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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第四章 解説? 考察?
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完成

「千夏ちゃん」

 私が声を掛けた瞬間「千夏お姉ちゃんでしょ?」と面倒な返しが飛んできた。

 もの凄く身に覚えのある返しと、これに抗っても無駄なことを経験している私は、明面の気持で「千夏お姉ちゃん」と言い直してから「そろそろ焼き上がるから、火を止めるよ」と伝える。

「はぁ~~い」

 お姉ちゃん呼びを強要してきたときとは全く真逆の明るい声で返事をすると、千夏ちゃんは、私に倣って布巾で蓋の取っ手を掴んだ。

 蒸し焼きのために投入した水分が飛び、生地が少し透けたのを確認してから、火とを止める。

 するとすぐに、横から千夏ちゃんに「リンちゃん、もういいかな?」と問われた。

 フライ返しを手にしつつ、ザッと千夏ちゃんの方のフライパンの餃子を確認してから「大丈夫だと思うから、火を止めて、千夏ちゃ……千夏お姉ちゃん」と告げる。

「う、うん! ま、まかせて!」

 火が怖いのか、少しレンジから身体を離した状態で目一杯に手を伸ばし、千夏ちゃんは火力調節用のダイヤルを捻った。


「じゃあ、盛り付けよう! 千夏お姉ちゃん」

「うん!」

 大きなお皿を手渡すと嬉しそうに、千夏ちゃんは自分の目の前のテーブルに置いた。

 どう考えても、私が姉で、千夏ちゃんが妹なやりとりだと思うのだけど、そういう指摘は面倒くさくなるだけなので飲み込んで、レンジから降ろして鍋敷きの上に置いたフライパンから菜箸で餃子を移し始める。

 それを見て、千夏ちゃんもすぐに真似し始めた。

 観察眼が優れているだけあって、千夏ちゃんは何も言わなくても同じように移し、綺麗に並べていく。

 フライパンの上にお皿を逆さまに被せてひっくり返すと楽に映せるものの、能力で力を補える私には出来ても、腕力は未知数の千夏ちゃんが出来るかわからないので、少し面倒くさくとも箸を選択したのだけど、苦も無く……いや、もしかしたら私よりも早く丁寧に移していた。


 円を二重に描くように並べ終えたところで、千夏ちゃんが何かを期待するような目を向けて来た。

 考えが読み取れたわけではないけど、なんとなくで「はい。餃子の完成です」と言ってみる。

 すると、千夏ちゃんは「すごい! やった! 出来たよ、リンちゃん、お母さん!」と小さく跳ねながら拍手を始めた。

「よく頑張りました!」

 お母さんが千夏ちゃんにそう告げてから、私に視線を向ける。

 促されたのだと察した私は「やったね、千夏お姉ちゃん」と微笑みかけた。

「ありがとう、本当、嬉しい!」

 ガバッと抱き付かれて、千夏ちゃんに抱きしめられる。

 されるがままになっていると、耳元で千夏ちゃんが改めて「ありがとう」と告げてきた。

「いや、全然大したことしてないよ。千夏お姉ちゃん」

 そう返して、千夏ちゃんの背をポンポンと叩く。

「双子ごっこも付き合ってくれてありがとう。良枝先輩とも、ユミリンとも仲が良くて羨ましかったんだ……特別な関係を感じられて本当嬉しかったよ」

 お母さんには聞こえないだろう小さな声でそう囁いた千夏ちゃんは、しばらく私を抱きしめてから満足したのか離れて行った。

 ずっと抱き合っていたかったってワケじゃないけど、温もりが離れると少し寂しく感じる。

 柄にはないけど、結んで貰った左右の髪の毛をそれぞれの手で触れながら「姉妹は親友とは違う特別だし、双子はただの姉妹とは違う特別だよ。千夏お姉ちゃん」となんとなく頭に浮かんだ言葉を伝えた。


 餃子が完成したので、お母さんはご飯に付き合わせる中華風のスープ作りに入った。

 私と千夏ちゃんは材料を着るのを手伝った後は、冷蔵庫からおかず類を取り出して居間に運ぶ。

 ここまでは不参加だったお姉ちゃんとユミリンも参加してくれたので、ワイワイと賑やかになった。

 私の髪型がツインテールになっていることに気が付いたユミリンとお姉ちゃんには、料理するのに邪魔だったからと適当な理由を伝えている。

 双子ごっこは私と、あとお母さんを含めた三人の秘密にしたいという千夏ちゃんお希望に添ったからだ。

 だから、私と千夏ちゃんを見比べた後で、同じ髪型だと双子みたいだとお姉ちゃんが言ったとき思わず顔を見合わせてしまい、噴き出しそうになる。

 どうにか堪えられたので誤魔化せたけれど、早速秘密をばらすことになら無くて良かったと胸を撫で下ろした。


 餃子の載ったお皿が二枚居間のテーブルに移動し終えたところで、ユミリンが「結構、形がまちまちだね」と言い出した。

 流石のお母さん策が一番出来栄えは綺麗で、私のは形は綺麗になった物の、ちょっとサイズが小さい。

 千夏ちゃんのは大小ばらつきがあって、皮の縁も離れてしまっている物も紛れていた。

「千夏お……ちゃんは初めてだから、凄く上手に包めたと思うよ」

 私の言葉に、お姉ちゃんは「そうね。元の縁に戻ってしまった皮はないし、私よりも上手かも」と頷く。

「だねー、私も初心者のチー坊にすら勝てる気がしないわ」

 腕を組んで頷くユミリンに、千夏ちゃんはどこかホッとした表情を見せた。

 不出来だと馬鹿にされないか、不安だったんだと思う。

 ただ、ユミリンの揶揄いの言葉は千夏ちゃんには向かわなかったけど、私の方には飛んできた。

「このちっこいのは、リンリン作でしょ? 手、ちっちゃいもんね?」

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