感謝と気遣い
『主様、ちなみにじゃが……時間を止めることは出来そうかの?』
リーちゃんからの質問に、私は首を左右に振った。
その後で「もしかしたら念じれば出来るかもしれないけど、時間を止めた後に、動かせる自信が無いから、怖くて出来ない」と、理由を付け加える。
するとお母さんが「時間を止められる自信はあるのね」と口にした。
私自身、何故だかわからないけど「それは出来る気がする」と頷く。
『ふむ……主様がそう思うのなら、時間停止は出来そうじゃな』
リーちゃんはそう言って頷いてくれたものの、実行する気は無いので、申し訳ない気持で「ごめんね。リーちゃんとしては検証すべきと思うんだろうけど、ちょっと、止まった時間に耐えられる自信が無くて、勇気が出てこない」と告げた。
対して、リーちゃんは『主様がやりたくないと感じておるのは、危険を感じ取っておる可能性もあるゆえ、今この場で検証する必要は無いのじゃ』と言ってくれる。
そんな心遣いにジンとしていたところに、お母さんの容赦の無い指摘が飛んできた。
「そもそも、大丈夫そうなら、好奇心で試してるでしょ、凛花は」
どうやっても否定できそうにない言葉に、私は「うぐっ」と言葉を詰まらせる。
そんな私をおかしそうに見ながら、お母さんは「凛花は私の孫だからねー。渡しそうなことは、もれなくすると思うのよねー」と言って笑った。
「私が気になるところとしては、時間を戻したいって思って、まず時間が止まった……それから少し時間を挟んで、時間が巻き戻った……なんで時間が巻き戻る前に時間が止まったのか……かな」
そう私が言うと、リーちゃんは頷きながら『時間を操るためには、一旦止める必要があるのかも知れぬな』と見解を示してくれた。
私はリーちゃんの話を聞いて、一つの事実に気付く。
「そういえば……」
「どうしたの?」
すぐに反応してくれたお母さんに視線を向けつつ説明してみたものの「巻き戻ったっていったけど、感覚的には、時間が飛んだ感じというか、あっという間に過去だったというか……」と、まとまりがないものになってしまった。
ここで、すかさずリーちゃんが『ビデオ映像の逆再生のような、動きを逆回しした光景を挟まずに、一気にサッちゃんが質問をした場面に状況というか、光景が飛んだという事じゃな』とフォローしてくれる。
続いて、私も自分なりの表現で「そうそう、チャプター飛ばすような感じかな?」と、例えてみた。
けど、お母さんは「ちゃぷたー?」と首を傾げる。
私の説明では伝わらなかったことに軽くショックを感じたところで、リーちゃんが『主様、未だこの時代には映像データはテープで記録されておるゆえ、恐らく通じないのじゃ』と教えてくれた。
「すごいわねー。凛花の時代では、CDみたいに、ビデオも一瞬で飛ばしたり出来るようになってるのね-」
リーちゃんの説明を受けたお母さんは、興奮気味に目をキラキラとさせて、そう言って微笑んだ。
「ね、ねえ、リーちゃん。その……切っ掛けを造った私が言うのもなんだけど、未来の技術のことを話しちゃっても大丈夫……なのかな?」
なんだかとんでもないことをしている気がして、リーちゃんに話を振ってみる。
すると、リーちゃんは『まあ、サッちゃんがこの先の技術のことを知ったところで、世界に影響はないと思うのじゃ』と言ってくれた。
ただ、その後で『まあ、問題があるなら、世界が修正してくるじゃろうしな』と言い加える。
「ちょ、ちょっと、お母さんを実験台にするつもり!?」
思わず声を荒げてしまった私に、当のお母さんが「心配してくれるのは嬉しいけど、リーちゃんもどうなるかわからないんだから、責めるような言い方しちゃ駄目よ」と言われてしまった。
ただ、確かに、わかっていて実験台にしているわけではないのはお母さんの言うとおりだなと思った私は「リーちゃん、ゴメン。言い過ぎた」と謝罪する。
『気にしなくて良いのじゃ。主様が家族を愛していて、家族のこととなると、すぐに反応してしまうのは心得ておるからの』
リーちゃんは澄まし顔でそう言い切って見せた。
気を悪くした様子もないし、むしろ私を理解してくれているのだけど、どうにも敗北感がある。
私はそのまま何も言えず、解消のしようも無い妙な気持を抱えることになってしまった。
「それにしても、時間を操れるなんて、凛花はますますスゴくなってきたわね」
お母さんの言葉に、私は苦笑しながら「使いこなせてないし、たまたま反応があっただけで、同じ事が出来るかは不透明だけどね」と返した。
『わらわとしては、情報を収集し、能力についての情報をより正確にするためにも、何度か試して欲しいところじゃが……』
リーちゃんはそこで一端間を開けてから『まあ、主様の精神にダメージがある可能性があるなら、ここは保留の一手じゃな』と結ぶ。
「リーちゃん、ゴメン」
改めて役に立たない自分の不甲斐なさで謝罪の言葉を口にした私に、お母さんが「何を言っているの。凛花だって、リーちゃんと立場が逆なら同じように考えるでしょ?」と聞いてきた。
「それは……まあ」
自分がリーちゃんの立場なら、確かに保留したと思う。
「ね、だから謝ることじゃないわ……そこは感謝の場面よ」
そう言ってウィンクを決めたお母さんに促されて、私はリーちゃんに「気遣ってくれてありがとう」と伝えることが出来た。