と、聞きたいことがわかった様子で頷く。
その上で何故か深刻なことでも話しそうな真面目な表情と声のトーンで「チー坊」と声を掛けた。
千夏ちゃんは、ユミリンの醸し出す雰囲気に警戒を見せながら「何よ」と返す。
「身近に、良枝お姉ちゃんや、更にはリンリンがいるんだぞ。自分に女の子らしさは向いてないと悟るには十分な環境だと思うだろ?」
急に名前を出されたのには確かに驚いたけど、お姉ちゃんは確かに女子力が高いので、ユミリンが自分には無理だと思ってしまっても仕方ないと思ってしまった。
「そ、れ……は……」
内容が内容だけに、流石の千夏ちゃんもユミリンが相手であっても、答えを躊躇ったらしい。
けど、ユミリンは「まあ、にあわないから悲しいってコトじゃ無いから、気にするな、チー坊に変に同情されると、調子が狂う」と苦笑しながら言い放った。
「な、なによ、気を遣って上げたのに!」
強気な口ぶりではあるものの、千夏ちゃんの言葉にはいつものキレがない。
やっぱり、お母さんの言っていた通り、ネコとネズミのアニメと同じようなじゃれ合いだからこそ、やり過ぎないように二人なりに気を遣い合ってるんだなぁと妙に納得してしまった。
おやつタイムも終わり、私たちは近くの大きめな公園に来ていた。
まどか先輩が日課のランニングに行くというので、皆で一緒に出てきたのである。
とはいえ、普段からランニングをしているまどか先輩と共に走るのはハードルが高く、自然と二班に分かれることになった。
それなりのペースでランニングをするまどか先輩、お姉ちゃん、そしてユミリンのチームと、マイペースで歩く残る四人のチームである。
一応、最後まで千夏ちゃんはどっちのチームに入るか悩んでいたのだけど、意外なことにユミリンの言葉で私たち側に入ることを決断した。
三人を守るのは千夏ちゃんだと、ユミリンに指名されたのである。
押し付けないでと反発するかと思ったけど、千夏ちゃんは逆にまどか先輩とお姉ちゃんを任せると返していた。
ユミリンもそれを快諾して、なんだか妙に息の合った姿を見せる二人は、やっぱり仲が良いんだと思う。
ランニング組の三人は皆学校の体操服姿に着替えていて、ちゃんと運動靴を履いていた。
流石に体育の授業ではないし、これから日が暮れていく時間でもあるので、三人はブルマの上に学校のジャージを履いている。
まどか先輩はちゃんと家から持ってきていたし、お姉ちゃんは自宅にいたし、ユミリンの家は隣なので、着替えもすぐに終えた。
千夏ちゃんがこっちに参加してくれたのは、家が少し離れていて体操服を持ってきていなかったのも一因じゃ無いかと思う。
そんなわけで、私たちも同じコースを散歩しながら、時折追い抜いていくお姉ちゃん達に声援を送りながら、おやつで一杯だったお腹をすかせることに従事した。
一周歩き終えた私たちは、入口付近の外灯の下にあるベンチの前で三人のランニングの終わりを待っていた。
「まだ、ちょっと、周回にかかるみたいだね」
通り抜けていったお姉ちゃん達三人から残り周回数を聞いた千夏ちゃんが報告してくれる。
「そっか、それじゃあ、どうしようか?」
私はこのまま座ってるのも良いかなと思ったのだけど、他の三人がどうかわからないので、そう問い掛けてみた。
「うーん、私はもう一周しても良いですよ」
史ちゃんの答えに、加代ちゃんが「お散歩、同じコースを回るの?」と目を瞬かせる。
確かにランニングと違って、お散歩となると同じコースを周回するのは、ちょっと変な感じがするかなとおもった。
すると、千夏ちゃんが「じゃあ、ちょっと踊ってみる?」と提案する。
「文化祭でステージ煮立つんでしょ?」
そう聞かれた私は「委員長が乗り気だし、たぶん」と頷くと、千夏ちゃんは「なら、お試しで」と笑みを浮かべた。
史ちゃんが「千夏ちゃんはダンスの経験があるんですか?」と問う。
千夏ちゃんは「ダンスのある舞台もあるからね。見よう見まねだけど、少しは出来るよ」と答えた。