結論
『えっと……それって大丈夫ですか?』
私の問い掛けに『大丈夫とは、何についてじゃ?』とリンリン様が聞き返してきた。
『単純に、強度……とか?』
リンリン様が確認しているので、私が具現化に際して、周囲の物体からエネルギーを引き出したのは間違いない事実である。
その原理がどうなっているのかとか、気になることは無数にあるけども、目下最大の問題と言うか、確認しなければと思ったのは、エネルギーを引き出した事による劣化具合だった。
一応この世界は神世界の一種であり、現実世界ではない。
とはいえ、破壊活動を行いたくはないし、普通に生きているようにしか見えないこの世界の人々を巻き込みかねない事態は引き起こしたくないのだ。
例えば、具現化に必要なエネルギーを私の意図に関せず周囲から引き出してしまった場合、それが子お病院の基礎のコンクリートで、エネルギーが減少して脆くなってしまったら、最悪崩壊すら起こりかねないと思う。
『……なくはないの』
リンリン様の答えに、苦笑しつつ『ですよねー』と返した。
けど、私の考えが筒抜けのリンリン様は盛大に溜め息を吐き出す。
『……とはいえ、中止する気が無いのならば、様子を覗いつつ試すしかないじゃろうな』
諦めムードで言うリンリン様に、私は申し訳ないなと思いつつ『お手数をおかけします』と伝えた。
『とりあえず、感触では違いがわかりませんね』
ベッドを手で押したり、軽く叩いてみたりしたものの、違和感はなかった。
布のカバーに包まれた薄手の毛布も、特に変化は無いし、エネルギーを抜かれたからとはいえ、薄くなっているようには見えない。
『リンリン様はどう思いますか?』
私の問い掛けに、リンリン様は『元の世界のように感度が良いセンサー類が扱えるわけではないので、断言までは出来ぬが、今さっきの具現化に使われたエネルギー量であれば崩壊や以上の類いを起こす量ではない……ということじゃろうな』と答えてくれた。
おおよそ私の予測と同じなので、やはり結論は変わらない。
ということで、私の代わりに家に行って貰うドローンの制作に入ることにした。
頭に思い描いたのは『虫』だ。
サイズを考えると、蚊やハエくらいの小型のものが目につかなくて良いのではないかと思う。
が、ここでリンリン様が『小型化するのは良いと思うがの。航続距離に問題があるかも知れぬ』と懸念を提示してきた。
私の経験上、具現化したものがエネルギー不足で機能停止をしたことはない。
それは何故かと言えば 身体の内側に神世界との繋がりのある京一お父さんが、その繋がりを利用してエネルギーを無尽蔵に引き出せるからだ。
お父さんを売価にすることで、神世界からエネルギーを引き出すことで、私の具現化した者達は消滅することなく、エネルギー不足を起こすこともない。
では、この世界で同様のことが出来るかというと、お父さんがいないので、当然否だ。
そして、無尽蔵のエネルギー供給が無いなら、具現化したものはどうやってエネルギーを確保し、存在の維持と稼働を行うのかということになるのだけど、その答えは『周囲から集める』だろう。
実際、受信装置は、私の個室を構成する建物や什器からエネルギーを吸い取って具現化した。
これから具現化する小型ドローンが飛んで行った先で、エネルギーの不足に陥った場合、同じ事をする可能性は極めて高い。
『うむ……故に、多少大きなバッテリーを内蔵したものの方が良いのではないかと思う』
私の思考を受けて、リンリン様はそう結論づけた。
『要は一度きりの使い切りのイメージで具現化すれば、問題ないと思うんですよね』
私は目標をそう定めて、意識を集中した。
感覚的な話にはなるものの、問題なくそういったものを生み出せることは出来そうだと、私の中で確信が生まれる。
『となると……形……ですね』
最初に考えていたのは虫型で、ハエや蚊のような小型で飛べるものをイメージしていたのだけど、家までの距離を続けて想像したところで、リンリン様の指摘通り移動距離的に限界に達してしまうことが予測出来た。
ならば、それよりも大きめな雀や文鳥の様な小型の鳥をイメージしてみると、虫と違い辿り着けそうな感じがしてきたが、それなりの時間、留まるまでは出来そうにない。
では、元の世界で具現化したことのあるドローンならどうかと考えてみると、無事目標を達成できるという確信を得ることが出来た。
漠然とだけど、私の中のイメージが、人工物であることが大きいようで、生物をもしたものを生み出そうとするとハードルが上がるらしい。
とはいえ、お姉ちゃん達の前にドローンを飛ばして受け入れて貰えるかという問題があった。
霊的なものと言っていたのに、機械が飛んできたら、話がこじれるのは間違いないと思う。
せめて動物なら、魂を憑依させて操ったという言い訳が立ちそうなのにと考えたところで、私は閃いた。
動物のような見た目で機械……この条件で連想したのは、他ならぬリンリン様である。
『決まりましたね』
私の言葉に、リンリン様は『わらわを具現化するのかえ?』と困ったような、それでいて少しワクワクしているような複雑な声音で反応してきた。