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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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「それじゃ、視聴覚室に行こう」

 六時間目終了後、ユミリンにそう声を掛けられた私は「うん」とだけ答えた。

 視聴覚室に行くのは恐らく掃除の担当場所だからだと思う。

 何度か教室を出入りしたときに、前方の掲示板に、掃除当番表と書かれた大小二枚の円形の紙が、円の中心で重ねられて画鋲で止められているのを確認していた。

 内側、外側共に7等分するように中心から直線が引かれ、内側には1~7の班の番号、外側の円には、教室、視聴覚室、お休み、一階渡り廊下、教室、視聴覚室、お休みと記載されている。

 まだ出席番号順の席順からして、私の所属は7班だろうとおもいチェックしておいたのが丁度視聴覚室だった。

 ちなみに、教室と視聴覚室は2つの班が担当らしく、今回私とユミリンの属するの7班と合同なのは3班である。

 3班の女子には、委員長である木元さんと久瀬さんが属していた。

 ユミリンと一緒に歩き出したところで二人が合流してきて、盛り上がったところで、飯野さんが頬を膨らませながら『私もお手伝いしたい』と言いつつ私の腕に抱き付いてきて、同行を押し通してしまう。

 まあ、飯野さんの所属する1班はお休みなので、帰りのHRまでは他の班を手伝ったり、本を読んだり、部活の準備をしたり、掃除の子を邪魔しないように過ごすことになっていたので、特に問題は無いようだ。


 視聴覚室に付くと、もうすでに掃除道具を出して、準備万端の元気な子が待ち構えていた。

 彼女は、私の二つ前、ユミリンの一つ前の席の中本さんで、何故かセーラー服を脱いで、体操服姿になっている。

 かつては体操服や、あるいはスカートだけ脱いでブルマで掃除をしたという話を聞いたことがあったので、まさかとは思ったのだけど、どうやら違ったらしかった。

 委員長が「お百合は、もう着替えたの?」と呆れたように言う。

 対して中本さんは「おじぃ先生が許してくれたら、体操服のままで授業受けるんだけどなー、部活でまた体操服になるんだから面倒くさいよな」と返した。

 委員長は苦笑しながら「まあ、私は風紀委員じゃないからガミガミ言わないけど、校則で授業中は制服って決まってるんだから、仕方ないわね」と言いながら掃除用具入れに向かう。

 私がその姿を目で追っていると「林田ちゃんも面倒くさいって思わない? 剣道部も体操服に着替えるだろ?」と中本さんは話を振ってきた。

 自分の所属が剣道部だと、まさか、こんなタイミングで知るとは思わなかったけど、情報が増えるのは純粋にありがたい。

 変にならないように意識しながら、苦笑を浮かべて「校則だから仕方ないよ」と返した。

 その後で「確かに面倒くさいけどね」と言い加える。

 否定的な返しで終わらずに、気持ちの上では同意してますという主張を交えるのは、那美ちゃんに教わったテクニックだ。

 私自身だけならともかく、入れ替わったと思われるこの世界の私に、元に戻ったときに迷惑を掛けないためにも無難に過ごすのは重要だと思う。

「よし、じゃあ、おじぃ先生を説得しようぜ?」

 予想外の中本さんの返しに、私はすぐに反応を返し事が出来なかった。

 相変わらず、アドリブに弱い自分を自覚しながら、どう返そうか迷っていると飯野さんが「お百合! 凛花さまを悪の道に引き込まないで!」と文句を言い始める。

「悪って……ほどか?」

 飯野さんの指摘に、中本さんは何か言おうとして、途中で固まってから首を傾げた。

 そんな中本さんを見て、何度か頷きながらユミリンが「許可が出たら別に悪じゃ無いんじゃ無い?」と言う。

 一方、ほうきを手に戻ってきた委員長が「校則で決められていることを、先生の権限を使って、ねじ曲げるなら、それは悪ね」と断言した。

「難しい話になってきた?」

 困り顔でキョロキョロと発言者の顔を見る久瀬さんがなんだか、小動物みたいで可愛い。

 そんなことを思っていたら、援軍を得た飯野さんが鼻息も荒く「ほら、委員長も悪っていったもん! お百合は悪! 凛花さまに近づくの禁止!」と言い出してしまった。

 困り顔になってきた中本さんと、暴走状態の飯野さんの睨み合いに、私は「確かにそうかも」と口を挟む。

 皆の目が集まったところで「でも、効率的じゃ無いのも事実だと思う……問題なのは、校則があることと、先生にお願いして特別を許して貰おうって事だと思うから、校則を変えれば良いんじゃ無いかなー……えーと、生徒会に提案して?」と私なりの考えを示してみた。

「体育の後の一つの授業のためだけに着替えて、また着替え直すのは面倒臭いから、先生にお願いして許可を貰おうっていうのは、ズルに見えるけど、ちゃんとこういう場合は体操服で授業を受けても良いよって言う条件が校則に追加されれば問題ないじゃ無い? 生徒のお願いで校則とは違うことを許可した先生に迷惑が掛かることも無いだろうし……」

 私がそう言うと、急にバシンと背中を中本さんに叩かれてよろめく。

 飯野さんが腕に抱き付いてくれていたお陰で、それ以上よろめかずに済んだけど、もの凄いパワーだった。

 そんな中本さんは「林田ちゃんは偉いな! あたし、おじぃ先生に迷惑が掛かるかもしれないってところは全然思い浮かんでなかった! 確かにそうだよな。特別な許可をするのは、許可した先生にも迷惑が掛かるかもしれないよな」と興奮気味に言いながら一人で頷いている。

 やがて、ピタリと頷きを止めた中本さんは、飯野さんに身体を向けると「フミスケ! 確かにあたしは悪だった。すまない」と大きく頭を下げた。

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