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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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同族嫌悪

「大丈夫よ、加代ちゃん、壊しても構わないから、むしろ変に緊張している方が、余計な力が入ってしまって壊してしまうわよ?」

 お母さんの言葉に、加代ちゃんは「そ、それも……そうですね……」と硬直をほんの少しだけ解いた。

「加代ちゃん、硬い、硬い、ほら、敬語になってるわ」

 お母さんはそう言いながら加代ちゃんの肩を揉む。

「わっ」

 最初こそ驚いたように声を上げた加代ちゃんだったけど、どうやら心地良かったようで、肩を揉まれるうちに、お母さんに身を任せてリラックスした表情を見せ始めた。

「どうかしら、気持ちは落ち着いてきたかしら?」

 柔らかな声で囁きかけるお母さんに、加代ちゃんは「はい……気持ちいいです」と返す。

 私は正直、肩を揉まれるとくすぐったくてしょうがなくなるので、加代ちゃんの感覚は理解できそうに無かった。

 でも、そのリラックスしきった表情を見ていると、体感したくなってくる。

 それが顔に出ていたのか、はたまた嗅覚が優れているのか、千夏ちゃんから「凛花ちゃん、私が肩を揉んで上げようか?」という問いが飛んできた。

「えっ!?」

 思わず身体を引いてしまった私は「首の周り触られるの、くすぐったくてダメだから、き、気持ちだけ貰っておくよ!」とかなり口早に答える。

「え、そうなの、リンリン?」

 ここでユミリンがニヤつきながら会話に入り込んできたので慌てて両手で首を隠しながら「そうだから、触らないで!」と威嚇した。

「え~~」

 不満そうに唇を尖らせるユミリンをチラリと見てから、千夏ちゃんは「あら、ユミさんは、凛花ちゃんが首が苦手なことも知らなかったの?」と挑発を始める。

 本来あるべき過去が無いので、ユミリンの私への認識がどうなっているのかわからず、どんな反応を見せるかわからず身体が強張ってしまった。

 そんな私を他所に、ユミリンは脊髄反射で言い返す。

「リンリンが嫌がることはしない主義なので、少しでも警戒する素振りを見せたら手を出さないようにわきまえているだけですが?」

「あら、ユミさんにしては良い心がけですね!」

「あたりまえだ。親友の嫌がることをするわけないだろ」

 いがみ合っているモノの、それ以上舌戦が続くことは無く、なんとなく決着したようだ。

 ここでまどか先輩が「ほらほら、二人とも、喧嘩してないでホットケーキを頂こう。何なら私が姫特製のホットケーキ食べ切っちゃうよ?」と揶揄うような口ぶりで割って入る。

 直後、にらみ合っていた二人は座っていた席に戻っていった。

「さすが、姫だね」

 二人を見送ったまどか先輩に笑われながらそう言われて、私はもの凄く恥ずかしくなってしまう。

「同じホットケーキなのに、何も変わりませんよ……」

 私の呟きにまどか先輩は「二人にとっては代えがたいモノってことだよ。さっき、アンティークの話をサッちゃんがしてくれたけど、その品物にどういう価値を見出すかは、その人次第ってコトだよ」と言って微笑んだ。

 私は頬が熱くなるのを実感しながら「価値を見出して貰えるのは嬉しいですけど、私焼いただけですからね……正直、恥ずかしいです」と思ったままを口にする。

 対してまどか先輩は「争いを収めることが出来る料理なんてスゴイじゃないか、どっかにそんな神話がありそうだよ」と声を出して笑った。


「私も、凛花様の焼いてくださったホットケーキは格別だと思いました」

 真面目な顔で言う史ちゃんに、くすぐったくなりながらも「言っておくけど史ちゃんと同じ記事、同じホットプレートで焼いたんだからね!」と同じ班だったこともあり強めに指摘した。

「凛花様」

 冷静な様子で私を見詰めながら名前を呼んできた史ちゃんに、私は「なに?」と返す。

「恐らくですが、気持ちの問題だと思います。他ならぬ、凛花様のお手製と思うだけで、もの凄く美味しく感じました。多分、アチラの方々もそうだと思います」

 そう言って史ちゃんは未だ喧嘩状態だからか、背中を向け合って座りながらホットケーキを食べるユミリンと千夏ちゃんを見た。

 仲が良いのか悪いのかどっちだかわからなくなるコンビだけど、案外同族嫌悪なのかもなと思うと妙に腑に落ちる。

 そんな風に意識が二人に向いたからか、感じていた恥ずかしさはかなり薄れてきて、折角だから皆の焼いてくれたパンケーキを味わおうと思った。


 ホットケーキには蜂蜜とバターを載せていたのだけど、焼き上がりから時間が経ったことで少し編めてきてしまった。

 ここで、お母さんが「由美ちゃん、出番よ!」と突然言い出す。

 ユミリンは「了解です!」と返すと、コンコンと音を立てながらフルーツの缶詰を並べだした。

「ミカンに、白桃に、桜桃に、パイナップル……どれ開ける?」

 そう尋ねて来たユミリンに対して、千夏ちゃんが「その果物どうするの?」と首を傾げる。

「ホットケーキに生クリームとサンドして、味変するんだよ」

 サラリと返したユミリンに「あじへん?」と怪訝そうな顔で、千夏ちゃんは首を反対に傾げた。

 対して、ユミリンは得意げに「簡単に言えば、ホットケーキの第二の食べ方、サンドイッチのパン代わりにホットケーキを使って、フルーツサンドにしてしまうわけだ」と笑む。

 ユミリンの返しに味を想像したのか、千夏ちゃんの顔が一気に輝きを増した。

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