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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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再会と誤算

 ユミリンを置き去りにして教室に入った瞬間、文字通り世界が動き出したような感覚があった。

 足を踏み入れるまでは感じられなかった教室の熱気とざわめきが、急に感じられたのである。

 そして、二人の声が私に向けて掛けられた。

「リンちゃん!」

「凛花様!!」

 駆け寄ってきた加代ちゃんと史ちゃんは、それぞれが私の手を掴むと、もの凄く心配そうな目を向けてくる。

 その目線に、私は多少気圧されながらも、まずは安心して貰わねばと思い「大丈夫だよ、検査の結果、異常は無かったから!」と強めに伝えた。

 不安そうな顔のまま、それでも僅かに安堵が見える表情で「ほんと?」と聞いてくる加代ちゃんに頷く。

 史ちゃんは「検査入院とは聞いてましたけど、正直、今、こうして触れるまで、心配で胸が張り裂けそうでした」ともの凄く早口で、自分の心境を伝えてくれた。

「ごめんなさい! ちょっと良いかしら!」

 そう言いながら、私と史ちゃん、加代ちゃんの会話に委員長が乱入してくる。

 割り込むように会話に入ってくるようなイメージが無かった委員長の行動に、私は驚いて「え!? なに、委員長?」と、一歩引いてしまった。

 その反応に委員長は「ゴメン、三人の会話に割り込んで」と困った表情を浮かべる。

「委員長も、凛花様の無事を確認したかったんでしょう?」

「リンちゃんを占領する気は無いから、そんな顔しないでよ、委員長」

 史ちゃん、加代ちゃんの言葉に、委員長は「じゃあ、お言葉に甘えて、単刀直入に聞くわね」と口にして、私に視線を向けてきた。

「な、なに、委員長?」

 同じ言葉を繰り返してしまったことで、だいぶ飲まれている自分を自覚する。

 そんな私に、委員長は「ダンスは踊れそう?」と真剣な顔で聞いてきた。

 委員長の言葉で、彼女がダンスに強いこだわりを持っていたことを思い出す。

 そして、今この瞬間まで、ダンスのことをすっきり忘れていた私は、主治医の川本先生に言われたことを焦りながらたどり始めた。

 が、検索を終了するまでも無く、リーちゃんの『ダンスに関しては何も聞いてないし、何も言われておらぬのう』という事実が提示されてしまう。

 ここで適当なことを言ってしまうのもアリだとは思うのだけど、真剣にダンスに向き合っている委員長にそれは失礼な気がして、素直に伝えることにした。

「えっと、主治医の0川本先生から、特に禁止とかはされなかったけど、それはダンスのことを相談してないからだから、今度ちゃんと確認してみるね」

 私がそう伝えると、委員長は「あー」と言って、頭を掻き始める。

 その後で、パント両掌を合わせて「改めて、ゴメン、リンちゃん」と謝ってきた。

「え? なんで?」

 謝られて理由がわからず、戸惑う私に、委員長は「リンちゃんも検査とは言え、入院したんだから、気持に余裕なんてないはずだよね! それなのに私の都合で、勝手な質問ぶつけちゃって、本当にゴメン」と言葉を加えた上で、改めて謝ってくる。

 私は慌てて「謝れなくて良いよ。正直、ちゃんと聞いておけば良かったのに、うっかり忘れちゃってて」と申し訳ない気持ちで一杯になりつつ伝えた。

 すると、加代ちゃんが「リンちゃん、流石にリンちゃんは入院してたんだからさ、今のは委員長が慌てすぎだと思うよ?」と、私と委員長の間で視線を行き来させながら言ってくれる。

「そうですよ。委員長は焦りすぎなので、凛花様は気にしなくて良いです」

 次いで史ちゃんもそう言ってくれたんだけど、私は首を左右に振って「それだけ、委員長が真剣だって事だし、私も聞けたはずなのに、聞いてこなくて……」と口にしてから「だから、ごめんね、委員長」と続けて頭を下げた。

 対して、委員長は苦笑しながら「リンちゃんって律儀ねー」と言う。

「このままじゃ謝り合戦になっちゃうから、謝罪はお互いやめる……で、いいかな?」

 委員長の提案に、私は胸の内に引っかかるモノはあったけれど「はい」と返して手打ちにすることにした。


「委員長相手にはいい加減なこと言いたくないから、ちゃんと川本先生に確認するけど、退院に当たって駄目っていわれたことは無いから、多分、ダンスを踊るのは大丈夫だと思う」

 改めてそう伝えると、委員長は「そんな風に真剣に受け止めて貰うと、ちょっと恥ずかしいかな……私がやりたいだけだし……」と頬を掻いた。

 そんな委員長の反応に、口元がにやけそうになってしまったので、それを誤魔化すために一言伝えることにする。

「ただ……ね」

 私の切り出し方が不穏だったからか、委員長の表情だけで無く、周りの皆の顔も少し険しくなってしまった。

「もし、私のダンスの才能がゼロでも、許してね」

 想定ではこの冗談で空気が緩むはずだったんだけど、実際の皆の表情には変化が全く起こる気配がない。

 これは完全に滑ってしまったかもしれない……そう考える尾冷たい汗が背中に浮き始めた。

 そんな私に、委員長は真面目な顔で「リンちゃん」と声を掛けてくる。

「な、なんでしょう?」

「リンちゃんは運動神経が良いし、リズムをとれれば、大丈夫だから、不安にならないで!」

 委員長に真面目に励まされてしまった私は、引きつった表情で「うん、がんばるよ」と返すのが精一杯だった。

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