すり合わせ
「なに? リンリン?」
ユミリンからジト目を向けあられてしまった私は、慌てて「ナンデモナイヨ!」と首を振った。
あからさまに、自分でも怪しいと思うリアクションに、ユミリンが『なんでもない』で納得するわけもなく、顔が触れそうな程近づかれる。
「何か言いたいんじゃないの、林田凛花ちゃん?」
肌が触れそうな距離で、普段あだ名呼びの人に、フルネームで呼ばれる怖さを学んだ私は、視線と呼びかけの主に納得して貰える言い訳を高速で考えた。
「その、お礼を言おうかとお思って……」
「お礼?」
私の返しに怪訝そうな表情を見せるユミリンだったけど、構わず大きく頷く。
「リーちゃんの目が、カメラか持って言うのは、私を心配してくれたって事だよね? だから、心配してくれてありがとうって言おうかと思って……」
どう反応するのかが気になって、つい上目遣いになってしまったけど、ユミリンは急に頬を赤らめてから大きく溜め息を吐き出した。
「別に、そういう事案があって気になってただけだから、リンリンがどうこうじゃないから」
ぷいっと目を逸らしてそう言ったユミリンからは、照れているような空気が感じ取れる。
私を心配してくれて、その感謝を伝えれば、こうして照れるユミリンは、例え『種』だったとしてもわかり合えそうな気がして、なんだか気持が軽くなった。
「あ、凛花」
「なに、お姉ちゃん?」
私が首を傾げると、お姉ちゃんは軽く頷いて「クラスの二人が……」と口にした。
二人と言われた瞬間、頭に史ちゃんと加代ちゃんの顔が浮かぶ。
「もしかして、史ちゃんと加代ちゃん?」
私が名前を出すと、お姉ちゃんは「そうその二人がね。凛花のこと凄く心配してたわ……一応、検査入院とは伝えたけど……」と頷きつつ、伝えてくれた。
「二人には、私も状況を伝えたけど、それだけじゃ、やっぱり不安は拭えないみたいだったよ」
ユミリンがそう言って困り顔になる。
更に千夏ちゃんが「私なんて、状況を知って立たし、昨日病院まで連れて行って貰えたけど、さっきこうして凛花ちゃんの家で顔を合わせるまで不安だったわ」と続いた。
私は頷きつつ「千夏ちゃんは家族のこともあって、泣いてたもんね」と頷く。
直後、千夏ちゃんがおかしな動きを見せた。
ユミリン、お姉ちゃん、お母さんと何かを確認するように次々顔を見た上で、私に顔を向けてくる。
「ど、どうしたの、千夏ちゃん?」
おかしな挙動にドキドキしながら問い掛ける私に、千夏ちゃんは顔を真っ赤にして「なんで、凛花ちゃんが知ってるの!?」と迫ってきた。
「誰も伝えてないみたいだし!」
と、千夏ちゃんは私に顔を向けたまま、指だけで、他三人を指し示していく。
私は「え、だって、昨日の夜は、家の状況を覗きに来たから」と返した。
「は? え? 退院してたの?」
「うんうん。退院したのは今日だよ。朝も検査とかしたし」
瞬きしながらそう答えると、千夏ちゃんは今度は、ユミリンへと視線を向ける。
「まあ、私はリンリンなら、幽体離脱できると思ってたし」
更に千夏ちゃんの視線がお姉ちゃんに向いた。
「もしかしたらって思ってたけど、凛花は昔から不思議なところがあったから、出来るのかなーとなんとなく受け止めてたから、不思議はないかなぁ」
苦笑気味に答えたお姉ちゃんから、千夏ちゃんはお母さんにも視線を向ける。
「凛花ってスゴいわよね。会話も完璧に聞いてたみたいよ」
お母さんの言葉を聞いてから、再び、千夏ちゃんの視線が、まるで油を差していない機械のようなもの凄く引っかかりのある動きで、私の方へ戻ってきた。
「た、他言はしないから、心配しないで!」
私がそう伝えると、目を見開いていた千夏ちゃんは俯いて大きな溜め息を吐き出す。
「ち、千夏ちゃん?」
なんだかプルプルし始めた千夏ちゃんが心配になって声を掛けると、千夏ちゃんは尻餅をつくようにお尻から床に座り込んでしまった。
「千夏ちゃん! 大丈夫?」
私は思わず千夏ちゃんとは反対に立ち上がる。
そして、見下ろす格好の私と、見上げる格好の千夏ちゃんの視線が交わった。
直後、千夏ちゃんは突然バイク焼死始める。
驚きで言葉が出てこない私の口からは「え? え? えぇ?」と驚きの声だけが漏れ出た。
千夏ちゃんはしばらく笑った後で、私の指しだした手を握り返しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「正直、半信半疑……いや、ほとんど信じてなかったんだけど、凛花ちゃん本当に幽体離脱できるんだね」
「え? 信じて無かったの!?」
私の驚きの声に、千夏ちゃんはまた噴き出して「だってさ、お化けになって、自分の家を覗きに来るんだよ? 普通は信じられないでしょ?」と言う。
「こう見えて、私、凛花ちゃんとは昨日まともに話したばっかりだしね」
そう言いながら千夏ちゃんは、ユミリン、お姉ちゃん、お母さんと視線を巡らせた。
私と、ユミリン、お姉ちゃん、お母さんのこれまでの関係性がわからなかったせいで言い切れず「確かに付き合いは短い……かも?」と自信の足りない言葉になってしまう。
対して、千夏ちゃんからは的確に「なんで、疑問形?」と問われてしまった。