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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かくれんぼ 

作者: 西東天

 ねぇ、こんな噂知ってる?


 最初はそんな誰かの言葉からだったと思う。

 午前零時。学校でかくれんぼをすると、おぞまし様という怪異が現れて3時間見つからなければどんな願いも叶えてくれる。という噂。

 ただし、おぞまし様に見つかれば最期、異世界に連れていかれるという。いかにもなリスクもある。


 くだらない。


 子供だましだ。


 そう心の中で思いながらも、いま私は深夜の学校にやってきている。


 その理由は、親友の澪の為。


 澪はひと月前死んだ。自殺だった。理由はわからない。


 ただ届いたメールに一文『ごめん』と書かれていた。


 澪は人気者で、周りに壁を作っていた私とも仲良くしてくれた。好きなゲームが同じだったことから気が合って、いつも一緒に遊ぶようになって、これからもっと楽しいことが起きるような気がした矢先だった。


 死ぬ。


 死ぬ?


 なんでよ、澪。なにがあったのよ。


 理由が知りたかった。


 澪が死んだ理由が。


 だからこの噂を耳にしたときは、藁にも縋る気分だった。


 下らないと一笑した噂に。




 このかくれんぼにはルールが3つ。


 ①参加者は7人以上

 ②参加者は開始3時間の間、学校校舎内からでてはならない

 ③必ずお面を被って参加すること。


 このルールは私が通う高校の噂であるおぞまし様とのかくれんぼで語られているものだ。


 私はそのルールを守るために、学校の裏サイトでかくれんぼ参加を呼び掛けた。


 参加者は意外にもすぐに集まった。


 興味本位のもの。肝試し気分のもの。本気で願いを叶えたいもの。それぞれだ。


 見慣れた顔もチラホラといたが、向こうは私の顔を覚えていないだろう。


 しかし意外な顔を合った。


「まさか、君がこれに参加するとはね」


 その意外な顔とは、数学教師の鷹野だった。


 鷹野は女子生徒に人気がある男子教諭だ。爽やかで優しい、澪も鷹野に憧れていた。


 私はというと、あまり好きではなかった。あの爽やかな笑顔が何故か好きになれなかった。


「……それはそっくりそのままお返ししますよ」


「はは、そうだね。僕も少し興味があったから参加したんだけど、教師失格かもね」


 皮肉たっぷりな私の言葉も受け流しいつもの笑顔を浮かべる。


 ……気持ち悪い。心からそう思った。


 午後23時55分。かくれんぼはもうじき始まる。集まった7人は自前のお面を被る。


 私のお面は狐を模したお面。鷹野の面は狗を模したお面だった。


「そういえば、君の願いはなんだい?」


「そんなの先生に関係ありますか?」


「あるとはいわないがせっかくだし聞いておこうかと思ってね。あぁ、恥ずかしいのなら別にいいよ」


「……知りたいんです」


「なにをだい?」


「澪が死んだ理由を」


 午後23時57分。開始まであと3分。いつのまにか他のメンバーはいなくなっていた。


 私も急いで走り出す。ふと、鷹野の顔を伺う。


 顔は既にお面で隠れて見ることは叶わなかった。




 午前0時。


 私はあらかじめ開けておいた窓から校舎に侵入し、保健室のベットの下に潜り込んだ。


 校舎は異常なまでに静かで、昼間とはまったく違う世界のように思えた。


 腕時計を見る。かくれんぼ開始から30分しか経っていない。


 ただこのままやり過ごせば、私は願いを叶える条件を満たせるのだ。


 このままじっと……。


 その時だった。


 グチャ、グチャ……。


 室内に異変が起こる。


 何かが潰れるような、音がした。急にだった。


 つい先ほどまでは無音だった保健室が一変、気色の悪い音が溢れている。


(うっ!)


 鼻につく異臭が漂いだした。


 近くに何かいる。


 それもすぐ上にだ。それはベットの上にいる。


 ハー、ハー、という息遣いも聞こえる。


 私は口元を抑え、息を殺す。


 恐怖に身体が支配されて、叫びだしそうな自分を必死に抑え込んだ。


 グチャ、グチャ……。


 それはゆっくりと動いている。そして


 急にその存在感が消え去った。


(助かった?)


 そっと、ベット下から出てベットを確認する。そこには別段何の変化もなかった。


 本当にここに何かがいたのだろうか?あれは私の勘違いなんじゃないのか?そう思うが、先ほどまで感じた恐怖が現実だと訴えかける。


「うぇ……」


 気持ち悪い。吐きそうだ。


 ただここで吐いている余裕はない。あの得体のしれないものは多分おぞまし様だ。


 多分ここに隠れ続けても、気づかれるだろう。いや、気づいてわざと見逃したのかもしれない。


 遊びがすぐに終わらないために。


「おぞましい」


 故におぞまし様か。成程と納得してしまった。


 それなら急いで移動しよう。ゆっくりとおぞまし様に気づかれないよう。




 かくれんぼ開始から1時間30分経過。


 参加者とは一度も遭遇していない。上手く隠れているのか、それともおぞまし様に見つかってしまったのか。わからない。


 ふと、校舎の外を見る。参加者の一人であろう影が学校から逃げ出そうとしているのが見えた。


 その参加者は学校から出ようとした途端、足元の影に飲まれ消えた。


 ルールを破ればああいうふうに消えるのか。私はそれを他人事のように見てから、急いで隠れる場所を探すことに専念した。




 かくれんぼ開始から2時間30分経過。



 もうじき終わる。そう思うと少しだけ緊張が抜ける。


 何度か参加者がいたであろう痕跡を見つけた。そこには血が滴っていて、そこに人がいたということを訪仏させる。



 隠れて、隠れて、もうすぐ終わる。


 本当に願いを叶えてくれるというのなら。どうか私の願いを。


 自分のために学校の人間を利用して、顔見知りを見捨て、私は澪に顔向けできないだろう。


 私もまたおぞましい生き物だ。


 最後の隠れ場所として私は自分の教室を選んだ。教室の一つの机には花瓶が置かれている。澪の机だ。


 その机の近くに人影が一つ。鷹野だ。


「やぁ、まだ生き残っていたんだね」


 鷹野は穏やかに私に声をかける。その顔はお面で隠されているのでわからない。


「澪の席で何をしているんですか?」


「いや、なに。彼女は僕にとっても特別でね。思い入れがあるんだ」


 優しい手つきで机を撫でる鷹野。


「思い入れ?」


「あぁ、彼女は美しかった。それでいて清純、まさに理想だよ」


 ただ、と机をつかみ一気になぎ倒す。


「彼女は僕を拒絶したんだ! 僕が勇気を出して告白したのにだ!」


「告白?」


「そうだ、愛の告白だ! それを拒絶して、僕から距離を置こうとした!」


 自分のお面をかなぐり捨て、興奮気味に鷹野は叫ぶ。それはいつもの鷹野じゃない、おぞましい何かだった。


 そしてゆっくりと私に近づき、私の首に手をかけ、力を籠める。


「彼女は縄があったからそれで絞めたが、君は手で十分だ!」


 縄で絞めた。確かにそう言ったのか。この男は!


「お前、が! 澪をぉ!」


「あぁ、醜い。醜いなぁ!」


 鷹野の首を絞める力が強くなる。


「死ね、死ね、死ねぇ!」


 あぁ、意識が遠のいていく。目の前が薄れていく。


 掠れていく目に映る教室の時計は2時58分。もうじき終わるというのに。


 その時だった。


 ドロリとしたものが私たちの上に垂れてきた。


 え……?


 同時に上を向く。そこには、おぞましい怪物がいた。


 ドロドロとした肉塊が見下ろすように私たちの上にいた。


 間違いない。おぞまし様だ。


「あ、ひいぃ!」


 鷹野は怯えた声を出し、私を投げ捨て逃げ出した。私を餌に逃げようというのだろう。


 だがあいつはルールを忘れている。


 ルール③ お面を被って参加すること。


 そのルールを破った鷹野を目指しておぞまし様が蠢き鷹野を飲み込んだ。


「あ……ぎ…」


 鷹野はバキバキと音を立てて飲み込まれ、消えた。


 そして残されたのは、私とおぞまし様だけになった。しかしおぞまし様は私を襲おうとしない。


 時計を見る。時計は3時ちょうどを示していた。


 ゆっくりとおぞまし様から声が発せられる。


『君の…願いは…なぁに?』


 私はその問いかけにたいしてすぐにこう答えた。





「私を…澪のいる場所に連れて行って」








 ねぇ、こんな噂を知ってる?




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