罰と遊び
「良い! 可愛いよ、凛花ちゃん! 史ちゃんも!!」
大興奮で燥ぐ千夏ちゃんに、続いて加代ちゃんも「うん、二人ともよく似合ってるよ」と手を叩いた。
私はといえば、一緒に謝罪した史ちゃんと共に、罰として千夏ちゃんの服を着せられている。
ファッションショーみたいな遊びは、多少慣れているのと、もの凄く史ちゃんが照れている分、冷静を保てていた。
レースで飾られたスカートの裾は、ふわふわと膨らんでいて、かなり可愛らしいと思う。
履き口がレースになっている短い靴下、トップスはフリルの付いたブラウスの上に、ゆったりとしたフォルムのジャケットを羽織るスタイルで、そこかしこにリボンとレースの装飾が付けられていた。
この時代のファッションの知識が乏しいので、断言は出来ないけど、街中やテレビで見かけた年齢の近い子達の装いに比べても、かなりメルヘンチックだと思う。
「うーん。もう少し可愛いリアクションが見られるかと思ったのに……」
お姉ちゃんが不穏なコメントを口にした。
「……お姉ちゃん?」
ジト目で見ると、お姉ちゃんは咳払いをして「多少なりと恥ずかしい思いをしないと、罰にはなら無いでしょう」と切り返してくる。
確かに、罰という視点が考えると、史ちゃんのお陰で、私はノーダメージに近いので、受けていないのに等しかった。
「そういわれると……」
私がお姉ちゃんの言葉に対して、そう口にすると、まどか先輩は「姫、真面目すぎ」と笑顔で肩を叩いてくる。
「皆、別に姫と史ちゃんを罰しようとは思って無いのは、わかるでしょ? 姫の気持ち的に、ダメ出しした手前引っ込みが付かないのがわかってるから、ファッションショーに皆賛成したんだし、姫の照れる姿を見たいって言う良枝の気持ちも受け入れてよ」
ウィンクを合わせて言われてしまっては、当然頷く以外に選択肢は無かった。
確かに、私の気持ちに合わせて貰って、私は合わせないというのは筋が通らない。
そんな事を考えていると、まどか先輩に「はっはっは」と笑われてしまった。
私なりに、真剣に考えているので、思わず「そんなに笑わなくても」と不満の声が出てしまう。
「真面目なのは良いことだよ」
もの凄く子供扱いされてるような気がして素直に頷けなかった。
そこに千夏ちゃんが「ちょっと、まどか先輩!」と割り込んでくる。
「はぁい、まどか先輩ですよ~」
まどか先輩の切り返しに、一瞬動きを止めたものの、千夏ちゃんは「次の服に着替えて貰うんで、凛花ちゃんを帰してくださいねー」と笑顔で言い放つと私の手を握って引っ張り出した。
千夏ちゃんに手を引かれながら見たまどか先輩は「次の衣装も楽しみにしてるよー」とヒラヒラと手を振る。
直後、ピタリと手を止めたまどか先輩は「あ、そうだ」と口にした後で「どうせなら千夏ちゃんと姫のお揃いとか、服の交換も見てみたいなぁ」と笑みを浮かべた。
「着、着ても……いいの?」
私の服を抱きしめて上目遣いで効いてくる千夏ちゃんは、既に下着姿なので、むしろすぐに着て欲しかった。
「今更、聞くタイミングじゃ無いよ、早く着て!」
「う、うん」
ようやくスカートに足を通し始めてくれて、ホッとしたところで、今度は史ちゃんが「私も良いのでしょうか?」と今し方見た千夏ちゃんと同じ体勢で声を掛けてくる。
デジャヴを感じつつも、大きく頷いてから「うん、早く着て」と伝えた。
二人が着替えているのを見ながら、今から私が身に付ける史ちゃんの服を見る。
これまでは千夏ちゃんが家から持ってきた洗濯済みの服だったので、それほど抵抗感は無かったのだけど、今まで着ていたモノだと思うと、少し躊躇いがあった。
とはいえ、千夏ちゃんもさっきまで私が着ていた服を着ているし、二人に着るように促した以上、自分が着ないというのはおかしい。
そう心の中で繰り返して気持ちを落ち着けた。
「ど、どうかな?」
緊張した声で聞いてくる千夏ちゃんに、私は「可愛いと思う」と素直な感想を伝えた。
ただ、あまりにもスカートが短くて、足のほぼ全てが見えてしまっている。
身長も体型もほぼ変わらない千夏ちゃんの着こなしで、この状況ならば、私が着ていたときも同じように足が丸出しだったという事だ。
千夏ちゃんの着こなしは素直に可愛いと思えるのに、自分が同じ格好をしていたかと思うと、恥ずかしさで一杯になってくる。
そんなタイミングで、史ちゃんも着替え終わったらしく「凛花様、ど、どうでしょうか……」と声を掛けてきた。
半袖の少し大きめのシャツに短いスカートの組み合わせは、ここに来たときの長袖のシャツにロングスカートのお淑やかな組み合わせの史ちゃんとも、フリルとレース、リボンにふわふわの衣装とも違う元気な可愛さがある。
「よ、よく似合ってると思うよ!」
恥ずかしさを感じていたせいで、少し噛んでしまったけど、どうにか本心を伝えた。
それが伝わったのか、史ちゃんもフレしそうにはにかむ。
ただ、一つ問題だったのは、私のスカートの裾を無意識に下に引っ張り続けていることで、史ちゃんにとっては短すぎる長さだと思うと、より一層恥ずかしさが増してしまった。