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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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実感

「あっ」

 予想外の感触に思わず声が出てしまったせいで、皆の視線を集めてしまった。

 スカートの中に手を入れてブルマを脱ごうとしていた私は、余計なことを考えていたせいか、下着ごと太ももの上まで降ろしてしまい、それをペチコートがお尻に触れる感覚で気付いたのである。

 とりあえず、皆の視線に反応を返す前に、落ち着いて下着をブルマから分離させて引き上げた。

 ペチコートやスカートを挟み込まないように慎重に、でも手早く処理をしたお陰で、私的には最速でミスを取り返せたと思う。

 そのまま何食わぬ顔でブルマを脱いで、体操服の上着の上に重ねた。

 恐らく察してくれたのであろう久瀬さんは困ったような笑ったような曖昧な表情を、飯野さんは何故だか頬を赤らめて照れた表情を浮かべている。

 そんな中で、ユミリンが無遠慮に「ブルマとパンツを一緒におろしちゃうのは()()()()()()!」ととても明るい声で言い切って親指を立てた。

 何故わざわざ大声で言うのかという思いはあったものの、これ以上他の子の注目を集めたら、恥ずかしさで立ち直れなくなりそうなので「そう……だね」と曖昧な返事を返す。

 私の中でユミリンに対する警戒心がほんの少し高まった。


 六時限目、最後の授業は社会だった。

 お昼、体育の後の授業なので、全体的に疲れている空気が教室中に漂っている。

 そんな中で、社会を担当するのはかなり高齢に見える男性教師だった。

 ユミリンが『お爺ちゃん先生』の授業と言っていたので、恐らくもう一人の大野先生だと思う。

 一年の社会で取り扱うのは地理なのだけど、私は社会の副教材である地図帳に衝撃を受けていた。

 なぜなら、地図上で見る限り、ドイツが()西()()()()()()()()

 更に、ソビエト連邦が記載されていて、ロシアの文字は無かった。

 他にも、ミャンマーがビルマだったりと、細かく見ていけば私の知る世界地図とは情勢が異なっている点が多い。

 大野先生の板書をノートに書き写しながら、他の授業ではしていたカラーペンでのコメントや強調も忘れて、ついつい地図帳に意識を向けてしまっていた。


 まさか、世界地図で自分の置かれた状況が、過去の世界なのだと強く認識させられることになるとは思わなかった。

 名札を付けさせられたことやお昼が給食とお弁当の選択式で無いこと、体育の女子体操服の下がブルマだったことも、時代の違いを感じさせる要素ではあったのだけど、教師になりかけた経験がある私としては、世界情勢が過去のものになっていることの方が衝撃が大きい。

 私だけが、ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツ統一、ソビエトの崩壊、冷戦の終了を知っているという状態なのだと思うと、出所のよくわからない興奮があった。

 一方で、どうするかを真剣に考えなければいけない状況にあるのだと痛感する。

 ここまでは積極的に行動を起こさず、この世界に存在している『林田凛花』の振りをして、流れに任せて、授業に参加しながら、違和感を基準に変化を探ってきた。

 切っ掛けや仕組みまでは未だまるで予想が付いていないけど、私の想像を形にする能力が影響しているのはほぼ間違いないと思う。

 那美ちゃんが暴走してしまった結果、私は林田京一と凛花の二人の人間に分離しているし、そのまま別の人生を歩いているわけで、擬似的な『神様』の力は、何でもありだ。

 状況を元に戻す切っ掛けすら掴めていない状況に、得体の知れない怖さを感じ始めていた私は、目を閉じて、彼を思い浮かべる。

『東雲先輩』

 心の中でその名前を呼ぶだけで、立ち向かう勇気が湧いてきた。

 もう一度『凛花』と名前を呼んで貰うためにも、微笑んで貰うためにも、事件解決の糸口を探さなければいけない。

 そもそもこの世界では、東雲先輩の痕跡を見つけられてないのだ。

 東雲先輩成分が足りなすぎる。

 そう考えた私は、ここからは少し貪欲に情報収集に努めることを決めた。


 方針を決めた私は、ちゃんと『この世界の林田凛花』を演じきるために、これまでのノートの取り方に倣って、複数の蛍光ペンと鉛筆を駆使してノートをデコレーションすることにした。

 幸いにも、ノートに書かれている文字は、丸みのある今の私の文字そのものだったので、そこで苦労はない。

 どういうわけか、もう一人の私である京一お父さんは、元々の字の癖がそのまま残っていたのに対して、私の文字は丸みを帯びた文字に変わっていた。

 雪子学校長や花子さん、月子お母さん達は、女性化により脳の構造が変わった影響が文字にも出たと考えている。

 私としてもその説が濃厚と思うし、証明の方法も思い付かないので、そうなのだろうと受け入れていた。

 不思議なことに、京一の字を真似て書こうとしても書けないので、矯正も出来そうも無いのも、深追いしない理由だったりする。

 ともかく、この世界の『林田凛花』を装う上で、私にとっては、文字が同じなのは大きなプラスだった。

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