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第15話 新たな挑戦……接触イベ!

「にゃあ~。首都ライブ楽しかったにゃあ」


 首都ライブの翌々日。私たちはモンブロアに帰ってきた。今日は一日レッスンもお休みにして旅の疲れを取ろうってことにしたんだけど、なんとなく寮のミーティングルームに集まって、追加で届いていたグッズのラッピング作業をしている。


「あんな……客が盛り上がったら気持ちいいものなんだな」


 さすがのクリスティーナも本日は笑顔である。


「うん、僕ね。正直プロデューサーはいつも何やってるんだろうって思ってた」


 ルル……。まあそう思うのも仕方ない。

 ルルの言葉にキャロルも首がもげそうなくらいに頷いた。


「そうね、みんなの思いが波みたいに伝わって、こっちも精一杯答えなきゃってなったわ」

「あれがアイドルステージの醍醐味よ! 最高! ね、プロデューサー」

「そうね、アイラ」


 ようやく私とアイラの知っている「アイドルのライブ」というものに近づいた。常に生演奏だったり、生声だったり、照明もさほど演出がつけられなかったりするけれども、観客の反応は確実にアイドル!


「その勢いで凱旋ライブもよろしくね」

「はい、プロデューサー!」


***


「みなさーん! ただいまー!」


 はじまりました、今日の凱旋ライブ。さっそくキャロルの軽快なMCで始まります。それに答えるオーディエンス。


「おかえりーっ」

「あれあれー? いつもの皆さんと……新顔のお客さんもいますねーっ」


 そうなのだ。首都からわざわざ来たと思われるお客がチラホラといる。その人たちは服装から察するに貴族だ。暇と金を持ってるって強いね。

 そんな彼らの勢いもあって、凱旋ライブも無事に成功した。すごい、ワーズの街では考えられないスピードで物販のグッズが枯れていく。


「これは……そろそろアレが出来るかも」

「アレってなんだい、リリアンナ」


 私の呟きに、ラインハルトは不思議そうな顔をしている。ふふふ、アレってアレよ。


「接触イベントよ!」

「ああ……」


 接触イベント――それは握手会やハイタッチ会、チェキ撮影など、アイドルとファンが直接会話や交流が出来るイベントのこと。

 その接触イベのよさみを延々と語ったせいで、ラインハルトには概念だけは伝わっている。

 接触イベのよさは、やっぱり距離の近さ。距離が縮まったような気もするし、直接対面して少しだけどお話することで、こちら……ファンの顔を認知して貰えるチャンスなのだ。


「大丈夫なのか?」


 だが、ラインハルトは心配そうな顔をしている。その気持ちは分からないでもない。

 ヲタが待機列で汗みどろになろうと、主要都市をぐるぐる回ろうと、それはヲタクの業だから。よくはないけど業だから。

 ただ、めろでぃたいむのメンバーには一つの過酷な宿命が襲う。それはメンバー間の推され具合の差だ。正直今でもある。キャロルとアイラはやはり目立つポジションにつけているし、グッズの売れ行きも違いがある。ただ、接触イベでは、それを目の当たりにすることになる。


「大丈夫よ。例え不人気メンになっても、へこたれるような子は『めろでぃたいむ』にはいないわ」


 そう、信じてる。とにかく、めろでぃたいむがもう一回りアイドルグループとして成長する為には必要なことなのだ。


***


さーて、なんのイベントにしようかな。やっぱここは無難に握手会か。

 本当はCDにくっつけて売りたいところだけど、そんなものはないから握手券かー。ちょっとつまらんなー。


 私は心の中でそんなことを思いながら、定時ライブに参戦していた。この定時ライブもお客が増えたので、週一回から二回に増やしている。路上清掃もしすぎてやることなくなって来ちゃったし、みんなダンスを覚えたので、そこまでレッスンに根を詰めないでよくなったのも理由だ。


「ウリャオイ! ウリャオイ! ……ありゃ?」


 私が妙な人を見つけたのはその時だ。みんな手を広げて乗っているのに、その人はなぜだか前屈み。むむ……?


「あの、すみません運営です」


 私はその不審な動きのお客さんに声をかけた。まだ少年と言っていいくらいの若い男性だ。


「ひゃあっ、あ……すみません」

「いえ、謝らなくても。今何をしていたんですか」


 彼は声をかけられてビックリはしていたけど、変におどおどしたり目が泳いだりしていないので、何かやましいことをしていたようではなさそうだ。よかった。


「あの……これを」


 彼は手に持っていた何かを私に差し出す。受け取ってそれを見た私は驚いた。


「これ……『めろでぃたいむ』?」


 それは画板だった。そこにはライブをするめろでぃたいむの姿が描かれていた。しかも、かなり上手い。


「あなたが描いたの?」

「はい。すみません、いけないことでしたか?」

「まあ、無断では辞めて欲しいけど……ちょっとお話したいわ。この後、お時間もらえるかしら」

「はい、大丈夫です」


 そしてライブ後、私はその絵描き少年と近くの喫茶店に入った。


「私はリリアンナ。『めろでぃたいむ』のプロデューサーをしているわ」

「ぼくはミゲルと言います。首都の画家の工房で見習いをしています」

「それで絵が上手いのね」

「いいえ、ぼくの絵なんかぜんぜん駄目です。いつも動きがない、まるで人形みたいで生気がないと師匠に怒られていて……」


 そうかぁ。芸術の道って険しいのね。私からは十分に見えても、プロの目からしたらまだまだなのね。


「それで色々見て勉強してるんですけど、スミレ座で面白い興業があるって聞いたんですがもう終わってて……」

「それでここまで!?」

「はい、ちょっと遠いなって思ったんですが、来て良かったです。人間の熱情のようなものがつかめたような気がします。その……勝手に描いてしまったことは申し訳ないです」

「いいわ、そういうことなら。でも……ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


 私がそう切り出すと、ミゲルは不思議そうに首を傾げた。

 うーん、でも……思いついちゃったんだもの!

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