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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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授業

「林田、大丈夫なのか?」

 グラウンドに出たところで、早速、担任でもある綾川先生にそう声を掛けられた。

 私は頷きつつ「はい。大丈夫そうなので」と答える。

「そうか、おかしいと思ったらすぐに言うように」

 心配してくれている綾川先生に、私は「わかりました。ありがとうございます」とお辞儀を返してから、クラスのみんなが集まっている場所へと、ユミリンと小走りで駆け寄った。


 クラスのみんなが集まっている鉄棒の前には、女子生徒だけで40人くらいが集まっていた。

 体操服に付けられたゼッケンによれば、私の所属している『1-F』に加えて『1-E』のものもある。

 授業は2クラス合同で、男女別の授業になるようだ。

 ちなみに、男子達はグラウンドの中心に集まっている。

 サッカーボールをいくつか出しているようなので、今日はサッカーのようだ。

 そんなことを考えていると、丁度、5時間目の開始を告げる本鈴がなり始め、私たちの後からやってきた綾川先生が「それじゃあ、始める」と言って手を叩く。

 すると、それを合図に皆が整列し始めた。

 ポンと私の肩をユミリンが叩いて「じゃ、後でね」と言って後ろに下がっていく。

 その間にも皆が動いていき、どういう()()()()見ているだけで理解できてしまった。

 私も、ルールに従って、列の先頭に立つ。

 背の順なので、身長の低い私が先頭に立つのは、仕方が無いことだった。

 とはいえ、一列では無く、1クラス四列ずつなので、先頭は私以外にも7人もいる。

 状況的に問題なのは、先頭の私が参考に出来るお手本が横か後ろにしかいないことだ。

 ここで、動揺せず、私は切り札を切ることにする。

 トイレの中で、状況確認のために使った目で、背後からの視点を得るのだ。

 常時使うのは難しいけど、動き始めの確認だけならそれほど負担でもないし、片目を閉じていれば、自分の目と能力で生み出した目を同時に使うことも出来る。

 まず目だけを出現させた私は、視界をリンクせずに、後方へと移動させた。


「体操の隊形に開け」

 指示の後、綾川先生がピッと笛を慣らし、私のすぐ横にいたE組の森野さんという子が真っ直ぐ上に手を伸ばした。

 基準である森野さんから遠ざかるように、皆が移動していく。

 私は先頭なので、横に少し移動するだけだ。

 一応、片目で、距離がおかしくないか確認してみたのだけど、どうやら、私に合わせて並んでくれているようで、縦の列はかなり整っている。

 皆が配置につくと、そのタイミングで、綾川先生がラジカセのスイッチを入れると、軽快な音楽トともに『ラジオ体操』が始まった。


 体操を終えた私たちは、再び綾川先生の指示と笛の音に従って、密集隊形を取った。

「それじゃあ、今日の授業の内容を説明するから、座ってくれ」

 綾川先生の言葉に、皆がゆっくりとその場に腰を下ろし始める。

 座った子達は、綾川先生の指示も無しに、両膝を抱えるようにして『体育座り』をしていた。

 私もそれに倣って、膝を抱えるように、腕を回して座る。

 最近では、集中力が落ちるとか、腰痛の原因などと言われている座り方だけど、この昭和の世界ではして当たり前なのだと察した。


 体育の授業は綾川先生の説明と実演の後、私たちも順番に実践ということになった。

「補助がいる者は言うように」

 明らかに私を見ながら言う綾川先生に、私は苦笑するしか無い。

 懸垂をするので、やや高めの鉄棒に、手が届かない可能性を想定しているのだ。

 とはいえ、私はこれでもエージェントもどきの潜入調査が出来る訓練をしてきているし、能力も使えるので、ある程度、実力を調整できる。

 どの程度がしぜんだろうかと考えていると、それほど強い力では無かったけど、突然、お尻を叩かれた。

「へっ?」

 思わず口から声が飛び出す。

 状況を把握するよりも先に「リンリン、お尻汚れてる」と言うユミリンの声が聞こえ、更に、二回、三回とお尻が叩かれた。

 よく見れば何人かの子も同じように、お尻を叩いて汚れを落としている。

 紺色なので砂の薄茶色は目立つのだ。

 けど、問題はそこでは無い。

「ユミリン、自分で出来るから!」

 そう言って自分のお尻に手を当てつつ、体を半回転させて、私はユミリンから距離を取った。


 自分でお尻を叩いて砂埃を落としながら、改めてどの程度の実力で行くかを考えていた私は、素直に実力で挑むのがいいかなと考えた。

 能力の使用をしてまで、良い結果を残す理由もないし、むしろ数値が良すぎると悪目立ちするのでは無いかとも思う。

 それに、潜入調査でも無いのに能力で実力を底上げするのは、ズルな気がしたのも大きかった。


「補助が必要なら言うようにと……」

 綾川先生が最後まで言う前に「手が届くと思ったんです」と言って、私はその言葉を遮った。

 その後で、私は強い屈辱を感じながら「綾川先生、お願いします」と頭を下げる。

 すると、綾川先生は私の後ろに回って「いいか?」と聞いてきた。

「はい、お願いします」

 そう口にすると、直後、腰に手が当てられる。

 くすぐったさを感じる間もなく、グッと身体が持ち上げられた。

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