第21話 果たし状がわりにこれどーぞ!
「ロイド☆βの皆さんにお渡したいものがあります!」
頼もう! 調べて判明したロイド☆βの事務所に私たちは来ていた。昨日、ラインハルトが必死に作った曲をひっさげて。
「はいはいー。お待ちくだ……」
「あっ!」
「あ」
すると扉の向こうから出てきたのは、まさかのロイド王子本人だった。
「リリアンナ!? 何しに来た」
「何しに来たって……こほん。私たちはロイド☆βに楽曲提供のために参りました」
「楽曲提供!?」
ロイド王子の警戒度がMAXになったのを感じる。
「ええ、まさか今の楽曲に満足している訳ではないでしょう? ですから当グループの音楽プロデューサー、ラインハルトからプレゼントです。そして! 対バンを申し込みます」
「……対バン?」
「一ヶ月後、ワーズの『めろでぃしあたー』にてめろでぃたいむとロイド☆βとの合同ライブをやりましょう。そこでどちらが真のアイドルか、決めようではないですか」
私の申し出に、ロイド王子は面食らったようだった。だが、事態が飲み込めるとにやりと笑って答えた。
「いいだろう」
「では決まりですね」
こうして『めろでぃたいむ』『ロイド☆β』の対バンライブが決定した。
勝負は、一ヶ月後……!
***
「対バンですか……?」
モンブロアに戻ってきた私たちは、メンバーの前でそれを発表した。みんなの戸惑いの感情が伝わってくる。ごめんね、勝手に決めてきちゃって。
「うーん、争いごとはちょっと……」
「何言ってんだよ、セシル! 喧嘩売られてんだよ? 黙ってみてろって?」
「私もあんまりこういうのは」
「イルマまで!」
「モモはどっちでもいいにゃ」
「僕はやれることをやるだけさ」
メンバー内でも意見が分かれてるな。よし。
「皆さん、皆さんはいつも通りライブをすればいいだけです。どっちがよかったかはお客さんの決めることです。そして……このことはきっと、みなさんにとっていい刺激になると思っています」
するとキャロルが首をかしげる。
「……刺激? ってなんですか」
「アイラを除いて、あなたたちは他のアイドルに触れたことがないでしょう? だってこの世界には他にアイドルは居ないのですから」
「そういわれれば」
「でもこれからは他のアイドルとも競っていかなきゃいけない。少なくとも、私は他のアイドルをプロデュースするつもりだわ。だから今のうちに体験して欲しいの」
「……分かりました」
さ、では対バン当日にむけてレッスンにはげみましょう!
***
あっという間に一ヶ月は過ぎた。私たちの対バンの話は、強く告知した訳でもないのに噂が噂を呼び、チケットは瞬く間にソールドアウトした。
「では、今日は初の対バンライブです」
「はい」
「前にも言ったとおり、いつものライブをすればいいから。私がこれを言うのは、みんながいつも、お客さんに楽しんで貰えるように精一杯の努力をしているからです」
「……はい!」
「じゃあ、行くわよ! めろでぃたいむの合い言葉!」
「歌とダンスで! みんなを元気に! かわいいこそが!」
「「世界を救う!」」
バッと全員がそのまま拳を上に突き上げ、手のひらを広げた。さぁ戦いが始まる。
今回私は湧かないで、地蔵に徹する。あえてそうして、この二組の勝負の行方を見守るつもりだ。
「みなさーん、こんにちはー!」
「うおおおお!」
キャロルが手を降りながら現れると、歓声があがった。
「今日は、初めての対バンということでちょっと緊張しちゃってます! では、ゲストの『ロイド☆β』を紹介します!」
「こんにちはー」
すると黄色い悲鳴が会場内に湧き上がった。
「きゃあああああ!」
「わー、すごい。それでは、知らない方の為にも自己紹介してもらっていいですか?」
「はい」
そうしてずいっと前に出てきたのはセンターの金髪。
「俺はクリス。そしてこっちの髪の長いのがレン、ちっちゃいのが……」
「ちっちゃいって言うな! あ、セドリックです」
会場内に笑いが沸き起こる。これだけの人を前にして物怖じせずMCができるのは中々だわ。
「それから黒髪のがシリル、赤い髪の彼がアランです」
「「よろしくお願いしまーす」」
「ありがとうございました! それではロイド☆βのみなさんに歌ってもらいましょう!」
会場がわーっと歓声に包まれる。その中ではじまるイントロ。
「『☆に願いを』だ」
横に居るラインハルトから小さく声が漏れた。
SHOOTING STAR ☆に願いを
夜空に祈る 君と会えたら
どきどきの帰り道 背中を見ることしか出来ない
あと少し ほんの少しの勇気がでないよ
また明日ね それだけでいいのに
そして今日も君は 行ってしまう
だから僕は夜空を眺める 願い星探して
SHOOTING STAR ☆に願いを
夜空に祈る 君と会えたら
うん、切ない片思いの曲、すごくいいわね。女の子たちがうっとりするのもわかる。今回は作詞もラインハルトがしているのだ。やるじゃない。
こうして甲高い声援を浴びながら、ロイド☆βのライブは終わった。
さあ、『めろでぃたいむ』の時間よ! みんな、頑張って!
「それでは、私たちの代表曲を聞いて下さい『めろでぃたいむ』」
めろでぃたいむ 夢の時間がはじまるよ
かなしいこともあったよね でも今はめろでぃたいむ
愛することは愛されること そう教えてもらった
過去とは今を生きるためにあるって 誰かが言ってた
そっと包み込む優しさが きっとそばにあるから
失敗しても倒れても 泣かないで 諦めないで
素直になれない でも嘘はつきたくない
わかってもらえない そんな時も大丈夫
僕のこころを 君が知っていてくれるから
めろでぃたいむ 夢の時間がはじまるよ
たのしいことなら なんでもしよう
響けこの思い 届けこの声 このメロディにのせて
めろでぃたいむ めろでいたいむ
「わあああーーっ、キャロル、アイラ、イルマ、クリスティーナ、モモ、ルル、うーーーーいえぇい!」
おっといけない。今日は湧かないって決めていたのについ。
めろでぃたいむは、私が言ったとおりに最高のパフォーマンスを見せてくれた。
ペンラの輝きに会場がきらめく中、ラストのバラード曲、「君がいないと」が流れ、ライブは終了した。
だが……。
「アンコール! アンコール!」
アンコールの声が鳴り止まない。
「ろいどー!」
「めろでぃー!」
どちらのファンも声を限りに推しの名を叫んでいる。
私はすぐに舞台袖へと走った。
「みんな!」
「プロデューサー! どうしましょう」
いつもアンコールは無しだったから、みんな動揺している。
しかもどちらから行けばいいのか……。




