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ガリア戦記  作者: 大和みどり
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ガリア皇帝とリューデン王

「何か考え事か、コンラッド。」


 ガリア皇帝はフォークを持ったまま動かないコンラッドに尋ねた。


「失礼致しました皇帝陛下。」コンラッドは我に返る。慌てて魚の刺さったフォークを口に運ぶ。魚の味は頭に入って来ない。ミズカのことを考えるので精いっぱいだ。


「今日はマルク地方の視察に行ったそうだな。どうだった。」ガリア皇帝は自身の長いあごひげを触っている。


「特に変わったことはありませんでした。あの辺りは田舎ですから・・・」


 コンラッドはエルザに答えたものと同じように返答した。二度目ともなると慣れたものだ。ガリア皇帝は神妙な面持ちで言った。


「実は最近、クレム帝国がガリアへの侵攻を準備しているとの話が入ってな。」


「クレム帝国が?」コンラッドは驚いて聞き返す。


 クレム帝国はガリア帝国の南に位置し、ガリア帝国と肩を並べる巨大な国家だ。


「リューデン王国との因縁に決着を付ける時期が来たのではないかと思っておった。そんな時にお前がマルク地方へ赴くというのだから驚いたものだ。」


「偶然です。しかし驚きました。リューデンとの国交を再開するのですか。」


「まずは対話だ。クレム側もガリアの先にリューデンを攻める可能性は十分ある。リューデンにとっても悪い話ではあるまい。」


「問題はゲルグ人ですね。」


「その課題は検討の必要がある。」ガリア皇帝は頷く。


 ガリア帝国の創始者は、ゲルグ人から巫女を守り続けたと言われている。その苦労むなしく、リューデン王妃を最後に、巫女は絶滅してしまった。巫女は低確率でしか生まれないためだ。それ以来ガリア帝国は「ゲルグ人を許すな」の精神を掲げ、侵略した国々を急速に統合することとなる。新たにガリア帝国民となった新参者たちには、もちろんガリア政府への反発心があった。ガリア政府はゲルグ人を虐げることで、彼らへの反発心を鎮めていたのだ。


 ガリア創始者の意に沿っているかどうかは今となっては分からないが、そのようにしてガリア帝国は巨大国家となった。


「検討の必要はあるが、これからは多様な価値観を認め合う時代だという。ガリアはガリア、リューデンはリューデンのやり方で構わないということだ。それぞれ別の国だ。正常に国交を開始することくらい出来るだろう。そう思わないかコンラッド。」


「そうかもしれません。」


 国交が正常化すれば、またミズカと会うことも出来るのだろうか。その時は正式な形で顔を合わせることになるだろう。自分がヘルゼンという嘘の名を語ったことを謝らなければならない。コンラッドは再びミズカのことを考えるのであった。




 ミズカはピクリとも動かないリューデン王、父親の顔を見つめていた。目だけが微かに動いている。殆どの者が寝静まった時間。ミズカは眠ることが出来ずリューデン王の元を訪ねていた。


「お父様・・・私、一般市民に恋をしてしまったかもしれません。」


 一瞬、父の目が見開いたような気がした。


「ごめんなさい。後継ぎの男性を探さなければならない時に。限られた貴族のご子息じゃないといけないって分かっているわ。でも・・・」ミズカは両手で顔を覆った。「ヘルゼンのことを忘れられないの。どうしたら良いのかしら。」はらはらと涙が溢れる。


 その時、扉を叩く音がした。ミズカは慌てて涙を拭く。目が腫れていないか鏡で確認をし、「どうぞ、開けてください。」震える声で返事をした。


 扉が遠慮がちに開く。


「国王陛下、ミズカ様、お取込み中申し訳ございません。ガリア帝国より書簡が届きました。国王陛下宛てです。代理でお開けになりますか。」


「ガリア帝国から?」ミズカは驚く。


「左様でございます。ただならぬものを感じます。お開けになりますか。」


「そうね、私が開けるわ。ありがとう。」


 ミズカは糊付けされた封に目を近づける。注意深く剥がさないと破れてしまいそうだ。


眼鏡の発注をしているが仕上がりまでにしばらく掛かる。それまでは不便な生活が続くだろう。苦労して開いた書簡を再び目元まで近づける。サインはガリア皇帝直筆だ。


「これは・・・。」

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