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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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指導

「凛花ちゃん、出来ないシスターズの絆はどうしたのぉ!?」

 綾川先生の懸垂の指導が終わり、各々が鉄棒で技を披露すると言うことになったので、前回り、逆上がり、全歩、後方と膝掛け回りなど、小学校で指導される技を試してみた結果、飯野さんにそう言って詰め寄られてしまった。

「い、いや、今やった鉄棒技は、懸垂と違って、腕の筋肉よりも、遠心力とか踏み込みがね……」

 わかって貰おうと思って理屈を口にしたけど、飯野さんは納得してくれていないようで、可愛らしく頬を膨らませる。

 だが、この二年間皆に翻弄されるだけじゃ無かった私の経験が、一つの閃きを頭に浮かべた。

「飯野さん。さっきも言ったけど、私は『できない』は嫌なのです」

 急に話の切り口を変えたので、飯野さんは驚いたような顔を見せる。

 この反応なら、こちらのペースに巻き込める可能性があると判断した私は、更に畳み掛けた。

「私が教えるので、飯野さんも出来る子になりませんか?」

 そう続けると、飯野さんは一瞬表情を明るくした後で、すぐに表情を暗くしてしまう。

 私の言葉に自分を変えられると思って喜んで、すぐに経験から無理だと判断して、気持ちが落ちてしまったんだろうと推測をした私は「大丈夫です。コツを覚えればできます。なぜなら、飯野さんはちゃんと歩いたり走ったりできますから」と伝えた。

 飯野さんは私の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。

 そんな飯野さんに、私は「脚は腕と違って、いつも使っているでしょう? 歩くだけでも筋肉を鍛えているの、身体って重いからね。だから、普通に生活してるだけでも、身体を蹴り上げるだけの力が養われているんですよ」と説明してみた。

「だから、コツさえ掴めば、飯野さんだって出来ますよ」

 確信を持って伝えたからか、飯野さんは信じ切れないものの、否定も仕切れないと言った表情を見せる。

 私はダメ押しで「一緒に練習してみましょう!」と訴えてみる。

 飯野さんは私と自分の足下を何度か往復させてから「う、うん」と頷いた。


 結論から言うと、飯野さんが逆上がりが上手くできなかった最大の要因は『勇気』あるいは『自信』だった。

 鉄棒にお腹を打ったら痛そうだとか、出来なかったら恥ずかしいだとか、飯野さんは頭が良くて真面目な優等生な分、痛みや失敗、冒険することに臆病なところがあって、踏み込めずに足踏みをしてしまっている状態だったんだと思う。

 なので、出来ると繰り返し伝えながら、ポイントで、脚やお尻を軽く押して補助するだけで、簡単に逆上がりを成功させた。

 私としては予想通りというか、出来て当然だと思っていたのだけど、飯野さんには違ったらしい。

 補助を付けずに、手拍子でタイミングを伝えるだけで、回れるようになった飯野さんは、私のキラキラした目を向けるようになってしまった。

 一応、教師を目指して痛みとしては尊敬の目を向けられるのは、嫌じゃない……どころか、誇らしいのだけど、ちょっと様子がおかしい。

「凛花さまっ!」

 まず、私の常識に誤りが無ければ、同級生を様付けで呼んだりしないと思うのだ。

「一生ついて行きますっ!」

「さ、さすがに、それは……」

 逆上がりを教えただけでこれはちょっと飯野さんがチョロすぎて心配になってくる。

「嫌なんですか!?」

 ショックと言いたげな顔を見せた飯野さんに、私は慌てて首を左右に振った。

「い、嫌ってワケじゃ無いけど、そんな簡単に一生とか言わない方が良いと思うよ」

 私の言葉に、飯野さんは「でもぉ~」と不満そうな表情を浮かべる。

「気持ちはわかったからね。でも、世の中には悪い人もいるからね。勢いで一生とか言わない方が良いって事だよ」

 変な誤解とか、暴走を助長しない様に言葉を選びつつそう伝えると、飯野さんは頬を膨らませて「大丈夫ですよ、ちゃんと相手を未定いてますからぁ~凛花さまにしか誓いませんっ!」と言い切った。


「まさか、信者を増やすとはねぇ~」

 ユミリンにそう揶揄われながら、教室に戻ってきた私たちは、制服に着替え始めていた。

 体操服に着替えるときは、私とユミリンだけだった席に、飯野さんも、久瀬さんも、制服を持って集まってきている。

 机と椅子を借りながら手早く着替えながら「信者じゃ無いから……ね、飯野さん?」と飯野さんに話を振ると「そうですね」と即座に肯定の言葉が返ってきた。

「私としては、凛花さまが許してくださるなら、信者でも良いんですけどぉ~」

 真面目な顔で凄いことを言い出した飯野さんに「待って、待った、待とう、飯野さん」とストップを掛ける。

「はい! 待ちます!」

 素直に頷いて着替えの手まで止めてしまう飯野さんを前に、私は困り果ててしまった。

 久瀬さんはそんな私と飯野さんを見て「史ちゃんは素直だけど、変なところ頑固だから、頑張ってな、凛花ちゃん」と笑う。

 とりあえず、次の授業もあるので「とりあえず、着替えちゃおう、飯野さん!」と着替えを再開して貰うことにした。

「はーい」

 笑顔で返事を指摘替えを再開した飯野さんを見ながら、どうしたら良いんだろうと途方に暮れながら、私も着替えを進める。

 体操服の上着を脱いで、ペチコート付きのワンピース風のシャツを着てから、皆に習ってスカートに脚を通した。

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