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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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ゴミ捨て

 結局、掃除は3班と7班の女子に飯野さんを加えた7人でやり終えた。

 その間に男子が姿を見せることは無かったので、人数的には半数しかいなかったのだけど、分担がうまくいったお陰か、スムーズに終わらせられたと思う。

 掃除中は手を動かしながらもいろんな話をしたので、私たちの一体感が増した。

 結果として、名前をちゃん付けで呼んだり、あだ名で呼んだりするようになる。

 中本さんと小木曽さん、久瀬さんが私を『おリン』と言い出したので、流石に仏具みたいで嫌だなぁと断わった結果、リンリンに統一されて、ユミリンが得意げになった。

 まあ、命名したのはユミリンらしいので、受け入れられたのが嬉しかったのかもしれない。

 仲良くなれたのも嬉しいことだけど、上手く聞き手に回りながら、各教科の先生や部活の情報などを仕入れられたのは、かなりの収穫だった。


「それじゃあ、行ってくるわ」

 そう口にした中本百合子さん、改めお百合の横に立って、私は主に飯野さんに向けて「皆、教室で待ってて」と伝えた。

 私とお百合はこれからゴミを捨てに()()()に向かうのである。

 飯野さんも同行を申し出たのだけど、視聴覚室備え付けのごみ箱は大きいので、私と二人だと引き摺りかねないということで、お百合が自分が行くと行って押し切った。

 お百合の『リンリンは優しいから言わないけど、あんまりつきまとわれると嫌われることもあるぞ』という指摘が、飯野さん……改め史ちゃんには突き刺さったらしい。

 もちろん、私は『そんな事で嫌ったりしない』とは言ったのだけど、委員長の『相手の優しさにつけ込むのは良いことじゃないわ。それに距離を置いて、思うのも楽しいものよ』という意味深なセリフに史ちゃんは『ちょっと試してみる』と、何故か納得してしまった。

 そんなわけで、私は京一時代にも見たことがなかった焼却炉を目に出来るというわくわくを胸に、廊下をお百合と共に向かっている。

 ただ、ごみ箱自体はお百合が抱えるようにして持っていて、私は支えているだけの状態なので、付き添い感が半端ないのが少し申し訳なかった。


 一番北側、私の知る時代の学校と同じ位置にある体育館は、まだ建て直される前のもので『目』を使っての状況確認の時にチラリと確認していた。

 大きさはほぼ一緒で、外壁の感じが違うだけなので、立て直しでは無く、改築かもしれないなと思ったけど、お百合と共にコンクリートの渡り廊下を進んでいくと、私の通っている時代には倉庫だったはずの場所に、細い円筒の煙突が取り付けられた無骨な金属の塊が鎮座している光景が目に入る。

 もう夏が近づいてきていて、暖かくなってきているのに、厚手のジャンパーに軍手、キャップ姿のおじさんが、生徒の持ってきたごみ箱を受け取って、その金属の塊、焼却炉の中に中身を対して確認せずに投入していた。

 焼却炉には火が入っているようで、無わっとした熱気と、多分燃やしてはいけないものを燃やしているような危険な臭気が漂っている。

 深呼吸でもしようものなら喉が痛くなりそうな空気に、私は思わずハンカチで口を覆ってしまった。

 そんな私を見たお百合は「リンリンはここで待ってな」と言って、足早に焼却炉に向かって行ってしまう。

 返事をする間もなく、おじさんの元に辿り着いたお百合は「用務員のおっちゃん、よろしくー」と言ってごみ箱を手渡し、用務員さんらしいおじさんも「あいよ」と手慣れた動きで、ごみ箱の中身を焼却炉に放り込んだ。

 ごみ箱の上下逆さまにして、砂埃まで焼却炉に放り込んだ用務員さんは、くるりと元の状態に戻すと「ご苦労さん」と言って、それをお百合に返す。

 お百合も「ありがと、おっちゃん」と笑みを浮かべてごみ箱を受け取ると、軽やかな足取りで私の元に戻ってきた。

「よし、じゃあ、ごみ箱置きに言って、教室に戻ろうぜ」

 明るく言うお百合に、私は「なんか任せきりでごめんね」と手を合わせて詫びる。

 対して、お百合は「リンリンは今日、保健室送りになったんだし、無理するなって」と、頭を撫でてきた。

「わぁ」

 思わず声を上げてしまった私に、お百合は「わりぃわりぃ」と謝ってから、苦笑しつつ「あたし、妹と弟がいて、つい……な」と言って頬を掻いた。

「あー、いそう……」

 素直にそう思ったのでそこまで口にした私は、その先にある事実に気付く。

 私が黙ったのを見て、お百合が「ん?」と疑問を声にした。

 自分でも笑顔が多少引きつっているのを自覚しつつ「何故、妹と弟の話が出てきたか、聞いても?」と話を振る。

 対して、お百合は「リンリンも、フミキチと同じタイプか……」と小さな声で呟いた。

「なぜ、史ちゃんのなまえが?」

 更なる問い掛けをすると、お百合は「はぁ」と大きな溜め息を吐き出す。

「可愛いと思ったんだよ。単純に」

 キリッとした表情で顔を近づけながら言うお百合に、私はジト目を向けて「そんなんじゃ騙されませんよ」と断言で切り返した。

「フミキチより厄介っ!」

 頭を抱えたお百合に、私は笑いながら「まあ、きっと私と身長が近いんですよねー。仕方ないです」と言う。

「怒ってない?」

 窺うように聞いてくるお百合に、私は「さっき茜ちゃんに、無神経なこと言ったばかりなので、起こる権利はないかなぁと思ってます」と舌を出した。

 そんな私を見て、お百合は「じゃあ、いまのやりとりなに!?」と目を瞬かせる。

「コント?」

 私の返しに、溜め息を吐き出したお百合は、ごみ箱を廊下に置くと「リンリンッ!」と言いながら襲いかかってきた。

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