知ることで
「当たりの可能性……」
リーちゃんの言葉を反復しながら、私はお母さんを見た。
そのお母さんは別段、怒っている様子も、悲しんでる様子もな区、どちらかと言えば困っている印象を受ける。
なんとも発言しにくい空気の中で、リーちゃんは『い、言い訳ではないが、主様以外、わらわを含めて、種である可能性があるのじゃ』と少し焦ったように言った。
当然、自然と私とお母さんの目はそんなリーちゃんに向かう。
こちらを窺うような態度をとるリーちゃんに、お母さんは「自分が『たね』だったとしても、自覚が無い可能性があるってことね?」と問い掛けた。
『そ、そういうことじゃ!』
リーちゃんは忙しなく首を上下させて、お母さんの発言を肯定する。
二人のやりとりを見て、思わず私は「それじゃあ、種を探し出すのはかなり難しそうだね」と呟いた。
リーちゃんは私の発言にも頷きつつ『それはそうじゃが、紛れているとしたら主様の関係者な可能性は高いじゃろうと思う』と持論を口にする。
あまり頷きたくはない意見だけど、私にさせたいことがあって、この世界を造った種が、近くにいない可能性の方が低いのは間違いなかった。
私を監視するという意味でも身近な人に入り込んでいる方が効率的でもある。
そして、今話題にしたばかりだけど、表面の意識と種としての意識が繋がっていないのであれば、より紛れ込みやすくなるわけだ。
結局いろいろと話した結果辿り着いたのは、今の状況では『種』の目的も、所在も、見当がつかないという事実で、まさしく打つ手がないことを思い知る事になってしまったのである。
まあ、じっくり腰を落ち着けて対処するしか無いとは思っていたので、残念という感覚は無かった。
「そうだ!」
急にパントてをたたき合わせたお母さんが、私に「こっちに居続けたら、凛花は元の世界で行方不明になってしまわないの?」と尋ねて来た。
「もしもそうなら、早く『たね』を見つけないと大変じゃない?」
真剣な顔で言うお母さんに、私は「それは大丈夫だと思う」と返す。
「どういうこと?」
私は確認のために、チラリとリーちゃんを見た。
話すことに対して反対は無さそうなので、私はお母さんにこの世界と元の世界の時間の流れが違うことを伝える。
それを聞いたお母さんは「まあ!」と驚き目を丸くした。
が、そのすぐ後で「じゃあ、ゆっくりしていけるじゃない!」と声を弾ませる。
「凛花に何かリスクのようなものがあるなら……って、心配になったけど、大丈夫なら、慌てる必要は無いんだから、ゆっくりしていきなさい」
と、そこまで言ってからお母さんは「そう言えば、凛花は兄弟はいるの?」と尋ねて来た。
私が何も考えずに答えようと仕掛けたところで、リーちゃんが『待つのじゃ、主様』と制止を掛けてくる。
どうしたんだろうと思って視線を向けると、リーちゃんはお母さんを見上げて『その質問の答えは未来を知ることになるのじゃ』と告げた。
対してお母さんはクスクスと笑いながら「それは今更よ。もう既に良枝に凛花って言う娘がいることを知ってしまっているものね」と言う。
お母さんのその発言を聞いて、私は確かに今更だなと思ってしまった。
けど、ここから更に続くお母さんの言葉に、私は驚く。
「それに……私が未来を知ったとして、この世界の未来がその通りになるわけじゃないでしょ? だって、既にこの世界の私は、本来孫の筈の凛花を娘にしているんだから、同じ未来になるわけないものね」
リーちゃんは『それは、そうなのじゃが……』と返した。
お母さんは何かを言いあぐねているようなリーちゃんの反応を見て、ポンと手を合わせる。
「私が本来は知らないことを知ることで、監督からお叱りが出るかもしれないことを心配しているのね?」
リーちゃんはお母さんの言葉に、驚いた表情を見せた。
「それなら、大丈夫じゃない? ここまで私もリーちゃんも、凛花も普通に会話が出来ている……つまり、監督は怒ってないって事でしょ? 記憶を書き換える必要は無いと思われてるんじゃない?」
お母さんの言葉に軽く頷いてから、リーちゃんは『もしくは監視されていない……情報を得たことを認知していないか……じゃな』と、スルーしている以外の可能性を上げる。
「どっちにしても、私が知りすぎた場合に、修正が入るのなら、凛花にはわかるし、情報交換はむしろ積極的にしておきましょう」
にこやかな表情で、大胆なことを言うお母さんを見上げながら、リーちゃんは『さすが、主様の血縁じゃ……確かに、どこまで許されるか探る必要はあるわけじゃし、そもそも許諾が必要無いのなら遠慮する必要は無いのう』と苦笑した。
お母さんは「でしょ?」と言いながら得意げに頷く。
それから私に視線を向けると、満面の笑みを浮かべて「で、凛花、どうなの、兄弟はいるの?」と聞いてきた。
リーちゃんがストップを掛けなければ答えるつもりだったので、私は「一人っ子だよ」と告げる。
「そうなのね」
頷いたお母さんに、私はちょっとした悪戯心で「いまのところは」と付け加えた。