暴走
「つまり、出来ないを別の言葉にすれば、オッケーなんだね!?」
何故か嬉しそうにそう聞いてきた久瀬さんに、私は「まあ、そう……なの、かな?」と疑問交じりに返した。
すると、ユミリンが「なに? リンリンとふみふみとかよちんの三人でしょ、それで『できない』を付けなきゃいいんだよね?」と言って、にんまりと笑う。
直前まで、そんなダメグループにとか言っていた人の表情と言葉とは思えなかった。
「よろしい、このユミリン様が名付けてあげましょう」
得意げな表情でポンと胸を叩いたユミリンに、飯野さんがパチパチと拍手をし出す。
好感触な反応に、ユミリンは更に胸を張った。
「ほほう。根元さんに、良いアイデアがあるなら聞こうじゃないか」
何故か退校するように身体を反らしながら久瀬さんが言うと、ユミリンは「おチビッ子クラブ」と言い放つ。
「誰が、ちびっ子だ!」
最早条件反射のような勢いで久瀬さんがユミリンの腕を叩いた。
対して、飯野さんは「なんか、今人気のあるアイドルグループみたいでいいかもー」と、うっとりとした表情を見せる。
すると飯野さんの言葉を聞いた久瀬さんは「あー、うん。確かに似てるかも」と思い当たるグループがあるらしく、大きく頷いた。
次いでユミリンが「ただのちびっ子じゃなくて『お』が付いてるのがポイントなのよ! 『お』がね!」と力説し始める。
そこへ新たな人物が加わった。
「面白い話してるじゃ無い。我がクラスで、アイドルグループを結成するなんて、楽しそうね」
「お、いんちょー」
高身長で、長い髪をポニーテールする委員長こと木元さんは、軽く手を挙げながら会話に参加してきた。
「三人とも、先輩方の間でも可愛いって評判だものね、ファンクラブとか、親衛隊とか出来ちゃうんじゃ無いかしら、おチビッ子クラブ」
クスクスと笑いながら言う木元さんの言葉に、飯野さんは「そんな~」と口にして、耳まで真っ赤になってしまう。
「先輩にまで評判になってるの? 史ちゃんとか、凛花ちゃんは、まあわかるけど、私は違うと思うんだけど? ほら、どっちかって言うと生意気じゃん?」
久瀬さんの言葉に、委員長は「その生意気なところが良いみたいよ? 可愛い見た目で凶暴なの、最近流行の不良の格好した猫ちゃん達みたいで良いんだって」と笑顔で返した。
「あー、なんか『舐めんなよ』とか、スケバンとか、かよちん似合いそうだ」
大きく頷きながら、ユミリンが言う。
久瀬さんはニコニコの委員長とユミリンを前に、助けを求めるように私に視線を向けてきた。
ただ、久瀬さんの反応から判断すると、根本にあるのは『嫌』ではなく、『恥ずかしい』な気がするので、ここは委員長の意見に乗っかることにした。
「確かに、容姿だけじゃ無くて、性格を含めて、久瀬さんは可愛いと思います」
多少悪ふざけだった部分はあるかも知れないけども、口にしたのは本心に違いないので、こちらを見詰めてくる久瀬さんを真っ直ぐ見返す。
そこから数秒、飯野さんに続いて久瀬さんも真っ赤になってしまった。
なんだろう、達成感というか、充足感というか、満足で胸が満たされていく。
ちょっと、揶揄って反応を見たくなる花ちゃんの悪癖を、ほんの少しだけど理解できてしまった。
「これで我がクラスは体育祭も文化祭も、上手くやれそうね」
急にそんなことを言い出した院長に「どういうことですか?」と聞いてみた。
「えっと、六月の体育祭があるでしょ?」
委員長がそう聞いてきたので、私は「はい」と頷く。
この世界に迷い込む前の元の世界でも六月に体育祭があったし、さっき確認した生徒手帳にも、一年間の行事予定に記載されていた。
ちなみに文化祭は九月になっている。
そう言えば、前期後期の二学期制じゃ無くて、1~3学期の三学期制で、夏休みと冬休み、それと進級時期の春休みはあるけど、秋休みは無いという予定になっていた。
「ウチの学校では、応援合戦にクラスの代表が参加するんだけど、アイドルグループを送り込んだら、最高だと思わない?」
目を輝かせて言う委員長に、私は「そ、そうかも……ですね」と曖昧に答える。
他の子なら私も全力で応援するところだけど、その委員長のいうアイドルとは、話しの流れからして、私たちのことだと容易に察知が付くのだ。
無邪気に頷ける状況じゃ無い。
一歩語り出した委員長は話しを止めるつもりは無いらしく、もの凄く早口になって「文化祭の時は、アイドルンステージをやれると思うのよ。私、いつかアイドルのステージを段取りするような人になりたいのよね!」と熱い思いを語り出した。
あまりの暴走具合に気圧されながらも「い、委員長。クラスの出し物とか、代表とか、ちゃんと皆で話し合わないと、だ、ダメじゃ無いかな?」と指摘してみる。
対して、委員長は「大丈夫、私に任せておいて、優秀なマネージャーとして頑張らさせて貰うわ!」と、マネージャーの自分を想像しながら鼻息荒く言い切った。
完全に想像の世界に突入してしまった委員長を眺めていると、ユミリンが「まあ、いいんちょーは敏腕だから、大丈夫、アイドル頑張ってね!」と声を掛けてくる。
私は苦笑しつつ「クラスのみんなが賛同してくれるなら、私は頑張るよ。反対の人がいたら辞退するけどね」と、皆が同意したらという条件を付けた。




