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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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ワケ

「そうねぇ。ウチは親御さんの許可があればいつでも大歓迎よ」

 お母さんはそう言って微笑んでから「あ、でも」と口にして皆の視線を集めた。

「良枝は受験があるから……」

 そう言いながら、お母さんは視線をお姉ちゃんに向ける。

 当然ながら、自然と皆の視線がお姉ちゃんに向いた。

「あ、私は受験しないからいつでも遊びに来て頂戴」

 お姉ちゃんはヒラヒラと手を振りながらあっさりととんでもないことを言う。

「お、お姉ちゃん、高校行かないの!?」

 思わず口走ってしまった後で、もしかして昭和時代の進学率ってそんなに高くなかっただろうかと、自分の思い込みの可能性に気が付いた。

 けど、自分の失言をどうするかとフォローを考え始めたところで、お姉ちゃんは「え、行く予定だけど?」と平然と言う。

 頭の中に噴き出した『?』の大洪水に飲まれて、私は瞬きを繰り返すだけになってしまった。

 そんな私を見て、お姉ちゃんは噴き出す。

 笑うお姉ちゃんに変わって答えをくれたのは、まどか先輩だった。

 お姉ちゃんの肩に手を置きながら「あ、この人、推薦貰えるらしいんだよねぇ」と言う。

 すると、今度は千夏ちゃんやゆかりん、加代ちゃんたちの頭に『?』が浮かんだようだ。

「あ、推薦って言うのは、進学する学校……高校に対して、この生徒はこういう実績があるので、生徒にすること、入学させることをおすすめしますって言う制度のことだよ」

 ザックリと説明すると、無事伝わったようで、三人ともなるほどと頷く。

 それを確認してから、私はお姉ちゃんに振り返って「それにしても、お姉ちゃんは凄いんだね! 一杯頑張ったから推薦貰えるんだね!」と思うままに任せて言葉を贈った。

 お姉ちゃんは「ちょ、凛花。そんな、急に」と顔を前に出した両腕で隠してしまう。

 全く想定していなかったお姉ちゃんの反応に、どうしたんだろうという新たな疑問で私は瞬きを繰り返すことになった。

 そんな私に答えをくれたのは、またしてもまどか先輩である。

「可愛い妹に、キラキラとした目で褒められて、流石の良枝ちゃんも照れてしまったんだよ」

 私は思ったままを言葉にしただけど、お姉ちゃんからしたらくすぐったくなるような褒め言葉だったようだ。

 羞恥心を感じるツボは人それぞれなので、想定できなかったけど、不意打ちの褒め言葉で恥ずかしくなる経験は私にもあるので、追い打ちを掛けないように黙ることにする。

「ちょ、ちょっと、凛花。そんな顔で見ないで!」

 お姉ちゃんにそう言われて私は困惑した。

 別におかしな事はしてないし、むしろ追い打ちを掛けないように口を閉ざしたのに、そんな顔と言われる理由が思い付かない。

「……凛花ちゃん、ニヤニヤしてるよ」

「へ?」

 呆れたような言い方で肩を叩いた千夏ちゃんにそう指摘されて、ようやく口元が緩んでいたことに気が付いた私は、慌てて両手で口を隠した。


「じゃあ、お姉ちゃんは試験なしで、高校に行けるって事かぁ」

 ユミリンの発言に、お姉ちゃんは苦笑を浮かべて「全くないわけじゃ無いわよ」と返した。

「一応、小論文と面接はあるしね……まあ、テストみたいなタイプの試験はないみたいだけど……」

 お姉ちゃんの説明に、ユミリンは眉を寄せて「しょうろんぶん?」と首を傾げる。

「簡単に言うと、作文みたいなモノだよ。問題に対してどう考えるかとか、どう解決するかとか、それを書く試験だね」

 私がそう説明すると、ピタリと皆の動きが止まった。

 伝わらなかっただろうかと思っていると、加代ちゃんが「リンちゃん、スゴイね。もう受験の準備してるの!?」と目を丸くする。

 内心で『しまった』と思いながらも、私は平静を装って「私でも、お姉ちゃんの役に立てることは無いかなと思って、いろいろ調べたんだよ」と言い訳をした。

 けど、それがお姉ちゃんには日々言ってしまったらしく「凛花!」と名前を呼ばれた直後には、力一杯抱きしめられて身動きがとれなってしまう。

「お、お姉ちゃん、動けないんだけど?」

「凛花が悪い」

 お姉ちゃんの返しに、私は何も言えず、ただ「え~~~」と言う以外無かった。


「お姉ちゃんは、もう勉強しなくて良いのかー」

 しみじみ言うユミリンに、お姉ちゃんは「流石に、それはないよ」と苦笑した。

「成績を落としたら駄目だし、遊んでたら勉強なんてすぐ忘れちゃうからね」

 お姉ちゃんの返しにその通りだと頷きたい思いでいっぱいだったけど、私が物知り顔で頷くのはおかしいので自重する。

「でも、受験をする他の子達よりは余裕があるから、部活も参加できるし、皆と楽しい時間を過ごせるわよ」

 お姉ちゃんの話を聞いて、一つ納得を得ることが出来た。

 それがそのまま無意識に「あ、そっか」という声になってしまう。

「ん?」

 顔を近づけてきたお姉ちゃんに、内心ではビックリしながらも、私は「新人戦とか、文化祭とか、受験生の筈なのに、参加してくれるみたいに言ってたから、大丈夫かなって思ってたんだけど、推薦が通ってるなら納得だなって思って」と今更なことに気付いたと伝えた。

 対してお姉ちゃんは「心配してくれてたのね?」と頭を撫でてくる。

 私はされるがままになりながら「それは、お姉ちゃんだからね」と切り返すと、お姉ちゃんの撫でる手の力が増した。

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