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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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事の始まり

「あら、気が付いた?」

 私が身体を起こすと、それに気が付いたらしい保険医の先生だと思われる白衣の女性がが声を掛けてきた。

 私は内心の動揺を抑えて「はい」と返す。

「貧血だとは思うけど、不調が続くようなら、一応病院で見て貰いなさい」

 優しい口調で声を掛けてくれる保険医の先生に「わかりました」と頷いて、寝ていたベッドから降りようと周囲を見渡した。

「上履きはそこにありますよ」

 指さして教えてくれる保険医の先生に改めてお礼を言ってから、ベットに腰掛けて上履きを履く。

 赤いゴムと白い布で構成された上履きには『林田』と書いてあった。


「お世話になりました」

 廊下に出て頭を下げてから、保健室の扉を閉めた私は、すぐに、状況を確認するために、トイレに向かうことにした。

 校舎自体はなんだか古い感じがするのに、使われている建材は新しい感じがして、なんだかちぐはぐな感じがする。

 コンクリートの廊下は直接日が当たらないせいか、少し肌寒かった。

 廊下を行くと、少し先に扉の無い入口が二つ横並びにあるのが見える。

 それぞれの入口の上には白いプレートに、黒い飾り気の無い文字で『男子便所』『女子便所』と書かれていた。

 軽く全身を確認して、セーラー服に身を包んでることを確認した私は、女子便所と書かれた入口を入る。

 先客がいないか確かめてから、まずは手洗い場に設置された鏡で自分の姿を確認した。


「んーー、見た目は、私だけど……」

 鏡の中の私が困惑で渋い顔をした。

 何しろ今着ているセーラー服が、通っている中学のモノとは違っていたし、保健室も歩いてきた廊下も、窓から見える景色も、もちろん保険医の先生も、全部まとめて見覚えが無い。

 パニックになら無くて済んだことに成長は感じるけど、状況は何一つ変わっていないので、私は大きく息を吐き出して、まずは可能な範囲で状況の確認をすることにした。

 早速、トイレの個室に立てこもって、自分の状態を確認しようと思って、奥に足を踏み入れたところで、衝撃の事実に気付く。

 なんと、個室に設置された便器が、全て和式だったのだ。

 緋馬織の学校にも和式の便器は設置されていたけど、洋式が全くなかったいうことは無かったし、これまで目にした雰囲気から、思考を巡らせた私は『過去の世界』じゃ無いかと推測する。

 とりあえず、個室に入ってドアを閉じて鍵を掛けたところで、自分の身に付けているセーラー服を確認することにした。


 元の中学のセーラー服は白い一本ラインだったのが、今着ているセーラー服は細い三本のラインになっていた。

 胸元のエンジのリボンは、白のスカーフに変わっている。

 スカートも膝丈だったのが、膝下に変わっていた。

 ソックスの色は白で同じだけど、くるぶし丈のショートソックスからだったものが、膝に掛かるくらいのハイソックスに変わっている。

 一応、パンツの方も素材は同じ感じだけど、元々履いてたモノよりゴム部分がおへそに近くなっていた。

 上に付けていたスポーツブラの方は消えてしまっていて、ペチコートとキャミソールが合体したような白いワンピースみたいなモノに変わってしまっている。

 着ている服から考えても『過去の世界』仮説は正しそうだなと思いながら、スカートやセーラー服のポケット絡みつけた新たな手がかりを確認することにした。


 胸ポケットから出てきたのは生徒手帳だ。

 顔写真は、私で間違いない。

 鏡でさっき確かめたとおり、いつも通りの私の顔なので、別人の身体に入ったことはなさそうだ。

 横に書かれている名前も『林田 凛花』になっている。

 問題は生年月日の欄で『昭和51年』と書かれていた。

 私どころか、もう一人の私でもある京一の生まれた年よりも数十年前である。

 そして、衝撃なのは住所の欄があることだった。

 書かれているのは、今住んでいる実家の住所なのでそれ自体に違和感は無いのだけど、生徒手帳の学生証に住所が書いてあること自体が信じられない。

 ただ、個人情報保護が法整備されたのは、今、私の居る世界よりも未来だったかもしれないと気付いて、今は()()()()()なのじゃ無いかという仮説の裏付けになった。

 他にも、血液型や所属するクラスの記載があって、1年F組と書かれている。

 血液型を書くのは、まあ、事故などの緊急時に活かせるからかもと思えたんだけど、所属してるクラスまでわかるのはどうだろうと思ってしまった。

 しかも、F組……アルファベット順にその前のクラスがあるなら、6番目のクラスということになる。

 1クラス20人でも120人近く生徒がいる計算だ。

 1学年に三桁も生徒がいる巨大な学校かと思ったけど、生徒手帳に書かれている学校の名前は、私の通っている中学校の名前そのままなので、この時代にはそのくらい人がいたんだろう。

 ちょっと信じられなかったけど、昔は生徒が多くて大変だったという話を聞いたような朧気な記憶もあるし、そこを考えても意味はなさそうなので、一端保留にすることにした。

 それよりも、学校の名前を確認できたことで、全く関係ない場所に来たわけで無いかも知れない。

 おそらく、数十年、半世紀以上昔なので、建物自体にも周囲の景色にも見覚えが無いのだとすると、今立てこもっている女子トイレまで迷わなかったのにも多少の説明が付いた。

 耐震工事などのリニューアルで見た目が変わっただけで、保健室やトイレの配置が一緒だからと考えると違和感は無い。

 まあ、どの学校も似た造りだっていう可能性もあるけども、そこは後で直接歩いて確認すればいい話だ。

 ともかく『過去の世界』に迷い込んだという仮説を立てた私は、ここで、一つの疑問に辿り着く。

『この世界に迷い込んだのは私だけだろうか?』

 第一の目標というか、確認事項を決めた私は、とりあえず、自分のクラス『1年F組』を目指すことにした。

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