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ドラゴンさんのお引越し

作者: ポンキチ

 どうもお久しぶりです。相変わらず誤字などが多くあるかと思いますが最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

 誤字がありましたら報告を頂けれ直しますので、ご迷惑でなければ報告などお願いします。

 とある王国の外れにあるココナ村は大きな山の麓に存在しており、特産物などもなく他の村ともあまり行き来がない小さな村だ。そのココナ村は今深い悲しみに包まれており村人の誰もが悲痛な表情をして俯いている。


「……エマよ、そろそろ時間だが準備はいいかい?」


 村長がまだ若い十六歳になったばかりの少女に問いかけるが、その声は震えており悲しそうなものだった。

 エマは癖のない赤い髪を腰まで伸ばし、長い手足に細い体つきをしている村で一番の器量の良い元気な少女だった。


「大丈夫です、もういつでも行けます。それよりも弟のことは頼みますね、あの子は本当にイタズラばかりする子ですから」


 皆が暗い顔をするなかでエマは逆に明るく元気な声で返事をするが、それはまるで他の者を元気づけようとしているのかようであり、その体が僅かだが震えていることに大人達は気づくが何かに耐えるように拳を強く握って黙ったままだった。


「ああ、勿論だとも後は任せて、うぅうっ……す、まないっ本当にすまない……まだ若いお前にこんなことをさせる儂らをどうか許してくれ……」


 エマを安心させようと口を開いた村長だったが次第にその言葉はエマに対する謝罪に変わり、目には大粒の涙が浮かんでいた。そしてその村長の言葉はココナ村に住んでいる全員の思いでもあり、周囲から村人の嗚咽の声が聞こえていた。


「村長……私の事は気にしなくてもいいから、こんな辺境の村じゃ国に助けを求めても多分無駄だろうしこうするのが一番犠牲の少ない方法なんだと思いますよ」


 それは村長達にというよりも自分自身に言い聞かせるような言葉だった。エマが今着ているのは普段着ているツギハギのある服ではなく、辺境の村には場違いな綺麗な真っ白な服だった。それはまるで花嫁衣装のようにも見えたがそうではない、もしもエマがどこかに嫁ぎに行くのなら村人達は笑いながら祝福して送り出していたことだろう、なら何故エマが普段と違う姿をしているかというとそれは竜に捧げる生贄に選ばれてしまったからだ。


 今から四日前、ココナ村がある山に一頭の巨大な竜が飛来したのだ、これに村人達は誰もが恐怖と絶望に顔を歪め嘆いた。


 外の世界のことなどよく知らない村人達も竜がどれだけ危険な存在なのかはよく知っていたからだ。竜の多くは気性が荒く自らが住むと決めた場所の近くにいるものに容赦ない攻撃を加え追い払い、また財宝などを集めるために町や村を襲っては根こそぎ略奪をしていく、そう伝わっていた。



 この非常事態に急遽どうするべきかを話し合ったが良い考えなど一つも思い浮かばなかった。

 竜に貢物として金品や食料を差し出し村を守ろうという案も出たのだが、元から貧しい村には竜に送るような金品などありはしなかった。


 では食料はどかというと今年は不作で大人達は自らの分を減らし子供に与えている現状なのだ、ここで竜が満足するような量の食料を送っては間違いなく餓死者が何十人も出てしまうだろ、そうなれば結局村は滅びてしまうためそれも出来ない。


 なら竜が飛来してきたことを国に報告し助けを求めてはどうかという案も出たが、辺境にある小さな村を救うために討伐隊を派遣してくれるはずなどない。村の全員で知恵を出し合ったが丸一日が過ぎても答えが出ずにいよいよ村を捨て逃げるべきではないかという意見が出始めた頃にそれはやって来た。


 黒曜石のような輝きを放つ鱗を持った二十メートル程の大きさの竜がココナ村を空中から見下ろしていたのだ、それはまさに村人達がどうすればいいか話し合っていた竜だった。

 まさかもう襲いに来たのかと諦めに似た気持ちで自分達の不運を嘆きながら見上げていると竜はその口を開いた。


『今から三日後に私が寝床にしているあの場所に来い、人数はそちらが決めて構わん。三日後だ忘れるなよ』


 大きく鋭い爪で山の中腹にある一本の巨木が生えている場所を指し、剣のような牙が覗く口から雷鳴なような声で一方的に告げるとそのまま何もせずに山に戻っていたのだ。これに村人達は竜が何を求めているのか察した、金品や食料の代わりとして生贄を捧げろと言っているのだと、そして話し合いの末に選ばれたのがエマだ。



「これ以上遅くなったらあの竜が怒ってやって来るかも知れないからもう行くわ。じゃあね皆! 風邪とか引かないようにして元気でね!」


 自分が竜の元に行くのを止めようと泣きじゃくる幼い弟や静かに涙を流し自らの力の無さに悔しそうに震える村人達に精一杯の明るい声と笑顔をで別れ告げると一人竜が待つ場所に向かうのだった。





 村を出て四時間、エマは深い森を抜け竜が寝床にしていると語った巨木の元へとたどり着いていた。その巨木の幹が太く下から見上げると天辺が見えないほどに高かった。


「この木って近くで見ると本当に大きかったのね……」


 あまりの大きさに呆気にとられそんな呟きが溢れたが直ぐに自分が来た目的を思い出し気を引き締めた。


(着いたのはいいけどあの竜は一体どこにいるのよ? まさか来るのが遅いとか言って村の方に行ったんじゃないでしょうね?)


 周囲を見回しても竜の姿がどこにも見当たらず木の上に居るのかと見上げてみたが、その姿がなくそんな不安を覚えるがそれは杞憂に終わった。


「随分と遅かったじゃないか、此処に来るまでに何かあったんじゃないかと心配していたぞ」

「っ!? どこにいるんです? 言われ通りに私はここに来ました、姿を見せてください!」


 聞こえてきた声は間違いなく村で聞いた竜のものだったがやはり姿は見えない。


「俺はこっちだ、こっちにいる。すまんが今は準備をしていて手が離せないからお前がこっちに来てくれ」


 声は巨木の陰になって見えない場所から聞こえてくる、本当は行きたくなどないしできればこのまま回れ右をして村に帰りたいところだが、竜に呼ばれては逆らえるはずもなくエマは声が聞こえてきた方へと重い足取りで歩いて行く。


(一体あの竜は何の準備をしているのよ? ……もしかしたら私を食べる支度をしているとかじゃないでしょうね?)


 エマの頭に竜が巨大な調理器具で自分を料理する恐ろしい光景が次々と思い浮かび、逃げたくなるが村の皆や弟の為だと必死に堪えながら進んで行くと、見たことがない作りをした大き家と村に来たときとに比べ小さくなったように見えるあの漆黒の竜がいた。


 楽しそうに鼻歌を口ずさみながら大きな体を揺らす竜……その隣にはグツグツと音を立てて煮立っている大人三人程は簡単に入るだろう大きさの鍋があった。


 竜は煮立つ鍋を真剣な目で眺めていおり、その横には鍋と同じくとても大きな包丁までもが置かれている。



(……これは間違いなく私を煮て食べるつもりね……はぁ、本当に短い一生だったわ。神様今度生まれる時はもっと幸せな人生にしてくださいよ! 本当にお願いだからね!?)



 まさか自分が思い浮かべた当たって欲しくなかった最悪な予想が見事に当たってしまったことを確信し、もうじきあの鍋に入れられて煮込まれる自分の姿を想像してエマは滝ような涙を流す。


「一人で来るとは思わなかったぞ、そうと分かっていればもっと小さな鍋にしていたのだが……まあいいか、もう少しで用意が出来るがそれまで立っているのも疲れるだろう、そこに座って気楽に待っていてくれ」


 鍋から目を離さず尻尾で指す先にはイスとテーブルが置いてあった。


「……ありがとうございます」


 言われるままに竜が使うには小さい人間用のイスに座り、竜が自分を見ていないことを確認してエマは頭を抱えてテーブルに突っ伏し心の中で激しく罵倒しだした。


(今から食べられるのに気楽になんか出来るはずがないでしょうが!? ああもうっせめてお願いだから最後は苦しまないようにしてよねこのバカ竜!)


 そんなことを考えていると心を読んだかのようなタイイミングで「よし! これで完成だ!」と竜は満足そうに呟き、その大きな爪で二本の棒のようなものを器用に使い鍋から細長い何かを取り出していた。エマにはそれがまるで死刑宣告のように重く聞こえていた。


「さあ待たせたな娘よ! 冷める前に食べるがいい!」

「っ!?」


 竜の大きな声にギュッと目を瞑り、これか自分の体を引き裂くだろう鋭い爪と牙の恐怖に耐えようとするがいつまで待っても痛みが襲ってくることはなかった。そのことを不思議に思いながらエマは竜が言った言葉が少しおかしなところがあったのに気づく。


(今食らってやるではなく、食べろとか言わなかったけ?……ひゃわ!?」


 恐る恐る目を開けると直ぐ目の前に竜の顔と大きな爪で器用に丼を持っているのが見え驚きイスから落ちそうになってしまうが竜はそんなエマの様子を気にするでもなく、ただ持っている丼をエマに突き出す言った。


「どうした早く食え、じゃないと冷めるし伸びるだろう、それともなにか? 俺が作った蕎麦なんて食えないと言うつもりなのか?」


「えっ? えっ!? あ、いえそんなことはないです! 今いただきます!」


 エマにはこの竜が何をしたいのかまるで分からなかったが断れば怒り出しそうに見え、慌てて丼を受け取り中をみると薄茶色のスープに少し緑がかったパスタのようなものが入っていた。スープからは嗅いだことはないが美味しそうな香りが漂いエマは思わずゴクリと喉を鳴らし、毒が入っていないことを祈りつつまずは一口、スープを飲んでみた。 


「コク……!? 美味しい!  んん!なにこれ本当に美味しいこのスープ! それにこのパスタみたいなのも凄くいい!」


「ははは!それはパスタじゃくて蕎麦って言うんだよ! しかも今回のそれは新蕎麦だからなっ! 美味しくて当然だろ! くははは!」


 味を褒められたことが嬉しかったのか竜はその巨体を揺らしながら楽しそうに大きな声で笑っている、その間もエマは山中を歩き続け空腹だったこともあり夢中で渡された蕎麦なるものを食べ続け、あっという間に蕎麦はなくなり丼は空になってしまった。


「あ……もう無くなっちゃった…」


 今まで自分が食べてきた何よりも美味しいと思えた料理である蕎麦を食べ終えてしまい空になった丼を見ながらエマは残念そうに肩を落とした。


「なんだなんだ、そんなに気にったのか? ならおかわりがあるからもっと食うか? 他にも来るだろうと思って沢山用意してあるからな」

「是非お願いします!」

「ならちょっと待っててくれ、今新しく茹でてくるからな!」


 その様子を見かねたのかおかわりを勧めると即座に飛びつくエマ、それを楽しそうに見ると竜はまた大鍋の前に立ち鼻歌を歌いながら料理を作り始めた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇◆ ◇ ◆ ◇



「それじゃあククロさんが私達に来るように言ったのはこの蕎麦を食べさせるためだったんですか?」


「そうだぞ、俺の故郷の習慣でな引っ越しをしたら近所に住んでる奴等に蕎麦を送ることになってるんだ。それでどうせなら俺が自分で打ったものを食わせてやろうと思って呼んだんだが、まさか生贄を要求したと思われていたのかそりゃ来ないはずだな」


「そのなんかすみません、私達竜を見るのはククロさんが初めてで聞いたことのある竜の話はどれも恐ろしいものばかりでしたのでつい……。あ、あの引越し先に蕎麦を振る舞うってこの辺りにはない習慣なんですがやはり何か意味があるんですか?」


「ん~~? ぶっちゃけると意味があるのか俺も知らないんだよな、とりあえず引っ越したらやらなきゃ不味いかと思っただけだったからな意味があるのかは考えてなかった」



 エマは魔法で体を小さくした竜とテーブルを挟んで話をしていた。


 あの後、エマは最近ろくに食事をしていていなかったこともあり実に四杯ものおかわりをしてようやく落ち着いたのだが、その頃には竜に対する恐怖も薄れていた。代わりにどうして竜が自分にこの蕎麦なる料理を食べさたのだろうと不思議に思い考えていたのだが、結局その理由が分からず仕方なく本人に質問してみたのだが答えは簡単なものだった。


 この竜の名前はククロ。ククロはつい先日長年住み慣れていた実家を両親に「いい加減いい歳なんだから、そろそろ独り立ちしろ」と言われて追い出されてしまったのだという。どうせ新しく自分の家を建てるなら元から興味がありいつか行ってみたいと思っていた別の大陸に家を建てることを決めて旅立ち、家を建てるのに良さそうな場所を探して見つけたのがここだったのだ。


 今回村に来たのはたまたま引っ越した場所の近くに村があったから故郷の習慣通りに蕎麦を振る舞うことと挨拶をするのが目的で村の者が心配しているようなことはする気はないと苦笑いしながらククロは話した。

 

 それを聞いて初めて会った時と随分と話し方が違うなと疑問に思ったエマが聞いていみると、ククロはポリポリと首をかきながら、三日前はまだこちらの言葉を上手く翻訳魔法で扱うことが出来なかったのだと答え、そのせいで村が大騒ぎにしているとは知らなかったと頭を下げて詫びた。

 

 

 事実を知りククロが竜だからといって勝手に凶暴な存在だと決めつけていたことに急に恥ずかしくなりエマも慌てて頭を下げて謝った。


「いえそんな! こちらの方こそすみませんでした! 勝手にククロさんのことを凶悪な竜だと勘違いして本当にすみません!」


「まあ仕方ないさ、こっちの竜は聞く限り結構凶暴そうだからな警戒するのも無理はないだろ。俺は村の奴等の誤解が解けるのを気長に待つさ」


「あのククロさん、今から私と一緒に村に来ませんか? 私からちゃんと説明してククロさんに会ってもらえれば村の皆も怖い竜じゃないと分かってくれると思うんです、それに私一人で村に帰った途中で逃げてきたと思われそうですし」


 気にしないで良いと言ってくれたククロの声が少し残念そうだったことにエマは申し訳なく思いそう提案した。


「ん? そう言ってくれのは嬉しいが俺が行ったらまた村の奴等は大騒ぎするんじゃないか?」


「そうかも知れませんけど私は村に戻ったらククロさんのことを話さなきゃなりませんし、どうせなら一緒に来てもらって説明したほうが手っ取り早くすむと思うんです」


 少しの間、長い首を捻りながら考えていたククロだったがここは素直にエマの好意に甘えることにした。


「そうだな俺も一緒に行くことにするか、村人達への説明はエマに任せるから頼んだぞ。ところでまだまだ蕎麦が余ってるんだが持っていったら喜ぶかな?」


「ええ勿論ですよ! きっと村の皆も喜びますしククロさんに感謝してくれると思いますよ! 出来れば私の分もあると嬉しんですけど……」


「ハハハ、量はあるから安心してくれていいぞ。よし、なら準備するから少し待っててくれ」


 エマは先程食べた蕎麦の味を思い出しゴクリと唾を飲み込みながら元気よく頷き、ちゃっかり自分の分も催促するのを忘れはしなかった。それが可笑しかったのかククロは笑いながら返事すると村人達に持っていく蕎麦を用意の準備を始めた。




 それから一時間後、準備を終えたククロは歩いて戻るのは大変だろうとエマを背中に乗せ前脚には大量の蕎麦と調理器具を持って村に出向いたのたのだった。



 村に着くと、やって来たククロの姿を見て驚き悲鳴を上げて逃げる者や農具を持ち立ち向かう者など大騒ぎになってしまった。エマは村人達に必死になってククロが知られているような悪い竜ではないと説明したが、誰もが疑いの目を向け信じようとしないのでエマは最終手段を使うことにした、それはククロが持って来た大量の蕎麦だった。


  不作で腹を空かしていた村人達はククロが蕎麦を、というか食料をタダでくれると聞くやいなや手のひらを返すかのようにあっさりとククロを良き隣人として受け入れてくれた。


 あまりに早い変わりように流石のククロも呆れてしまうが、エマが今の村の食糧事情がどれだけ大変なのか話すとククロは黙って更に大量の蕎麦と他にも多くの食糧を持って来ると、器用にも調理器具を扱い次々と蕎麦を始め沢山の料理を作ると村人に振る舞ったのだった。



  こうして色々な誤解はあったがククロは皆に認められ、新しい生活を始めたのだが、このことが何もなかったココナ村が竜と暮らす何とも変わった村として有名になり多くの者と騒動が起きるのだが、そのことをまだ誰も気付いていなかった。



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