合流
「凛花ちゃーーん……あと、先輩方!」
マンションの前で待っていてくれた千夏ちゃんが、こちらに気が付くなり大きく手を振り出した。
「千夏ちゃん!」
私が振り返した横で、ユミリンが「コラァ、チー坊! 私への挨拶はどうした!!」と吠える。
かなりの剣幕だったけど、千夏ちゃんは「あら、由美子さんいらっしゃったんですの?」と平然と煽りだした。
「ちょ、ちょっと二人とも! 喧嘩は駄目です!」
二人の間に滑り込みつつストップを掛ける。
「命拾いしたな、チー坊!」
「由美子さんの方こそ、良かったですわね」
ユミリンはなんとも判断が付かないけど、千夏ちゃんの方は、普段と違う口ぶりからして、ふざけてるというかじゃれているだけだと思うん……思いたいけど、漂う空気は決して冗談には感じられなかった。
二人の間で視線を行ったり来たりさせていると、お姉ちゃんが「千夏ちゃん。じゃあ、このまま史ちゃんと加代ちゃんを迎えに行きたいんだけど、良いかしら?」と何事もなかったかのように平然と問い掛ける。
尋ねられた千夏ちゃんの方も「大丈夫です~」といつもの口調で返した。
一瞬で別人になったかのような変化に戸惑っていると、まどか先輩が「凛花姫。姫が争いを嫌っているのは皆知っている……だから、本気でいがみ合ったりはしないよ。じゃれ合ってるだけだから、見守ってあげてほしい」と私の耳に口を近づけて囁く。
「まどか先輩」
「あの二人、抱えてるモノが近しいんだと思う……だから、お互いにお互いが気になるのに、引っかかる……まだまだ不器用なのさ」
まどか先輩の囁きはとても腑に落ちるものだった。
事情は少し違うけど、普段から家に一人のことが多くて、寂しさを感じていて、本心を見せたがらない強がり……容姿こそ違っているけど共通点ばかりだなと思うと、おかしくなって口元が緩んでしまう。
二人が若草物語にやる気を見せたのも、仮初めとはいえ姉妹を……家族を望んでいたんだろうなと、自然と思えた。
「リンちゃん!」
手を挙げて声を掛けてくれたのは加代ちゃんだった。
横にいる史ちゃんは、何故かピクリとも動かない。
「加代ちゃん、お待たせー」
少し心配になったので、気持ち小走りで二人に駆け寄って、加代ちゃんに「史ちゃん、どうかしたの?」と尋ねつつ、先ほどから動きを見せない史ちゃんに視線を向けた。
「あー、うーーーん、なんというかーーー」
頭を掻きながら加代ちゃんは困った様子を見せる。
「どうしたの?」
私が瞬きをすると、加代ちゃんは「推測だけど……リンちゃんの私服姿を目に出来て、限界を突破しちゃったん無いかな」と苦笑した。
「はい? 限界?」
折角説明してくれたのに、加代ちゃんの言葉が全く入ってこない。
そんな私の肩に手を置いたまどか先輩が「あれだね。アイドルの私服を目の当たりにして、意識が遠のくってヤツだ。そんなファンがいたって話をアイドル雑誌で見た気がするな」と口にした。
続いてお姉ちゃんが「普段は制服だからね。史ちゃんには刺激が強かったのかもね」と頬に手を当てて、ふぅっと息を吐き出しながら笑む。
「そういえば、凛花ちゃん、もの凄いにミニスカートだよね!」
千夏ちゃんが目をキラキラさせながら、私の前までやってきたかと思ったら、なんとその場でしゃがみ込んだ。
そんな下から見られたら、スカートの中が見えてしまうと思い、私は思わずスカートを押さえて一歩下がる。
「あら、凛花ちゃん、そんなに短いスカートを履いてるのに、恥ずかしいの?」
ニヤニヤしながら上目遣いで効いてくる千夏ちゃんに、私は「これはお姉ちゃんとまどか先輩とユミリンが選んだの!」と、押し付けられたコーデだと訴えた。
「あら、騎士を自称しているまどかさんと由美子さんが、わざわざ、姫様にこんな露出の多い無防備なカッコうをさせたってことですか?」
千夏ちゃんは私の話を聞いて、急にキャラに入ったようで、すくっと立ち上がると、冷めた目をまどか先輩とユミリンに向ける。
「私たちがお守りすれば良いことだからね。それならば、姫の魅力が溢れた衣装をお選びするのはおかしな事では無いと思うのだが?」
まどか先輩は堂々と言い切った。
その言葉を聞いた後で、私は千夏ちゃんに相乗りして、まどか先輩の主張を却下しないといけなかったんじゃ無いかと気付く。
「実際、姫様のメイドである史子君は、姫の可愛らしさに感無量といった様子だよ」
固まったままの史ちゃんを指し示しながら、まどか先輩は自信に満ちた表情を見せた。
「確かに」
千夏ちゃんは軽く頷いた後で「……ですが、姫様の意思も……」と、否定の言葉が続くのを匂わす。
短いスカートが恥ずかしい私としては、続く言葉に期待しながら、千夏ちゃんを応援した。
だというのに、千夏ちゃんは「と、よく考えてみたら、姫様は奥ゆかしい方ですから、本当は着てみたかったのかも知れませんね。今の衣装」と妙な場所に着地してしまう。
思わず「えぇっ!?」と私が驚きを声にすると、千夏ちゃんを筆頭に笑い出されてしまった。