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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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結成

「が、頑張ったよ、リンリン」

 もの凄く気まずそうにそう声を掛けてきたユミリンに、私は上手く返事をすることが出来なかった。

 思った以上に、私には自分の出来無さぶりがショックだったらしい。

「そうだよぉ~、一回でも出来てスゴイよぉ」

 ユミリンの後から声を掛けてくれたのは、私と同じくらいの身長でやや長めの髪を二本の三つ編みにしている子で、体操の隊形の時はお隣さんだった飯野さんだ。

「私は全然上がらなかったもん」

 確かに飯野さんはちょっとしか身体が上がらなかったのだけど、私だって、どうにか頑張って身体を持ち上げても、顎がギリギリ鉄棒の上に出たのを、おまけで一回とカウントして貰えただけで、大して変わらない。

「顎が鉄棒を越えただけで、おまけみたいなものだから」

 納得いっていないことをそのまま口にすると、今度は肩に掛かるぐらいのボブの久瀬さんが「いやいや、林田さん、それは違うよ」と話しに入ってきた。

「おまけっていってもさ、林田さんは顎が棒を越えたわけじゃん? それってスゴイよ。というか、それで落ちこまれたら、史ちゃんとか、私とかどうしたらいいんだってなるじゃん?」

 飯田さんと視線を交わしながら、溜め息を吐き出した久瀬さんも、体操の隊形先頭組の一人で、身長的に、私と同じく補助を必要として否仲間だったりする。

 ちなみに、史ちゃんというのは飯田さんのことで、下の名前は史子だったはずだ。

 飯田さんと久瀬さんはお友達なんだと思う。

 私は出来が悪かったことを嘆くのは、失礼なのかもと思い直して、二人に「おまけでも一回は一回だものね。これから頑張ってもう少し納得出来るようになれば良いよね」と返した。

 そんな私の言葉に同意してくれるかと思ったら、飯野さんが「それは困る~」と言って首を左右に振る。

 久瀬さんはこくこくと頷いてから、私の肩に手を置くと「出来ないシスターズから勝手に抜けないでよ」と言い出した。

「えぇー」

 とても同意できなかった私は思わず不満の声を上げてしまう。

 対して、久瀬さんは「女の子なんだから、懸垂一杯出来るより、出来ない方が女の子らしいと思うの」と言いながらにじりよってきた。

 堕落を促すような言葉そのものよりも、男の子らしいとか、女の子らしいとかが、問題視される時代に教師になりかけていた私としては、ナチュラルな久瀬さんの発言に、時代を感じてしまって、言葉を無くしてしまう。

 そんな理由でリアクションを取れなかった私に、久瀬さんは更にくっついてきて「抜け駆け禁止だからね!」と言い出した。

 飯野さんまでもが、同じように密着してきて「禁止だよぉ」と言う。

 二人に囲まれた私は早々に「わかりました」と白旗を揚げた。


「これで、出来ないシスターズ結成だね!」

 明るい顔で言う久瀬さんに、私は「できないって、余り良い響きじゃ無いと思うんですけど」と苦笑しながら指摘してみた。

「それなら体育出来ないシスターズにする~?」

 小首を傾げながら言ってくる飯田さんに、私は「できないって付いてるの嫌じゃないの?」と切り返す。

「でも、出来ないからね」

 サラリと言う久瀬さんに「うん」と頷いた飯野さんは「これからも出来ない自信があるよ!」と胸の前で両手の拳を握りしめた。

「こ、向上心とかは……」

 私の言葉に「凛花ちゃん」と久瀬さんが名前を呼びながら肩に手を置く。

 突然の名前呼びに動揺してしまった私に、久瀬さんは「私だって、小学生時代頑張った。頑張ったけど出来ない事もあるんだ」と遠い目で言い加えた。

「林田さ……凛花ちゃん。人間には向き不向きがあるんだよ」

 飯野さんも、私の呼び名をサラリと変えた上でしみじみと言う。

 更に久瀬さんが「走るにしてもさ、一歩が違うじゃん? 一歩の長さがさ」と言いながらむき出しの自分の太ももをぺちぺちと叩いた。

 その様子を見ていた飯野さんが「あ、でも、ドッヂボール避けるのは向いてるかも~」と両手を上に上げて左右に身体を動かす。

 ただ、腰を振っているようにしか見えなかったのは、飯野さんに運動の才能がないせいか、逆にダンスの才能があるせいなのか、判断に悩むところだ。


 思いの外盛り上がってしまっていたところに、ユミリンが「どうだった?」と言いながら乱入してきた。

「どうって?」

 思わず瞬きをしながら聞き返してしまった私に対して、ユミリンは「え!? 私の懸垂見ててくれなかったの!?」と言う。

 背の順で順番が回っていたので、最後の方になるユミリンの順番が回ってきたのは、私たちの会話が盛り上がっていた最中だったみたいだ。

「ゴメン、見てなかった」

 素直に謝ると、ユミリンは「十三回もやったのにー」と大きく肩を落とす。

 そんなユミリンに久瀬さんが「残念だったね。根元さん! 凛花ちゃんは我々出来ないシスターズの仲間なので、出来る根元さんとは所属グループが違うのだよ!」と言い放った。

「違うのだよ~」

 更に後追いをした飯野さんも加わってくる。

「り、リンリン! リンリンはそんなダメグループに入っちゃうつもりなの!?」

 大袈裟に驚くアクションを取られた私は「いや、えーと……」と言葉に窮してしまった。

 そんな私に、飯野さん、久瀬さんの期待に満ちた目と、面白がっているとわかるユミリンの視線が集中する。

 私は大袈裟に溜め息を吐き出して「やっぱり、グループ名に『できない』って付いてるのは受け入れられないかも」と思うままを口にした。

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