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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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突然の窮地

 まどか先輩を含めて、ユミリンやお姉ちゃんもそれぞれ焼き上げたところで、皆でおやつタイムとなった。

 飲物には紅茶と牛乳が用意されている。

 ちなみに、紅茶はお母さんが、茶葉からティーポッドを使って淹れてくれた。

 陶器で出来た紅茶のセットに、加代ちゃんがもの凄く興奮したのは、当然だったのかもしれない。

「サッちゃん手、ホントいろんな道具を持っているんだね!」

 目を輝かせて言う加代ちゃんに。お母さんは「縁があって手元に着たモノだから、機会があれば使ってあげないとと思っているの」と茶器を人なでした。

「ウチのお父さんは、世界各地の歴史を研究する仕事をしているからね。多分それ、イギリスのアンティークだと思うよ」

 お姉ちゃんがそう言いながらお母さんが撫でる茶器を指さすと、加代ちゃんは伸ばし掛けていた手を慌てて引っ込める。

「あら、加代ちゃん、触って良いのよ?」

 加代ちゃんの反応に気付いたお母さんはおっとりした声でそう伝えた。

 だが、加代ちゃんからしたら、とんでもないことだったようで、ブンブンと大きく左右に首を振って「あ、アンティークって、き、希少品ですよね!?」と身体を強張らせる。

 そんな加代ちゃんに、お母さんはサラリと「ただの骨董品よ」と言い切って見せた。

 加代ちゃんはそう言われても、未だ困惑顔で首を左右に振っている。

 お母さんは優しい眼差しと声色で「いい、加代ちゃん。道具というのは生まれた意味があるの。この子達なら、お茶を入れるという役目ね」と口にした。

 その上で「だからね。ちゃんと使ってあげないとこの子達、可哀想でしょ? お父さんも『希少だからと飾ってしまっては、生まれてきた本海を果たせなくて可哀想だ』っていうもの。だから使ってあげなきゃいけないし、加代ちゃんみたいなお料理が好きで道具にも興味を持っている子は、むしろ積極的に触れて、学ぶべきなのよ、肌でね」とお母さんは続ける。

 加代ちゃんはお母さんの言葉に感じるモノがあったようで「……肌で……」と呟きながら自分の手を見詰めた。

「触ってみて、正直普通の磁器と変わらないわよ」

 にこやかに微笑みながらお母さんは、ティーポットを加代ちゃんの前に置く。

 加代ちゃんはゴクリと唾を飲み込む素振りを見せてから静かに手を伸ばして、目の前に差し出されたティーポッドに触れた。


『あの、凛花様」

 袖を引かれたので振り返ると、上目遣いでこちらを見る史ちゃんと視線が合った。

「なに? 史ちゃん」

 私がそう問い掛けると、史ちゃんは「凛花様のお父様は学者さんなのですか?」と首を傾げる。

「え、えーと……」

 私の記憶の中で元お爺ちゃん、現ひいお爺ちゃんにして、この世界のお父さんは、確かに考古学に係わる仕事をしているのは間違いないはずだ。

 問題は、今の職業が学者かというと、詳細までは把握しているのでわからない。

 うろ覚えな記憶では、海外の大学に招聘されるまでは、商社でバイヤーのような仕事をしていたはずなので、今は学者では無い……のではないかと思うのだけど、断言が出来なかった。

 流石に、この世界の父の仕事を、子供が知らないというのはどう考えてもおかしい。

 とはいえ、既に返事に窮してしまっているので、おかしなコトになってしまっていた。

 そうして窮していると、流石と言うべきか、事情を知ってくれているお母さんが「凛花、お父さんは今、商社で買い付けをしてるって教えたでしょう?」と苦笑を浮かべて助け船を出してくれる。

 私は「そ、そうだけど、お父さん、学者さんでもあるでしょう?」と、だから答えに窮したという匂わせつつ切り返した。

「ん~~、確かにお父さんに聞いたら、本業は学者だって言うかもしれないわね」

 お母さんが乗ってくれたお陰で、私が言葉に窮したことにもそれなりの説明が付いたので、この機を逃さず史ちゃんに向き直る。

「ということで、質問の答えになったかな?」

 私の問い掛けに、史ちゃんは頷きつつ「それじゃあ、お父様はひょっとして、骨董品の鑑定とか出来るんですか?」と新たな質問を口にしてきた。

 私はまたも答えに窮してしまい、すぐさまお母さんに視線を向けて助けを求める。

 お母さんは苦笑いを浮かべつつ「お父さんは、目利きじゃないと言っているわね」と史ちゃんに答えてくれた。

「ただ、商社で解決を任せられるだけの目は持っているんだから、私は十分に能力があると思っているわね」

 お母さんの答えに、史ちゃんは「なるほど」と頷く。

 そんな史ちゃんから加代ちゃんに視線を移したお母さんは「あ、加代ちゃん、うちで使ってる物は、お父さんが個人的に気に入って買ってきた物だから、多分、高いモノじゃ無いと思うから安心してね」と告げた。

「そ、そうなんですね」

 加代ちゃんはホッとしたように溜め息を吐き出しながらティーポッドに触れる。

 ここで、サラリとユミリンが余計なことを口走った。

「かよちん、あくまで、『高いモノじゃないと思う』って言ってるからね、おばさん」

 暗に高いかもしれない可能性があることを示されて、加代ちゃんが再び固まってしまう。

 仕方の無いユミリンに、流石に私も「こら、ユミリン! 加代ちゃんをびっくりさせないの!!」と叱りつけた。

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