第13話 初日の現場☆湧かしてやります
「……『めろでぃたいむ』首都ライブ公演これよりはじめます」
キャロルのMCがはじまる。
「首都のみなさん、はじめましてーっ」
「いえーい!」
あ、今のは私の声。だって劇場にはお客が七人しかいないから。
まぁ、やっぱりというか当然よね。誰も知らない見たことのないのだもの、積極的に人は来ない。
「ではー自己紹介はじめます!」
でも、そんなこと私たちは百も承知です。キャロルのMCはとまらない。
「……と言う訳でよろしくお願いします! あれーやっぱ、人少ないですね」
「当たり前だよー、キャロル。だって今日が首都ではじめましてだもん!」
「そうね、アイラ」
キャロルがちらっとセシルに視線を送る。
「でも……もうちょっと来てくれたらなー」
「セシル、それは私たちのパフォーマンスを見て貰ってからじゃない?」
「そうね、モモはどう思う?」
「モモは昨日、おいしいお肉を食べたから元気いっぱいにゃ」
「そういうことじゃないんだよ。ま、僕は最高のライブをしてみせるけどね」
良い調子。みんな成長したわ。大丈夫よ、モンブロアでもその周辺へのツアーでも『めろでぃたいむ』のライブは楽しんで貰えたわ。
うん、本当か嘘か分からないけど、かの国民的アイドルグループははじめ、お客が七人だったと聞いた。かえって縁起がいいってものよ!
「よっしゃいくぞー!」
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
さー、湧くわよー。そしていつも以上に視線が突き刺さっているわ!
「あの仮面の人は一体……」
「今の呪文みたいなのはなんだろう」
聞こえてるって! 客少ないから! ほら一緒にやりましょう。私はジャスチャーで彼らを促す。手拍子くらいなら出来るでしょ。
「うおーっ! キャロル!」
あ、今目があった。これは、ぬぬーっ! 両手ハート!! 神レスきたーーーーっ!
「俺の! キャロル!」
ふわわーっ、幸せ。
「なんだあれ、ああしてたら歌手が反応してくれるのか?」
「……ちょっとやってみようか」
なんと、ぽーっとしている私を見て、恐る恐る他の客もやり始めた。
何しろ七人な訳ですから、ちょっとでも何かしたらバンバンレスが来る。
「今、俺を見たぞ!」
「いやいやこっちだって」
「ふぅ! ふぅ! ふわふわ!」
そしていつものバラードが流れ、皆自然にゆっくりと体を揺らしながらライブは終了した。
「私たち、モンブロアから来ました。今は温泉もなくて、なにもない田舎だけど、私たちが居ます! またみなさんに会いたいです!」
「うおおお!」
やっぱ、都会の人はノリがいいというか、新しい物を吸収するパワーが凄いわ。お客さんの数にしては盛り上がった。
「明日もがんばろー!」
「いえーい!」
***
「お疲れ様!」
「プロデューサー!」
終演後、私が楽屋に顔を出すと、ばーっとみんなが駆け寄って抱きついてきた。
「私たち、出来てましたか!?」
「出来てた。ちゃんとアイドル出来てたよ!」
「うわーん!」
「さ、明日もライブがあるんだから! 昼間はチラシ配りもあるし、早く帰りましょう」
頑張ったね、みんな。あの客入りでよくへこたれずにやりきった。
こうして私たちは、宿泊している宿に戻った。
宿に戻った私は男装から寝間着に着替え、スージーにハーブティーを頼んだ。
「ふう」
私も明日、また声援を送らなきゃいけないし、喉の調子は万全にね。
***
「こんにちは! めろでぃたいむです! 夜に公演があります!」
「よろしくお願いします!」
翌日も全員でチラシを配る。あんまり貰ってもらえない。せっかく受け取って貰えても、すぐに地面に捨てられてしまったりする。
こうなるのは分かってる。分かってるけど……やっぱ目の前で見ると悲しいね。
「よろしくお願いします!」
それでもダメ元で、チラシを配る。これだけが、新しいお客さんとの出会いのきっかけだから。
「……おや、これはなんの公演だい」
珍しく、すんなりとチラシを受け取ってくれたのは、恰幅のいい老紳士だった。
「アイドルのライブ公演です!」
「アイドル……?」
「えっと……かわいい女の子たちが歌ったり踊ったりします」
「ほう……」
「絶対楽しいので! 来て下さい!」
私が必死にそう言うと、老紳士は微笑を浮かべた。
「丁度、今夜は予定が空いている。行ってみようか」
「あ、ありがとうございます!」
よっしゃあ! お客さんゲット!
――そしてこの出会いが、私たちの運命を変えることになったのである。
***
がやがや、がやがや。
スミレ座の前に列が出来ている。スージーは泣きそうな顔をしながら、彼ら彼女らにチケットを売っている。
「な……何が起きているの……昨日まですっからかんだったのに」
私は自分の目を疑った。でも、何度こすっても目の前の人だかりは幻じゃないみたいだ。
「リリアンナ!」
「あ、ラインハルトどうしたの」
「これを見てくれ!」
ラインハルトが私に差し出したのは新聞だった。
「ここ、この記事を見てくれ」
「なになに……『首都に舞い降りた七人の歌姫。期間限定の公演は必見』。ええ……!?」
「ちゃんと読んだか? 『弾けるような生命力に溢れた舞台、そして斬新な楽曲。これが片田舎のモンブロアで生まれたのだという。まるで奇跡のようだ』だってさ!」
珍しくラインハルトが興奮している。そっか、自分の曲の評価をはじめてちゃんとして貰ったんだものね。
「それでこういうことになっているのね……」
だとしても、いえ、だからこそ、私がすることに変わりはないわ!
めろでぃたいむのトップヲタとして湧きまくるのみ……!
「ワ、ワ、ワールドカオス! 諸行! 木暮! 時雨! 神楽! 金剛山! 翔襲叉! 黒雲! 無常! ワールドカオス!」
ああ、また「なんだあの仮面の人は……」という目で見られている! いいわ、見て! そして一緒に沼りましょうぞ!!