描く物語
『主様を中心に世界が回っている可能性が濃厚じゃからな、そこから考えれば、主様は世界……種から必要とされているというのはおかしな話ではないのう』
リーちゃんの発言に対して、私は「でも、種にそこまでの知能があるのかな?」と、これまで目にしてきた怪獣や怪物と言って差し支えのない『種』のイメージを思い浮かべて問い掛けてみた。
『これまでの傾向、記録に基づけば、そこまでの知能がない可能性の方が高い……のじゃが、見え隠れする意図を汲み取ると、少なくとも人間並みの知能はあるのでは無いかと思われるのう』
私とリーちゃんには、この世界を生み出した『種』が特殊だという認識がある。
特殊であるならば、これまでの種の傾向に照らし合わせて考えるよりも、完全な新種として考える方が状況にあっている気がした。
『そう考える理由としては、まず、世界が再現されて構築されている点じゃ……それも、わらわ達にとっての現代では無く、過去世界がじゃ』
リーちゃんの発言に軽く頷いてから「えーと、これはこれまでの傾向だから、そうだとは断言できないけど、種は自分に適した……生息しやすい環境を生み出す傾向がある……だったよね?」と、確認してみる。
対して、リーちゃんは『その傾向が見られるのう』と頷いた。
ここでお母さんが「つまり……この世界は、この世界を作った『たね』っていうのが過ごしやすいように作ったって事よね?」と会話に参加してくる。
『情報が限られている故断言は出来ぬのじゃが、これまでの傾向を元にすればそうなるのう』
「じゃあ、この時代に戻りたかった……とか?」
首を傾げるお母さんに、リーちゃんが『戻りたかった……じゃと?』と戸惑った様子で返した。
お母さんは「何か、確信があるわけじゃ無いから、そんなに強く反応されちゃうと、驚いてしまうわね」と苦笑する。
その一連の反応や言動は、どことなく血を感じる反応だった。
私がそんな風に感じながら見ていたお母さんは「でも、人間並みの知能があって、世界を作れるなら、この時代に戻りたいって思って作っちゃうってことはあり得るんじゃないかしら?」と人差し指を立てて指揮者の如く宙を舞わせながら訴える。
リーちゃんはお母さんの言葉を肯定も否定もせず、ただ考え込むように『ふむぅ』とだけ口にした。
リーちゃんが考え込んでしまったので、私とお母さんはなんとなく視線を交わし合った。
すると、お母さんは何かを思い付いたらしく「あっ」と声を漏らす。
視線を交わした後のことだったので、当然切っ掛けは、私を見たことだ。
そう考えた私は、恐る恐る訪ねる。
「お母さん……何か、思い付いたみたいだけど……私が関係しているよね?」
私の質問に対して、お母さんは「そう……なんだけどね……」と口にしてリーちゃんに視線を向けた。
「あ、えーと、リーちゃん、お母さんが何か思い付いたみたい」
お母さんが口にするのを躊躇ったのは、私ではなく、リーちゃんに聞いて欲しいからだと考え、声を掛けてみる。
声を掛けたリーちゃんは『うぬ?』と口にした後で『済まぬ、主様、考えに没頭しておったのじゃ』と詫びてきた。
私は「それは良いんだけど、お母さんが何か思い付いたみたい」と改めて伝える。
『ほう、サッちゃん、聞かせて欲しいのじゃ』
リーちゃんに声を掛けられたお母さんは「大したことじゃないかもしれないんだけどね……」と前置きしてから、自分の考えを話し出した。
「この世界を造った『たね』は、わざわざ過去の世界を作って、その世界の中心に『凛花』を連れてきたワケよね?」
『その可能性が高いのう』
頷くリーちゃんを確認してから、お母さんは「だから『たね』は『凛花』に何かさせたいんじゃないかって思ったのよね」と言って、私を見る。
「……なにか?」
私が思わず繰り返すと、お母さんは苦笑しながら「具体的には思い付かないんだけどね」と言った。
その後で、少し間を開けてからお母さんは「ただ……『たね』が人間みたいな知能があるなら、この世界を造ったのには訳があって、そこで選ばれた特別な存在が『凛花』なわけでしょう?」と言う。
選ばれたという表現には、少し引っかかりはあったものの、間違ってはいないので「そう受け止めることが出来るかも」と言って頷いた。
するとお母さんは「ちょっと飛躍した話になるわよ」と言い出す。
何を言うつもりだろうと、猛烈に興味を引かれながら、私は「うん。話して」と続きを求めた。
「なんとなくだけど、擦過の先生が思い浮かんだのよ……その『たね』が擦過の先生で、『凛花』が主人公の物語……だからね、凛花には主人公としての役割があるんじゃ無いかって思ったの」
私はお母さんに頷きで返しながら「その役割が、私にさせたいこと……だね」と返す。
「凛花に何をさせたいのかは、まるでわからないけどね」
そう言って苦笑したお母さんは、更に「でも、物語の主人公なら、何かと戦ったり、事件を解決したりするのかしらね」と続けた。