演目
「ちょっと待っていただきたい! 私が入ってないのはおかしい!」
そう言って声を上げたのはユミリンだった。
「まどか先輩、まどか先輩の発想に文句があるわけじゃ無いですけど、姉妹の話なんですから、若草物語の方があってると思いませんか?」
まくし立てるように主張するユミリンの意見に、まどか先輩はポンと手を叩いて「確かに」と頷く。
「三兄弟で連想したけど、四姉妹の方が向いてそうだね……さしずめ四人目の君が、次女のジョーかな?」
まどか先輩の質問に対して、ユミリンは「そ、れは……」と返答に詰まった。
その上で両手の人差し指同士を突き合わせながら「み、認めて貰えるなら……」と恥ずかしそうにユミリンは言う。
「ふむ」
まどか先輩はそう言って頷くと、少し考えた素振りを見せてお姉ちゃんを指さした。
「ん?」
指を指されたことに反応したお姉ちゃんに、まどか先輩は「長女のメグ」と告げる。
「それで……」と口にしつつ、まどか先輩は私と千夏ちゃんを見た。
「ごめんね、千夏ちゃん」
まどか先輩は何故か一言詫びてから、私を指さして「三女のベス」と言い、その後で指の向きを千夏ちゃんに移してから「で、四女のエイミーかな」と言う。
千夏ちゃんは「確かに、私の方が妹なのは残念ですけど、まどか先輩の言うとおり、凛花ちゃんの方がベスっぽいですね」と大きく頷いた。
「わかる! 凄くわかる、確かにベスっぽい!」
興奮気味に加代ちゃんが、ブンブンと何度も頷く。
その後で加代ちゃんは「凛花ちゃんのお姉さんのメグもあってるし、ユミリンのジョーもしっくりくる……正直千夏ちゃんのことはそんなに知ってるわけじゃ無いけど、ピッタリって感じがする」と、次々と対象の相手を変えながらそれぞれに向かって言って回った。
「え、えっと……加代ちゃん?」
あまりの熱量に圧倒されてしまった私に、史ちゃんが「加代ちゃん、若草物語大好きなんですよ。その登場キャラクターのイメージに、凛花様達がピタリと嵌まったので、大興奮しているんです」と教えてくれる。
あのセリフを言って欲しいとか、ドレス作りたいとか、一人妄想を交えて盛り上がる加代ちゃんを見ながら、お姉ちゃんが「まどか、これ……」と呟くように声を掛けた。
「いや、まあ、配薬は思いつきだったけど……もうファンが出来てしまっているんだ。文化祭か、どこかで演れたら良いね」
まどか先輩の返しに、加代ちゃんは妄想世界から一瞬で帰ってきて「本当ですか!? 文化祭で演じてくれるんですか!?」と目をキラキラさせる。
「約束は未だ出来ないけど、私もいけそうな手応えを感じてるからね、この配役なら」
穏やかな笑みを浮かべて頷くまどか先輩に、興奮状態で「楽しみです!」と力強く返してから、加代ちゃんは「衣装作りでも小道具でも大道具医でも、証明でも何でも頑張るのでよろしくお願いします!」と加代ちゃんは頭を下げた。
苦笑を浮かべたまどか先輩は「演者をやる気は無いんだね」と言う。
加代ちゃんは「演じてみたい。皆の中に入りたいって言う気持ちはあります! でも、正直、集中して観劇したいので、裏方で近くから見守りたいです!」とはっきりと自分の気持ちと考えを示した。
それに感心したのか、まどか先輩は「ほぉ」と声を漏らした後で「なるほどね。そういう考え方なんだね、加代ちゃんは」と言って大きく頷く。
なんだか、もう文化祭の演目が決まりそうな流れだったけど、私は一つ重要なことに気が付いた。
場の雰囲気や流れを壊してしまうかもと思いながらも、言わないわけには行かないと思い「あの……」と手を挙げながら声を掛ける。
「なんだい、姫?」
私の声にまどか先輩がすぐに反応を返してくれた。
気持ちを落ち着かせるために、一度空気を飲んでから「若草物語の四姉妹って主役ですよね?」と口にする。
「そうだね」
「……で、その、今の配役だと、三年生と一年生三人になっちゃいますよね? その……二年生の先輩とか……」
私がそこまで言うと、まどか先輩は「ああ」と言って頷いた。
その上で「それもあって、加代ちゃんに約束は出来ないって言ったんだ。演劇部としての演目だから、当然これから皆で話し合うし、無理強いで押し切ったりはしないから安心してよ、凛花姫」とまどか先輩は、私の言いたいことを察した上で言ってくれる。
その後で、加代ちゃんに視線を向けて「もしも、演劇部の文化祭公演でやれなくても、一年生中心の新人戦があるんだ。市内の中学校が集まる大会なんだけど、そちらでやれば良いよ」とまどか先輩はダメだった場合の代案まで示して見せた。
まどか先輩の『絶対に演る』という意思を感じる発言に、加代ちゃんは嬉しそうに「はい! 私全力で支えます!!」と応える。
話の流れからして、文化祭にせよ、新人戦にせよ、若草物語を演じるのはもう間違いないだろうと私は察した。
というのも、情熱をほとばしらせる加代ちゃんだけでなく、お姉ちゃんやユミリン、千夏ちゃんたちも、かなり乗り気のように見えたのである。
皆に宿った情熱を見るうちに、私も、もし配役されたなら頑張ろうと自然と考えるようになっていた。