感想会
「千夏ちゃんの服は可愛いのが多かったね」
加代ちゃんの感想に、私も頷きつつ「フリルとかレースとか一杯で、結構気になるかと思ったけど、全く邪魔に感じなかったのが凄かった」と自分なりの感想を添えてみた。
そんな私の感想に、史ちゃんが「確かに着心地が良かったです!」とコクコクと何度も頷く。
ところが、ここで持ち主である千夏ちゃんが「あ、そうなんだ」と言い出した。
「え?」
思わず目が点になってしまった私に向かって、千夏ちゃんは「自分で着るには装飾が一杯で、着替えられるかわからなかったから、ずっとしまったまんまだったんだよねー」と頭を掻く。
「私と史ちゃんをトルソー代わりにしたって事!?」
思わず聞き返した私にキョトンとした表情で「とる?」と千夏ちゃんは首を傾げた。
ここでお姉ちゃんが「マネキンの頭と手足が付いてない、胴体だけのモノよ」と説明をしてくれる。
続いて、まどか先輩が「姫は服飾の知識もあるのかい?」と興味津々と言った様子で聞いてきた。
「た、たまたま知ってただけです!」
まどか先輩にわたわたしながら返しつつ、話を元も流れに戻すために、視線を千夏ちゃんに向ける。
すると、千夏ちゃんは「服も着てあげないと可哀想だなと思って……あと、折角皆で集まるなら服の交換はしたいじゃ無い?」と話を振り返してきた。
私としても、着てあげないと可哀想というのはわからなくはないので「それは、まあ」と同意する。
「想定としてはお泊まりの時にでもと思ってたけど、早めに出来たのは嬉しかったな。凛花ちゃんモスだけど、史ちゃんも可愛かったし」
視線を自分に向けて微笑む千夏ちゃんに、史ちゃんは少し恥ずかしそうに俯いてから「あ、ありがとう。嬉しいです」と照れながらも感謝を口にした。
その仕草も、言い方も、とても可愛らしい。
思わず頬が熱くなってしまったが、それは私だけじゃ無かったようで、どこか誤魔化すようなぎこちない動きで、千夏ちゃんは「出来れば、加代ちゃんにも着て欲しかったんだけどなぁ」と傍観者に徹していた加代ちゃんに話を振った。
「え!? わたし?」
自分に矛先が向いたことに驚いた様子で、加代ちゃんは声を裏返す。
「いや、流石に、こんな可愛いのは似合わないと思うよ」
頬を掻いて困り顔を浮かべる加代ちゃんに、千夏ちゃんは「でも、アイドルするんでしょ?」と詰め寄った。
千夏ちゃんの指摘に間違いは無いので、加代ちゃんは視線を逸らしながら「それは、まあ……やるけど……」と困り顔で頷く。
そんな加代ちゃんに、更ににじり寄りながら、千夏ちゃんは「加代ちゃん」と強めに呼びかけた。
「は、はい!?」
そんなに来るとは思って無かったのであろう加代ちゃんは既に戸惑いの表情を浮かべている。
「凛花ちゃんと史ちゃんに来て貰った服は、普段着なの、アイドル衣装はいんちょーさんがどんな物を用意するかわからないけど、特別な服だと思うわ」
「う、うん、そ……かも……?」
「つまりね。ダンスや歌も大変なのに、衣装を身に付けただけで、緊張するようじゃ、困るでしょ?」
千夏ちゃんの言葉に、加代ちゃんは「たしかに」と頷いた。
その反応を見て満足そうに頷いてから、千夏ちゃんは「というわけで、可愛い服に慣れるのは大事だと思うのよ! 私の持ってきた服は普段着なんだから、最適でしょ?」と追撃を入れる。
加代ちゃんは「そう……だね」と頷いて、部屋の隅に畳まれて置かれている服を見た。
「千夏ちゃん、もし良ければ、服貸してくれるかな?」
加代ちゃんは少し考えた後で、千夏ちゃんにそう申し出た。
千夏ちゃんは「もちろん。そうして貰う予定だったし!」と大きく頷く。
その後で「あ、凛花ちゃんと史ちゃんも参加ね」と、千夏ちゃんはサラリと私たちの方にも、矛先を向けてきた。
完全に加代ちゃんだけがターゲットなのだと油断していた私と違って、史ちゃんはすぐに「そうですね、頑張りましょう。凛花様」と簡単に受け入れてしまう。
「えー……と」
判断を下せるほど思考が追いついてなかったこともあって、私は言葉に詰まってしまった。
そんな私の同意を待たず、千夏ちゃんは「凛花ちゃんのお洋服も可愛いから混ぜ合わせて、組み合わせを決めよう!」と嬉しそうに提案をする。
「ま、まって!」
グイグイ進めていく千夏ちゃんに、咄嗟に制止を掛けると「ん?」と首を傾げられてしまった。
私の頭のどこかに、恥ずかしい思いを押し付けられているという意識があったのだろう。
千夏ちゃんと目が合った瞬間、逃がさないぞという思いで、気付けば「千夏ちゃんも参加するんだよね?」と問い掛けていた。
ところが、千夏ちゃんは困る素振りどころか、嬉しそうな顔で「もちろん! 入れてくれるなら凄く嬉しいし……あ、なんあら、いんちょーさんに衣装の組み合わせ選び手伝って貰うとかどうかな?」と喜んだ上に、委員長を巻き込む案まで出してくる。
直後、頭の中でリーちゃんが『これは墓穴を掘ったようじゃな、主様』と、溜め息交じりの声が響いた。