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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界テンプレ~魔王を倒す為に転移されそうになった直前に死んでしまい転生することになりました。女神から凄いスキルも貰えた!~

作者: 海音²

久々の短編投稿です

右腕の激痛で叫び続けた喉は痛く、大木に吹き飛ばされた衝撃で背中は痛く、肺の中の酸素は強制的に吐き出され、呼吸すらろくに出来ずにいた。俺の虚ろになってる瞳の先には、3メートル位の身長のミノタウロスが振り上げた右手を握りしめ、少女に振り下ろそうとしていた。


……くそっ、なんでこんな事に……


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「あはは、いやぁ~まさにテンプレ的な最後だったねぇ~」


白を基調とした広い空間に俺は何が起きたのか分からずに居たら、いきなり背後から笑いながらそんな言葉をかけられた。


俺はバッとその声の方へ振り向いた。そこには純白のドレスを身にまとった少女が、笑いを必死にこらえながら、両手でお腹を抱えていた。


「どういう事だよ! ってか、此処は何処なんだよ!」


「ぷはっ!ちょっと君、そんなに私を笑い殺したいのかな?あははは、可笑しすぎてお腹が痛いし息苦しい……ぷっ!あはははは!」


何がおかしいのか分からないが、少女は俺の言葉を聞いて我慢できず、吹き出しながら盛大に笑い始めた。俺は何を言っても今は無駄だと判断し、少女が笑い終わるまで無言でみつめてた。


暫くすると笑い疲れた少女は、何かを思い出したかのように急に柔らかい笑みを浮かべこちらに話しかけてきた。


「自己紹介がまだだったね。私はテンプシー、テンプレの女神とは私の事だよ」


「はぁ、テンプレ?」


「そっ!テ・ン・プ・レ♪聞いた事ぐらいはあるでしょ?あなたの世界にもテンプレは沢山あるわけだし」


「まぁ、確かにテンプレな物は沢山あるけど、なんでそのテンプレの女神が俺の前にいるんだ?」


「ふふん♪貴方を異世界転移する予定だったからよ。それで召喚魔法を使おうとしたんだけど………ぷぷっ……ま、まさか自分からこっちに来るなんて……し、しかもトラックに轢かれるとかテンプレすぎるじゃない……ぶふっ……」


「あ、あれは仕方ないだろ!」


「そうね、テンプレ的なのは人命救助や居眠りとかだけどあなたの場合、ジュースを買おうとして落とした10円を拾おうとしたらだもんね………ぶはっ!もうむり!笑わずにいろとか拷問だよ!あははははっ!!」


ダメだ……もう何を言っても、この女神(?)には笑いになってしまう……


「それで、えっと……」


「テンプシーね」


「……テンプシー俺はその……異世界に転移するって事で良いんだよな?」


「転移?転移は無理よ?」


俺は取り敢えず今の現状を理解しようと先程言われた転移について確認したら、テンプシーは小首を傾げあっけらかんと答えてきた。


「えっ!? だってさっき言ってたじゃないか!」


「だって貴方……そのまま転移したら、肉の塊で転移しちゃうわよ?なにせ、トラックに轢かれてぐちゃぐちゃなんだから」


「あっ……」


「だから転移じゃなくて転生してもらうわ」


「つまり……記憶を持ちながら別人になるアレだよな?」


「そう!それそれ!」


なるほど……結局異世界に行くのは変わらないって事か……それにしても……


「なんでそもそも俺を、異世界に転移させようとしてたんだ?」


「んー、それは少し難しいんだけど、簡単に言うと貴方の運命って事かなぁ~」


「運命?それだけか?」


なんだよそれ……特に目的もないなら、まったりともう一度人生をやり直すだけか……


「あっ!一応向こうでは、魔王を倒してもらうけど、まぁ第二の人生のついでって感じかな」


「ついでが命懸けすぎるだろ!!」


「大丈夫だって、貴方の運命力ならどんな事になっても魔王は倒せるはずだし、そのための力もちゃんとあげるんだから」


だからその運命力ってなんだよ……

俺はあまりにも軽く言ってくるテンプシーに呆れつつ、質問を続けた。


「力ってつまり……チートスキル的なやつか?」


「そうそう!もうすっごいのあげちゃうんだから!なんと……って、あぁ!大変!」


勿体ぶるように話してたテンプシーは突然なにかに気づき慌てだした。


「な、なんだよ突然」


「こんなにのんびりしてる暇なかったんだ!」


「え?」


「私達を作った神達の世界では短編って言うらしくて、とても短い世界なのよ!」


「私達……?作ったって俺も含めてってことか? そもそも短編って?」


「そう!あなたのいた世界も、これから行く世界も全部含めて1つの箱の世界……箱の世界は星の数ほどあってそれぞれ色んな神が作ってるの。その中には長編と言って、短編世界と同じ世界でも長い世界らしく、それを決めるのは神様らしいけど、その辺の詳しい所は教えて貰えてないの」


なんか話が一気にでかくなり過ぎてよく分からなくなってきたな……


「まぁ、その辺はよく分からないけど、つまり今は事を急げって事でいいんだな?」


「そうそう!だからはい!」


そう言ってテンプシーは指を2回鳴らした。

1回目で俺の服装が変わり腰に剣が付いていた。

2回目で体が光なにか分からないが不思議な感覚がした。


「よし!これで準備完了!本当は生まれた時からなんだけど、今回は一気に時間が進んですぐ敵と戦う事になるから、一応スキルとかについては、すぐ理解できるようにさっき頭に全て叩き込んどいたからね!」


「ちょ、おい!敵ってなんだよ!それにスキルとかの前にそもそも戦い方すら──」


「えい!」


パチン!

俺の話を遮る形で、テンプシーは指を鳴らした。俺はその音を最後に視界が歪み視界が変わった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


いくら時間が無いとはいえ、ろくな説明もできず送り出してしまった事に僅かな不安を抱えながらも、私は無事役目を果たせた事に安堵し小さく息を吐いた。


「なるほど、これでこの世界の()()の役目は終わりね……後は彼次第ってことかしら?」


「ふぅ……キャッ!急に話しかけないでよディスティー!ビックリするじゃん!」


「うふふ……ごめんなさいね。これでも、貴方が笑い過ぎて時間かかったせいで、彼と話すことできなかったことに比べたら可愛いものでしょ?」


そう言って黒いドレスを身にまとい、漆黒の髪が腰まで伸び、顔立ちは彫刻の様に整った顔でディスティーは、表情や言葉では笑っているが、星の海の様な黒い瞳からは、真逆の怒りが感じ取れた。


「そ、その事についてはなんと謝罪したら良いか……あはは……ごめんなさい!」


痛いところを突かれ、目を泳がせながらも笑って誤魔化そうとしたが、ディスティーの圧に負け思いっきり頭を下げて謝罪した。

それを見たディスティーは、やれやれといった感じで溜息をつき、そっと私の肩に手を置いた。

置かれた瞬間とてつもない恐怖が襲って来て、一瞬体をビクッと大きく震わせ、恐る恐るといった感じでゆっくり顔を上げ上目遣いでディスティーを見上げた。


「確かに僅かですが、ほんの少しですが、怒りを感じてはいますけど、それでもやるべき事はやったので大丈夫ですから……だからその、そんなに怯えないでください……貴方に嫌われたら私は1人になってしまいます……」


最後の方は照れ隠しなのか、ディスティーは顔だけ逸らしてた。


「うぅ……ディスティー!ありがとう!安心して、私ディスティーの事嫌いにならないから!てか、嫌いになったら私までひとりぼっちになるじゃん!そんなの嫌だし!」


泣きながらも、許してくれた事に感謝し、顔をガバッと上げディスティーに思いっきり抱きついた。だって、私もディスティーが傍に居てくれないと寂しくて嫌だから。


「わ、わかったから!そんなに強く抱きつかなくても大丈夫よ……って涙や鼻水で私のドレスが汚れちゃってるんですけど!?」


泣いたり騒いだりとワァーワァーとはしゃぎ、暫くしてテーブルで紅茶を飲みながら今後について話してた。


「それで……ディスティーの力を使っても分からないんだよね?」


「えぇ、この世界に関してはちゃんと使えるんだけど、流石に外の世界……ましてや神様の運命力なんてとても見ることが出来ないわね……」


そんな事を話しながら、私達は紅茶を1口飲み黙った。


「あとはやっぱり彼の頑張り次第って事かぁ……」


「そうなるわね……ところでなんで彼の名前を聞かなかったの?」


「えっ?だって転生になるしどうせ聞いてもすぐに違う名前になるんだったら聞かなくてもいいかなって」


「まぁ……確かにそれもそうね……それにしても彼は大丈夫かしら?」


「まぁ……なんとかなるっしょ♪」


そんな、根拠も無い事を話しながら、私達は異世界に送った彼に希望と望みを託し、終わりゆく世界を待ちながら最後のティータイムを楽しんだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ゥモ"ォー!!


俺はテンプシーによって異世界に送られ、気がつくと目の前に大きな二足歩行の牛が武器を持った鎧を着た男達を薙ぎ払っていた。


「な、なんなんだよこれ……うっ、おぇーー!」


突如目の前で人が引きちぎられたり、頭からペッタンコにされる様を見せられ、俺は我慢できず嘔吐してしまった。


このままじゃ俺も殺されてしまう……それにしても、なんでアイツら逃げないんだ?

俺は必死に吐き気を抑え、未だ頭が追いついてない状況の中、必死に思考を巡らせ、周りの状況を見渡した。そこで、気づいたのだが、なぜ男達は敵いもしないのにあんな化け物と戦ってるのかと思ったら、彼らの後ろに少女が1人蹲り震えていたのだ。

もしかして……彼女を守る為なのか……?だとしたら、ここで戦うよりも、少女を抱え逃げるべきじゃないのか!?


本来なら俺も戦いに参加するべきなのかもしれないが、とてもじゃ無いが俺に自殺覚悟で戦うつもりも無い……つまり、ここは気づかれないうちに逃げるのが正解だ!


そう思い、後ろ髪を引かれる気持ちはあるが、彼らに背を向けた。


「悪く思わないでくれよ……えっ?お、おい嘘だろ!?」


俺は逃げようと背を向け立ち上がった瞬間、物凄い勢いで俺の横を何かが通り過ぎ、俺はその何かに恐る恐る視線を向けると、先程まで巨大な牛と戦ってた男性の1人だった。そして、不幸にも男性が飛んできたせいで、牛と男性達は俺の存在に気づいてしまった。


「すまん!そこの冒険者あの御方を守る為に力を貸してくれ!」


「えっと……冒険者ってもちろん俺の事ですよね?……あはは」


「他に誰がいるんだ! 頼む!今は1人でも多くのミノタウロスと戦う戦力が必要なん……ぐふぁ!」


必死に俺に叫び続けてた男性は、ミノタウロスの蹴りによって吹き飛ばされた。そして、気がついたら奴の周りには誰も居らず、ゆっくりと俺の方へ体ごと視線を向けてきた。


「マ、マジかよ……あんなのと戦えとか有り得ないから……」


ゆっくり歩んでくるミノタウロスにビビってしまい、腰を抜かしてその場にしゃがみこんでしまった。必死にどうすればいいのか考えてた時、俺はスキルの事を思い出した。


「そ、そうだ!テンプシーがくれたスキルがあるじゃん!」


震える足を両手で何度も叩き、必死に気持ちを奮い立たせ立ち上がった。大丈夫だ! だってテンプシーも言ってたじゃないか、魔王を倒す為に凄いスキルをくれるってそれに使い方も分かるようにしてくれてるみたいだしな。


「おい牛野郎! 俺が倒してやるからかかって来いよ!」


俺は震えそうになる声を必死に抑え、大声でミノタウロスに叫んだ!

だ、大丈夫だスキルさえあれば……


「ン"モ"ォー!!」


ミノタウロスは、クラウチングスタートの様な構えをしてから、一気に俺の方へ突っ込んできた。


「大丈夫! 大丈夫! 大丈夫! スキル【主人公の運命(パーフェクトヒーロー)】!!」


俺も、ミノタウロスを迎え撃つ為剣を抜き走り出し、スキル名を叫んだ。正直毎回このスキル名を叫ぶのは恥ずかしいんだけど……そんな事を思ってたら、不意に頭に声が響いた。


(天上スキル【主人公の運命(パーフェクトヒーロー)】は一部条件を満たしてないので、耐久力上昇のみ発動します)


……えっ……条件!? なんだよそれ聞いてないぞ!


まさかのスキル不発に足が止め、その場で立ち止まってしまった。そのスキを見逃さずミノタウロスは走る速度をさらに上げ一気に俺の近くまで接近し、その勢いのまま左腕を後ろに引き身長差のせいだ上から下に叩きつける感じで殴りかかろうとしていた。


「ン"モ"ォ"ォ"ォ"ォォ!!」


俺は考えるよりも先にヘッドスライディングみたいな体制で右斜め前へ飛びミノタウロスの攻撃をギリギリで避けた。

しかし避けて立ち上がった時にはミノタウロスの左腕がこちらに迫ってた。そう、俺が右へ避けたせいで地面を叩きつけた左手をこちらを振り向く力を利用し、そのまま薙ぎ払いをしてきてたのだ。


「くぅぅぅっ!!」


避けれないと判断した俺は、咄嗟に剣と右腕を盾にした。しかし、ミノタウロスの攻撃力は強力で、剣は折れ右腕からはメ"ギッバギゴキッと今まで聞いたことない音を鳴らし体からは浮遊感を感じたと思ったら、突如背中からの強い衝撃と共に体内の空気が全て吐き出され、体の中がピンボールみたいに激しく飛び回ってる感覚がした。


「がはっ!!」


俺はそのまま叩きつけられた大木に持たれる形で動けなかった。そして、そのまま視界が暗転し、意識を手放しそうになった瞬間再び頭から声が聞こえた。


(天上スキル【魂の運命力(ディスティニーソウル)】を発動します)


その声を聞いた瞬間、手放しかけた意識自体に意志が宿ったかのように俺に戻ってきて、再び視界が明るくなった。その直後、まるで待ってましたかの様に右腕の痛みが蘇った。


「ぐあ"ぁ"ぁ"ぁ"ァ"ァ"ッ"!!」


今まで味わったことの無い痛みに俺は声を我慢することが出来ず叫び続けた。普通なら痛みで意識を失うのかもしれないが、失いそうになると頭から声が聞こえ、その都度意識が蘇る。

意識が蘇る失いかけるまた蘇ると言う地獄の無限ループ……

痛みが無感覚になる頃には、俺の心は粉々に砕かれ、思考は停滞し瞳からは光がすっかり消えていた。

何時間も耐えてた感覚だったが、ミノタウロスが、少女の前に立ち振り上げた拳で殺そうとしてるのを、ぼんやりと視界に映り、ほんの一瞬だったのだと理解し、同時に自分の現状に嫌気がさしてた。


くそっ……なんでこんな事に……なんの為にこんな目に遭わないといけないんだ……あぁ……あの子も殺されるのか……もう良いや……俺じゃアイツを倒すことも出来ないし……助けられずごめん……


そう粉々になった心の中で諦めと後悔と守れなかった悔しさで埋め尽くされた時、先程からぼんやりと何度も頭に響いてた声が俺の頭にはっきりと響いてきた。


(天上スキル【主人公の運命(パーフェクトヒーロー)】の発動条件を満たしました。使用しますか?)


んなっ!?俺は自分の瞳に僅かな光が蘇ったのを感じ、同時に今このタイミングで満たせた事に驚きを隠せなかった。だけど、今はその事を考えるよりも先にやる事があるだろ!


「もちろん使うに決まってんだろ……スキル【主人公の運命(パーフェクトヒーロー)】!!」


(天上スキル【主人公の運命(パーフェクトヒーロー)】発動します。全能力上昇、痛覚遮断、思考力洞察力上昇します)


ミノタウロスに気づかせる為にも、俺は残りの力を振り絞り叫んだ。スキルが発動した瞬間、全身の痛みが消え、視界と思考がクリアになる。俺は即座に立ち上がる為、全身に力を込めたが、右腕だけ力が入らず痺れた感覚だけした。


そうか、痛覚遮断はしてても回復はしてないのか……

スキルの効果を理解しつつ、立ち上がりミノタウロスへ向け駆け出し叫んだ。


「おい、牛野郎!今度こそ倒してやる!」


しかし、ミノタウロスはこちらなど気にする様子もなく、振り上げた拳を一気に振り下ろした。

くそっ!助けられないのか……


(自動スキル【ディスティーの祈り】を発動します)


勝手にスキルが発動したのと同時に少女に拳が降りかかった。

しかし拳は少女にはギリギリ届かず、突如現れた光の壁で少女は守られてた。そして光の壁を殴った拳はその勢いが反射されたかの様に跳ね返され、ミノタウロスは仰け反っていた。


「ンモ"ォ!?」

体勢を立て直すのとほぼ同時に俺はミノタウロスの側まで接近していて、後ろから思いっきり脇腹にボディブローを当てた。


「この牛野郎がァァァァ!!」


「ゴモ"ッ!」


脇腹を殴られたミノタウロスは、体を左右でくの字に曲げ吹き飛んで行った。

そんな光景を目の前で見ていた少女は、何が起きたのか理解出来ずただ顔だけをこちらに向けしゃがみこんでた。


「今のうちに早く逃げろ!……さっさと行け!」


「えっ?………は、はい!」


少女はそう言って走って行った。

俺は少女の背中を見送り、その後ミノタウロスの方へ体を向けた。


吹き飛ばされたミノタウロスの目は血走り呼吸も荒く、見るからに激怒していた。さっきまでの俺なら恐怖で押しつぶされてただろうが、今は逆に凄く冷静で自然と口角が上がっていた。


「そうそう、牛はそうやって興奮して突っ込んで来るだけでいいんだ」


ミノタウロスは立ち上がりクラウチングスタートの構えをするのを見ながらそう言って、足元に落ちてる剣を拾い左手で構えた。


「ふっ……これで赤いマントがあれば、マタドールだな……」


独り言を言い終わると同時にミノタウロスは先程よりもさらに早い速度でコチラに駆け出してきた。しかも先程と違い、今度は頭の角をこちらに向けてた。


「チャンスは一度……あんな硬い体に攻撃してもほとんど意味が無いだろうし……狙うなら……」


俺は覚悟を決め、突っ込んでくるミノタウロスを待った。

そしてギリギリの所で右に避け、同時に左手で握りしめてた剣で思いっきりミノタウロスの目に向け突き刺した。


「これでどうだァァァァ!!」


「ン"モ"ォォ!!」


突き刺した剣はミノタウロスの目を突き刺しそのまま一気に奥まで剣は吸い込まれていった。そして断末魔の様な雄叫びと共にミノタウロスは動かなくなり、そのまま前に倒れ込んできた。俺は、剣から手を離し倒れてくるミノタウロスを躱し倒れたミノタウロスを見下ろした。


「や……やったのか……?」


俺はミノタウロスを倒せた事に安堵し、そのまま倒れながら意識を失った。


(自動スキル【テンプシーの加護】を発動します……)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ガタッ!


「もう少し、慎重に走ってください。彼は怪我人なんですから……あら?起きてしまいましたか?」


全身を強い衝撃が襲った事で気がついた俺は、なにか柔らかいものを枕にしながら、何かに座り体を横に倒した状態だった。そして頭には手を置かれていて、俺が意識を取り戻したのに気づいた女性の声が聞こえたのと同時に置かれてた手はそっと離れていった。


俺は体を起こしふと正面を見ると、両腕を組んでコチラを睨みつけてる女性がいた。彼女は肩ぐらいまでの赤い髪を後ろで一つにまとめ、膝には細めの剣を乗せ少しつり目の燃えるような赤い瞳は、まるで見てるものを射殺さんとばかりに睨身を利かしていた。

俺はサッと隣の女性に顔を向けた。


「な、なぁなんで俺は馬車に乗ってるんだ? それにあの時お前は──」


「キッ、キサマ!マリン様に向かってなんて口の利き方を!」


突然目の前の女性が怒鳴りだし剣を抜こうとした。


「止めなさいフレヤ!この人は命の恩人ですよ!」


「し、しかしマリン様……いくら命の恩人とは言え、無礼にも程があります。それにそもそも姫をまもるのは──」


「私を守るのは兵の勤めでありって、冒険者にそれを強要するのは間違ってます。それにフレヤ、私は彼みたいに砕けた感じで接してくれる方が嬉しく感じるわね。だって貴女を含め皆かしこまった話し方しかしないじゃい?」


「それは、マリン様と私達では……」


お姫様らしい隣の少女は、目の前のフレヤと言う女性を宥め俺の方を向いて軽く頭を下げてきた。


「助けてくれて本当にありがとうございます。貴方が居なかったら、今頃私はあそこで死んでいました」


「気にしないでください。成り行きで戦った所もありますし……そ、それより、あの時光の壁みたいなのが姫様を護ってくれてましたけどあれは一体何なのでしょうか?あとは……」


俺はあの時の事や、スキルが発動した迄は理解出来たお姫様を護ってた光の壁はスキルのお陰なのか、それともなにか姫様自身がやった事なのか等色々と質問した。


まず隣にいるお姫様の名前は、マリン……マリン=オラクル=ニヴルヘイム……ニヴルヘイム国の第2王女様らしい。マリンは晴れ渡る空のような綺麗なスカイブルーの髪をセミロング位の長さをしており、落ち着いた雰囲気やハッキリとした物言いで、話してると年上の人と話してるような感覚になるが、その内面とは真逆に見た目は、まだまだ幼さが残っており、澄んだ湖の様な綺麗な瞳でこちらを見ながら微笑む姿は、むしろ俺より年下にすら見えた。


そしてわかった事は、どうやら俺はミノタウロスを倒した後そのまま気絶していたらしく、目の前のフレヤと数名の兵士を連れ戻ってきてくれたらしい。そして今あまり痛みが無いのは、フレヤの回復魔法のお陰らしい。

そして光の壁については、どうやら俺のスキルは関係無いみたいで、マリンのお姉さん……つまり第1王女様が()()プレゼントしてくれたペンダントのお陰だったらしい。

それにしても……あまりにもタイミングが良過ぎる気がするが、マリンは「本当にお姉様には感謝しかありません」と気にしてない感じだった。


そして俺達が今向かってる所が……


「はぁ!?王様に会ってくれ!?」


「はい、パ……王様に会って欲しいんです。そして個人的な我儘ですが、フレヤと一緒に私専属の騎士になってほしいんです」


「専属?騎士?なん──」


「マリン様!こんな所在不明で怪しい男を傍に置くとかおやめ下さい! そんなの王様だって許してくれるはずがありません!」


と言うか……俺の意思は聞いてくれないのか? ただでさえ状況が変わりすぎて理解に苦しんでるのに、それに加え王様に合ってもし、許可なんか出されたら、魔王討伐で世界を旅するとか出来なくなるんじゃ……


「なぁ、悪いんだけど俺も──」


「大丈夫ですよ!だって私が好きなパパ様は国1番の優しい()()様なんですから!きっと私のお願いも理解してくれるはずです!」


そう言って、両手をグッと胸の前で握りしめ真剣な顔でジッとフレヤを見つめてた。


「ま、まぁ私が何を言っても無駄なのはわかってますから……それよりキサマ!もし王様に無礼な態度を取ってみろ!その場で切り刻んでやるからな!」


「あ、あぁ……」


俺はフレヤからの言葉にほぼ無意識で返答し、先程マリンが言ってたある単語に頭がいっぱいだった。

まおう……マオウ……魔オウ……魔王………!?


「な、なぁマリン……様、王様が魔王様ってどういう事でしょうか!?」


俺はマリンに声をかけた瞬間フレヤから物凄い圧を感じつつ、質問した。


「はい?どうもこうもございませんよ?ニヴルヘイム国の王……魔法が使える私達()()()の王なのですから魔王様と称されるのは、当たり前ではありませんか?」


「な、なるほどな……あはは……」


俺は乾いた笑みでそう答えながらも、頭の中の整理が追いつかずにいた。ま、まさかいきなり魔王と対決するとか無いよな……俺生きていられるのか……?


そんな俺の不安や心配等気にする様子も無く、マリンはコチラを見て、一瞬妖艶な笑みを浮かべ……


「それに私……ここまで何かを欲するのは……初めてなんです……」


「ん?何か言ったか?」


「いえ……私に任せてくださればきっとうまくいきますから!」


何かボソリと言ってた様な気がするが気のせいか……

それにしても……俺これからどうなるんだろ……


不安を抱きつつ、馬車に揺られ魔王の元へ向かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


もし、この作品の連載版を読んでみたいと思ってくれたら、☆や感想等お願いします!


どちらも沢山あって困ることは無いですから!

( ๑•̀ω•́๑)


主人公達の運命を握ってるのはそこの貴方かもしれません!

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