宿題の会
わら半紙というざらりとした手触りの紙にプリントされた問題を解くのが本日の宿題で、科目は数学と英語、それから国語だった。
日曜日を挟んで、三教科とも土曜日と月曜日に授業がある。
復習にはバッチリなタイミングだなとは思のだけど、ユミリンからすると三教科も宿題が出ていることが不満なようだ。
ちなみに、逆転の一手、宿題を終わらせる手段として、ユミリンは後で私の回答を見ようと企んでいたらしく、千夏ちゃんに看破されて、自力でやるようにとお姉ちゃんからお叱りを受けている。
ユミリンはお姉ちゃんのお説教で、ちゃんと反省したらしく、一生懸命自力で問題を解いていた。
監督を兼ねてお姉ちゃんがつきっきりなので、気を抜けないだけかもしれないけど、頑張っていることには違いは無い。
そんなわけで残る私と千夏ちゃん、史ちゃん、加代ちゃんの四人の方には、まどか先輩とお母さんが付いてくれていた。
とはいえ、一応、大学まで卒業している私としては、社会科以外はそれなりに自信がある。
社会科に自信が無いのは、この世界が元の時代より40年近く前だからだ。
ロシアが未だソビエト連邦だったり、東西ドイツが存在していたり、とにかく社会情勢の変化によって大きく内容が変わってしまう。
歴史の授業は中学二年生からみたいなので、それほど大きな影響がないかと思っていたのだけど、一年の社会科の範囲である地理が意外に大きく影響を受けていた。
例えば、元の世界では普通に存在している建物が無かったり、栽培方法が確立されていなかったり、品種改良がされていないせいで、作物の生産量が違っていたりと、頭に叩き込んだ知識が逆に足を引っ張る状態になってしまっている。
とはいえ、今日の宿題は英国数の三科目なので、素直に取り組むことが出来た。
一気に進めてしまったことで、思ったより早く宿題を終わらせることに成功した。
見直しをして、一息ついたところで、史ちゃんが私を見ていることに気付く。
「ん?」
軽く首を傾げると、私が自分を見ている視線に気付いたことを察した史ちゃんが「凛花様、勉強も得意なんですね」と話しかけてきた。
どう返したら良いか少し考えてから「今日の範囲は、苦手なところが無かったから」と返す。
「え? 苦手なモノ無さそうですけど?」
真面目な顔で言われた私は首を軽く振って「社会科が、自信ないんだよ」と頬を掻いた。
直前まで考えていたのもあって、とても自然に返せたと思う。
実際、史ちゃんも違和感を抱かなかったようで「そうなんですか!」と瞬きと共に驚きの声を上げた。
「年号とか、特産物とか、ちゃんと覚えられてないんだよ」
この世界のとか、この時代のとか、枕詞は口にしなかったけど、覚え切れていないのは事実なので、ウソをついた罪悪感は無い。
全てを言わないというのはウソでは無いというのは月子お母さんや雪子学校長から学んだテクニックだ。
多少はズルイと思うけど、潜入捜査と掠るかもしれないので、これくらいのコントロールは逆に覚えておかなければいけないことで、実践できているという達成感の方が今は大きい。
「わ、私、得意なんです、社会!」
史ちゃんが意を決した表情でそう表明した。
私は「そうなんだ」と返してから「じゃあ、わからなかったら教えてね、史ちゃん」と言い加える。
「ま、任せてください!」
力一杯請け負ってくれた史ちゃんに、頷きで応えた。
その後、少しもじもじした後で史ちゃんは「そ、それで、もしも、私がわからなかったら……教えて貰っても良いでしょうか?」と上目遣いで効いてくる。
「もちろん。私が教えられるところなら任せて」
「は、はい。お、お願い致します!」
未だその時が訪れたわけでは無いのに、力一杯お願いされてしまったことに少し困惑してしまったものの、真っ直ぐに伝わってくる嬉しいという気持ちが、くすぐったくて、変な笑い方をしないようにするのが大変だった。
お姉ちゃんがユミリン、私が史ちゃんと組む形になり、残る四人は、まどか先輩が千夏ちゃん、お母さんが加代ちゃんとマンツーマンになっていた。
千夏ちゃんは英単語に少し苦戦しているようで、まどか先輩が日本語と英語の台本を見比べていくとだいたい覚えられると、自分の経験を元にアドバイスしている。
自分の興味あることになぞらえると、知識の蓄積が上手くいきやすいというコトだと思うけど、それは結局覚える量が倍になって大変なんじゃ無いかと思ってしまった。
ただ、演劇に並々ならぬ興味のある千夏ちゃんからすると、素直にやってみたいとか、出来そうと思えたみたいで詳しく尋ねている。
他にも字幕付きの洋画をみて、ニュアンスを覚えて、今度は画面を見ずに音だけで聞き取りをしてみると慣れるとか、体験を元にした実践的な習得法を伝えていた。
未だ試したわけではないので、千夏ちゃんにも向いているかはわからないけど、少なくとも興味を示しているので、やっぱり合う人には合うというのは間違いないと思う。
私はそんな事を思いながら、お母さんと加代ちゃんのペアに視線を向けた。