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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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考察と癒やし

『私と同じミスをした?』

 リーちゃんは私の問い掛けに、少し考える間を置いてから『現時点では判断は付かぬのじゃ』と返してきた。

『濃厚……じゃない? 元々、種の可能性は高かったわけだし……』

 自分から黒モヤが出ていたのを見てしまった後だけに、自分が焦っているのがわかる。

 ひょっとしたらユミリンに全てを押し付けたいと、思っている気がしてきて、自分に対する嫌悪感が溢れてきた。

 そんな心境も察して入るであろうリーちゃんは『少なくとも自分の考えに疑問を持って、罪悪感を抱ける主様は、それほど嫌な人間では無いと思うのじゃ』とフォローしてくれる。

 お陰で、少し考えに余裕が出来、リーちゃんが判断しかねている理由に意識が向いた。

『ねえ、リーちゃんが判断できない理由を聞いてもいい?』

 私がそう切り出すと、リーちゃんは『まず……元の世界の情報を持っている可能性はかなり高い……その精度が高まったのは間違いないのじゃ』と前提として、ユミリンの発言が彼女の思考のベースになる常識が、この時代では無く、ここから見て未来の、元々の世界のものである可能性は高い。

 ここは私も思っていることなので、否は無かった。

『問題は自覚があるようには見えなかったことじゃ』

『自覚がない?』

 私の問いに対して、リーちゃんは『思い返してほしいのじゃが、主様はテンションの一件で、自分がミスを犯したことに気付いて強張ったじゃろう?』と返してくる。

 認めたくないという思いが少しちらついたものの、ここで否定しても話は進まないので『うん』とだけ答えて、覚えていることを伝えた。

『思考が覗けているわけではないので、観察していて感じ取ったことではあるが、先ほどの『裏技』の発言について、少なくともあの娘には『ミスをした』という意識が無かったように見えたのじゃ』

 リーちゃんはそこで一拍置いてから『ツッコまれたときも自然と、説明をしておったし、アレが演技だとは思えなかったのじゃ』と続ける。

『演技じゃ無い?』

 何故そう言い切れるのかという意味で思い浮かべた問いに、リーちゃんは『主様の姉上、まどか、千夏といった演技者は、演技であるが故に目的、あるいは目標のような意図を感じるのじゃが、あの娘にそれはなかった』と説明してくれた。

 ただ、その内容から私の導き出した結論は酷い物だったので、訂正してほしいなと思いつつ『ユミリンは何も考えてないってこと?』と聞いてみる。

 リーちゃんは『どちらかと言えば、反射に近しく思えたのじゃ』と見解を伝えてくれた。

『反射?』

『聞かれたから、答えたという感じじゃの。そこに、なにがしかの印象を残したいといった意図や、こんなキャラクターにみせたいというような意図が感じられなかったという事じゃな』

 ここまで説明して貰えば、私にもはっきりと理解できる。

 つまり、ユミリンは『裏技』と言う言葉を使ったことに疑問を抱いたり、まして、この時代では使っていない言葉だと気付いていないし、そんな自分が生み出した違和を払拭するような動きは見せなかった……ということだ。


『可能性の話で言えばじゃが……あの由美子も主様同様、元の世界から巻き込まれて紛れ込んだ存在ではないかという考え方も出てきたと思うておる』

 リーちゃんの見解に、私は言葉を失った。

 ユミリンが加害者候補から被害者になるとなると、より状況は複雑化するのは間違いない。

 いや、冷静に考えれば、身体から黒モヤを吐き出している、私の方が『種』に近いんじゃ無いかと思えてきた。

 すると、リーちゃんが『……どちらかと言いえば、主様の言う通りじゃな』と同意する。

 ユミリンを疑い続けるよりは遙かに気持ちの上では楽だけど、自分が種と繋がりがあると考えると、今後の立ち振る舞いをどうすればいいのかという問題が出てきた。

『主様』

 私がどうしようかと思っていると、リーちゃんの方から声がかかる。

『何、リーちゃん?』

『主様の思考が筒抜けになっている可能性は否定できぬ……がじゃ、対抗策が無いのじゃ……よって、考えても仕方が無いと開き直るしか無いのう』

 私の思考をきっちりと予測した上で、リーちゃんはそう結論づけた。

 この世界の『種』の意図が見えない以上、やはり受け身になるのは仕方が無い。

 加えて、元の世界とは時間の進みがまるで違う現状で、相談する相手もリーちゃんとお母さんの他にいないのだ。

 更に更に、種に寄ってか、この世界のルールでかはわからないけど、記憶や思考だってコントロールされてしまう可能性がある。

 一方で、世界は平和なわけで、どう考えても身を任せる以外の選択肢がないように思えてきた。

 それはリーちゃんも同じだったようで、不承不承といった雰囲気ではあるものの『まあ、そうなるの……』と結ぶ。

 私はその結論を持ってこれ以上の考察は無駄だと諦め、加代ちゃんたちが用意してくれたホットケーキの第二形態に挑むことにした。

 加代ちゃんとユミリンによって泡立てられた生クリームと、千夏ちゃん推薦の白桃が挟まれたホットケーキをほおばる。

 甘さ控えめのクリームに桃の缶詰だからこそのシャキッとした食感、そしてほんのり甘いホットケーキの甘みが、思考で披露した脳を優しく癒やしてくれた。

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