模倣
無事、全部の餡を包み終わり、二つのフライパンを同時に使い、私と千夏ちゃんはそれぞれのフライパンで、焼いていくことになった。
私は右手に水の入ったコップ、左手にはフライパンよりも少し大きめの蓋を持っている。
千夏ちゃんの方はフライパンとセットの丁度ピッタリサイズの蓋の組み合わせだ。
私は金属製で、千夏ちゃんはガラス製なので、こちらの方がもの凄く軽い。
お母さんの采配だし、千夏ちゃんも『重い物は私が受け持つよ』と得意げだったので、受け入れたけど、少し納得出来ない部分があった。
とはいえ、そんな余計なことに意識を向けていると焼き付いてしまいそうなので、気持を切り替えて、音に気をつけながらフライパンの中の餃子を見詰める。
視界の隅で、私、フライパンと忙しなく視線を動かしている千夏ちゃんが見えるけど、私も声を掛けてしまうと意識が逸れてしまう気がするので、あえての反応しない選択をした。
一端、水の入ったコップを置いて菜箸に持ち替え、フライパンの縁に並ぶ餃子の一つを返して焼き目を確認する。
千夏ちゃんに「これくらい色がついていれば大丈夫だよ」と声を掛けてから、焼き目を見せた。
「う、うん」
私に倣ってコップを菜箸に持ち替えていた千夏ちゃんは、自分のフライパンの中の餃子を裏返す。
「だ、大丈夫かな?」
不安そうな千夏ちゃんに「うん、次行くよ」と告げてから、菜箸を置いて再びコップを手にした。
千夏ちゃんが少し遅れて持ち替えたのを確認してから、餃子と餃子の隙間を通り道にして、コップに入れた水を一気に入らないように気をつけながら手早く投入する。
直後、左手の鍋を被せてから、千夏ちゃんの様子を覗った。
千夏ちゃんは、私のクセまで真似たのかなと思うほど、デジャブを感じる動きで水を投入すると蓋を閉じる。
ちょっと暑かったので、少し上から投げるように取っ手を離したところまでコピーしてて、なんかもの凄く恥ずかしくなった。
蒸し焼き状態になったところで、フライパンの奏でる音に少し変化が起きる。
二つのフライパンが同じような\戸とを立て始めたのを確認してから「後は待つだけだよ」と千夏ちゃんに伝えた。
「う、うん」
手にしたコップを握りしめたまま、千夏ちゃんは真剣な表情のままで頷く。
そんな千夏ちゃんに「大丈夫よ。二人とも手際が良かったわ。ちゃんと美味しく焼き上がるはずよ」と、後ろ手見ていたお母さんが言ってくれた。
それで安心したのか千夏ちゃんの表情が和らぐ。
私はもっと安心して貰おうと思って、千夏ちゃんに「完璧に私を真似してたし、失敗したら、お手本が悪かったんだと思うよ」と伝えた。
「え、いや……」
千夏ちゃんは驚いた様子で、何か言おうとするが、それよりも先にお母さんがポンと手を叩く。
「確かに、凛華が二人いるみたいな動きだったわ。双子かと思っちゃった」
楽しそうに言うお母さんに、私は頷きながら「スゴイよね。千夏ちゃん。私の動きを見てただけなのに、動きが自分みたいだなって思ったよ」と同意した。
私とお母さんが一緒に拍手をしたのがダメ押しになったのか、千夏ちゃんは少し頬を赤らめて、視線を逸らしてしまう。
なんだか、可愛いなと思う反応に、つい口元がにやけてしまいそうになった。
視線を逸らしたままで、千夏ちゃんは「あの、もし、ホントに双子なら……」と話し出した。
それから私を見て「お姉ちゃん」と続ける。
千夏ちゃんが私に向かって放った単語は、たった一つだけなのに、もの凄く胸がキュンとしてしまった。
が、その後に余計な言葉が続く。
「……は、私だよね。やっぱり、凛花ちゃんは妹な感じがするし」
「えっ!? なんで、い、今だって、餃子の焼き方を教えたの、私だよね!」
千夏ちゃんの発言に、私はすぐさま抗議の言葉を放った。
「ごめんね、凛華。お姉ちゃんしたかったよね」
三角巾の上から頭を撫でてくる千夏ちゃんに、手から逃れながら勢いで「べ、別にそんなこと無いよ!」と言い返してしまう。
「じゃ、凛華が妹ね!」
「なっ!」
思わず絶句してしまったものの、これは抗議しなければならないと思い至った私は抗議しようとした。
けど、それより早く、千夏ちゃんに肩に手を置かれてくるりと身体を回転させられてしまう。
「うぇっ!?」
想定外の視界の動きに戸惑っている間に、私の頭から三角巾がハズされた。
「え? なに?」
全く状況の変化について行けずにいる間に、調理用に束ねていた髪ゴムが解かれる。
「どういう……」
混乱の中にある私に、千夏ちゃんは「私、妹がいたら、髪の毛結んであげたり、したいなって思ってたんだぁ……お揃いにしていい?」と囁いてきた。
直後、リーちゃん越しに見た昨日の涙する千夏ちゃんの姿が頭に過る。
私は「はぁ~~~」と大きく溜め息を吐き出して、気持を決めた。
「早くしてね。餃子焼き上がっちゃうから……お姉ちゃん」
「うん、うん、任しておいて!」
かなり気恥ずかしかったけど、後ろから聞こえてくるやる気と嬉しさの籠もった声を聞いてしまうと、受け入れて良かったと思ってしまう。
そんな気持に浸ってる間に、千夏ちゃんは手際よく、どこかから取り出した櫛を手に私の髪を左右に分け始めた。