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第7話 私たちの野望……!

 うーん……ティーカップに注がれるお茶の香りを私は吸い込んだ。少しだけ茶葉は多めに、濃いめに淹れたお茶が私の好み。


「うーん、おいしい」


 めろでぃたいむのみんなはただいまダンスの自主練中。私はいったん屋敷に戻ってお茶の時間だ。ダンスのほうはなんとかなりそうな目処がついた。

 その時、私の居る居間のドアがノックされる。来たわね。


「どうぞ、ラインハルト」

「急に呼び出してどうしたんだい? まぁ、リリアンナはいつも急だけど」

「うふふ、まあ座って。お茶はいかが?」

「ああ」


 ラインハルトにお茶が出されるのを待って、私は切り出した。


「ねぇ、ラインハルト。いつまでここにいるの」

「ぶっ」


 ラインハルトがお茶を吹き出しそうになる。だって、ねぇ。ただ友人を心配して訪ねたにしては滞在が長いのだ。


「勘違いしないでね。私はラインハルトにずっと居て貰ってもいいんだけど」

「うん……」

「それなら、ちょっと頼みたいことがあるのよ」


 私はカップをソーサーに置き、ラインハルトにまっすぐに向き直った。


「……頼み事ってなんだい」

「曲を作って欲しいの」

「曲!?」

「ええ、めろでぃたいむの為の新曲を」


 ラインハルトは黙ってしまった。私がさらに言葉を口にしようとした瞬間。ラインハルトは顔を上げた。


「曲なら、もうあるじゃないか」

「あれは私の前世の世界のアイドルソングよ」

「だとしても、こっちでその曲を知っている人なんかいないだろ。それでいいじゃないか」

「……本当にそう思う?」


 私はラインハルトに聞き返した。


「他の人が、他の人の為に作った曲で、あの子たちが本来の輝きを発揮できると思う?」

「それは……まぁ、持ち歌があった方が良いのかもしれないけれど」

「だからね、それをラインハルト、あなたに作って欲しいの」


 私はにっこりと微笑んだ。ラインハルトは彼女たちを知っている。それぞれの魅力を曲に籠めることができる。


「でも……僕は……」


彼の戸惑いが伝わる。でもラインハルト、私には分かっているのよ。なんでいつまでも首都に帰らないのかもね。


「僕はリースフェルト伯爵家の……」

「裏方だもの。変名でやればいいじゃない。やってみたくない? 自分の曲を発表してみたくない?」

「そりゃ、やってみたいさ!」


 とうとうラインハルトは降参した。じゃ、決まりね。


「では、総合プロデューサーの私から、あなたを音楽プロデューサーに任命します」

「……承知しました、リリアンナプロデューサー」

「うん!」


 こうして、ラインハルトがめろでぃたいむの音楽プロデューサーに就任した。


「うふふ」

「嬉しそうだね」

「そうね、仲間が出来たんだもの。歌やダンスをただするだけではアイドル業は成り立たないわ。音楽以外のことも、相談にのってね」

「ああ。もちろん」


 最小人数だけど、運営の体制が出来てきた。


「キャロルたちの孤児院も今は私が食料を差し入れている状態だけど、いずれは彼女自身の稼ぎでなんとかなるくらいにしなきゃね」

「それなんだけど、本当にそれでいいのか?」

「え?」


 ラインハルトの言葉に、私は思わず聞き返した。


「孤児院の運営は教会だろう。それが個人が支えるのは違うと思う。教会は寄付で成り立ってる。なら、その寄付が増えるようにしないとずっと継続するっていうのは難しいんじゃないかな」


 ラインハルトがこういう言い方をする時は、何か考えがある時だ。


「なるほど……それじゃあ、どうしたら教会に寄付が集まるかしら」

「そりゃ、他に貴族とかの大口の寄付元を得るか、住民の寄付が増えればいい。ただ、寄付というのは、余裕がないと集まらない。つまり……このモンブロアが豊かにならないとだめだ」


 それは……難しい。娘の私が言うのもなんだけど、お父様は目端の利くたぬき……いえ、狡猾……いえ、賢い人だ。温泉を失って財源がなくなったモンブロアに無策であったわけではない。と、いうか温泉さえあればザクザクそれで儲かっていたんだもの。色々手を打ったけれども駄目だったわけだ。


「僕は『めろでぃたいむ』が鍵を握っていると思う」

「……え?」

「以前は温泉を目当てに、貴族がモンブロアに来ていた。なら、彼女たちを目当てに来て貰えれば……」

「モンブロアは復興する?」


 ラインハルトは黙って頷いた。嘘っ、そしたらあのシャッター商店街以下の町並みも生まれ変わるのかしら。


「アイドルってのは、ブドーカンっていう約一万五千人も入る劇場をいっぱいに出来るんだろう?」

「もっと大きなところもいっぱいにできるわよ。でもね……それはトップオブトップの一握りのアイドルだけ……」


 ラインハルトの言うように簡単なことではない。


「でもさ、この世にアイドルは他にいないわけだし、そしたら可能性は高くないか」

「あ……そうね」


 そう言われてみればそう。他にライバルはいない。……ってことはそこにチャンスがあるってこと!?


「そうすると、随分大きな話になってくるわね。歌と踊りを見せて楽しいだけじゃすまなくなってくるわ」

「その為にはそうしたらいい? 僕に教えてくれ、リリアンナ」

「随分やる気ね、ラインハルト」

「やるからには、中途半端は嫌だからね。それに……この『めろでぃたいむ』が成功したら、僕は音楽で身を立てられるかもしれないじゃないか」


 そうか、だからか。ラインハルトがこんなに前向きな姿勢なのは。


「鉱山と一緒だ。僕はアイドルを事業として成り立たせたい。結果、僕の音楽が世間に知られるなら……とても嬉しいよ」

「なるほど。では一緒に掘り当てましょう、アイドルという金脈を!」

「ああ」


 本当に私たちで出来るかしら? でも、ラインハルトの言うように『めろでぃたいむ』を当てたら、私の領地経営の腕を認めて、お父様も無理に王子との婚約を結び直そうとしないでいてくれるかも。

 ……ああ、どきどきしてきた!

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