デスゲーム 壱
新作です
いつもと変わらない朝。
テレビから流れるニュースを聞きながら、朝食を食べる。
「昨日、都内のビルで男性が刺殺される事件が発生しました。犯人は、手柄を横取りする上司にムカついて殺したと、犯行を認めており……」
僕はつくづくと思う。
何故、人を殺す事が駄目な事なのだろうかと。
人は、食べるために豚や牛を殺す。
害になるからと、虫を殺す。
珍味が欲しくて無理やり餌を食べさせ、殺す。
そんなことをするのは人間なのにも関わらず、その人間というものは自らが命の危機に経つと、それを拒む。
何故、害のある''虫''を殺すことは許されるのに、害のある''人''を殺すことは許されないのだろうか。
それに、誰もが1度は思うはずだ
''人を殺してみたい''
と……。
僕は、学校に行く用意を済ませ家を出る。
時刻は7時30分、いつも通りだ。
「いってきます」
リビングに居る母に一声かけ、玄関へと向かう。
「あ、亜玖斗。今日は9時頃頃から雨が降るって。雷も強いってさっきニュースで言ってたわよ」
「ありがとう、母さん」
玄関に置いてある黒色の傘を手に取り、僕は学校へ向かった。
僕のクラスは、とても面白い。
スクールカースト
誰もが、1度は耳にした事があるだろう。
古来インドに伝わる身分制度であるカースト。それを学校に持ち込んだようなもので
一軍、二軍、三軍まで存在し、一軍の言うことを二軍、三軍が歯向かうことは許されない。
そんな制度だ。
僕は、その三軍に所属している。
三軍の僕が、高い成績をとった時の一軍共の顔が見もので自ら進んでそこに居る。
それだけのために……。
クラスに着いた僕は、1番前の窓側の席に着く。
時刻は8時、まだ一軍共は来ていない。
彼らが来るのは、その数十分後だ。
本を読み、時間を潰す。
次第に廊下が騒がしくなり、一軍のメンバーがゾロゾロと揃い出す。
だが、何か様子が変だ。彼らの話に、耳を傾けた。
「なぁ明、今日人少なくね? 」
「うんうん、俺もそう思う。何時もならもっと人いるよな」
「確かに不自然だ。俺達がそんなに遅いわけでも無いしな……」
人が少ない。彼らは違和感を感じているようだ。
確かに、窓から見える中庭に人の姿がひとつも無い。毎日の風景にあまり意識はしていなかったが、確かに不自然だ。
――キィィィィン――
放送用のスピーカーから、耳に障る甲高い音が溢れる。
そして、聞きなれない声……まるで、ヘリウムガスを吸っているかのような声で話し始めた。
「皆さん、御機嫌よう」
ーーーーーーー
教室がざわめく
「突然ですが、皆には僕とゲームをやってもらいます! 」
ゲームだと?
俺は、その放送に耳を傾ける。
クラスの半分以上は、くだらない冗談だと思っているのか反応しない者がいる。
「あれれぇ? 皆、冗談だと思ってるでしょ〜」
「何だこの放送」
声高らかに笑うのは一軍。二軍以下は、静かに話しているだけだ。
このクラスにおいて、一軍を差し置いて楽しむことは許されていない。
「仕方ないなぁ……。えい! 」
放送の声がそう言うと、突如として開いていた窓は全て閉まり、扉には鍵がかかった。
「これで、興味持ってもらえた? 」
そのあまりにも不可解な現状に、流石の一軍さえも顔から笑顔が消えた。
「おい、さっきから何ふざけてんだ! 」
そう言ったのは、一軍の宍戸。
彼は、とても短気だ。
「ふざけてなんて居ないよぉ。ただ、僕は君達と遊びたいだけ」
「だから、それが巫山戯てるつってんだろ! 」
近くにあった椅子を蹴る。
大きな音がなり、済にいた三軍の生徒の肩が震えた。
「まぁまぁ落ち着いて。じゃないと……死ぬよ? 」
その言葉は、教室内を一気に凍り付かせた。
何の確証もない、信憑性も無い。
だが、何故かそれが現実になりそうな気がして仕方が無い。
俺は、教室の片隅でその光景を見て思わず笑みが零れた。
皆が同じ恐怖を感じた時のその顔が、面白かったのだ。
「ふんふん、何となくは察してくれたようだね。力を使ったかいがあったよ! まぁ例外はあったけど」
心做しか、声がこちらに向かって聞こえたのは気の所為だろうか。
この声の主は、何者なんだ……?
「とりあえず、ここに居る人間は皆ゲームには強制参加と言うことで! 」
ーーキャハハハハ
そう笑う声に、誰も抗うことは出来なかった。これも、力というものなのだろうか。
「まずは、参加者の皆にプレゼント! 1人1枚プレートを受け取ってね」
教卓に現れたそのプレートは、各々の場所に飛んで行く。
その光景に、周囲は驚きを隠せないでいる。
手元に届いたカード。大きさはクレジットカード程度で、そこには、名前と10000000ptと書かれていた。
「これはなんだ? 」
一軍、野橋。容姿が良く、高成績。ただ、俺とは違い気色の悪いまでに正義感が強い偽善者だ。
「これはねぇ、僕からのプレゼントだよ! そこに書いてある名前はカードの保有者。ポイントは君達の残り残金だよ! その残金はどこのお店でも使えるようになっているんだ! 」
「なぜ、俺達に1000万ポイントを? 」
「これはゲームの参加ボーナス。今後も、参加するだけで1000万ポイントは支給されるよ! そして、そのゲームクリアに至った時、個人の貢献度を僕が判断して、増加分のポイントの付与を行うんだ! 」
つまり、参加賞として1000万ポイント。貢献の応じて追加されるという事か……。
「因みにだけど、そのポイントは一ポイント1円として使えます! そのポイントで買えないものなど存在しません! 皆、大金持ちだねぇ」
その言葉に、クラス中がざわめいた。
たった一度ゲームに参加するだけで1000万。
どんなゲームかは分からないが、美味しい話ではあるのだろう。
「じゃあ、ルールを説明するね! うーん、窓側の1番前の人! 」
僕の事だ。
「君、名前は? 」
「才魔 亜玖斗」
「亜玖斗くん! このヘッドホンを付けて」
声の主がそう言うと、目の前に赤色のヘッドホンが現れた。
「これを付ければいいのか」
「うん! それで、君にだけルールを説明するから黒板に書いて欲しいんだ! 」
「分かった」
敢えて何故だと聞く必要も無いだろう。これは、チャンスなのだから。
僕は、目の前に浮いているヘッドホンを付け黒板へと向かった。
周りの視線が強い……特に一軍の奴らからだ。
「それじゃあ行くよ」
俺は首を縦にふる。
これで話が続けば、こちら側の様子を声以外でも確認しているという事になるが。
「じゃあ、ルール1」
これでこちら側は、常に監視されているという事が分かった。今現状、情報は少しでも集めたい。
「僕のゲームには強制参加。学校ないから逃げ出そうとすると、貴方の大切なものが1つ消えます」
僕は、それを黒板に記す。
「2つ目。ゲームは、クラス全員がゲームオーバーになるか、全てのゲームがゲームクリアになるまで永遠に続きます」
「3つ目。ポイントの譲渡は自由ですが、強引な与奪は禁止します。発見次第、即ゲームオーバーとなります」
「ラスト。ゲームオーバーの者のカードは、最初に触れた人に保有権が移行します」
僕は、最後のルールをゆっくりと黒板に書いた。
「やるねぇ、楽しみにしてるよ」
最後にそう言い残して、そのヘッドホンは光の粒子となり消え去った。
「これが、聞いたルールだ。一言一句違えてない」
「ルール1、僕のゲームには強制参加。学校ないから逃げ出そうとすると、貴方の大切なものが1つ消えます」
一軍の外嶺由香が読み始めた。
「ルール2、ゲームは、クラス全員がゲームオーバーになるか、全てのゲームがゲームクリアになるまで永遠に続きます。ルール3、ポイントの譲渡は自由ですが、強引な与奪は禁止します。発見次第、即ゲームオーバーとなります」
そして、最後のルールを読み始めた。
「ルール4、ゲームオーバー者のカードは、その時点で消滅します」
僕は、ニヤリと口角を上げた。
「げ、ゲームオーバーになったら何も貰えないってこと? 」
「そうだな」
野橋が答える。
「じゃじゃじゃーん! ルールは確認してもらえたかな? それでは早速第1ゲーム! 」
突如、眩しい光に目を眩ませられる。
暫くしてそれが収まると、支配者の声が聞こえた。
「第1ゲームは、殺人鬼との対決で〜す! 校内に放たれた殺人鬼と、生き残りをかけた殺し合いをやってもらいます! 」
黒板に映像が映し出される。
1mはある大きな先のとがった鉄の棒を持ち、それを振り回している仮面をつけた巨漢。
黒いタンクトップに白い長パンと、如何にも殺人鬼という外見をしている。
「このゲームはどちらかが死ぬまで行われます! じゃあ頑張ってねぇ! 」
「おい! まちやがれ 」
「………………」
「くそっ! 」
宍戸が扉を強くける。
大きな音がなり、数名が肩を震わせた。
沈黙が続く。
突然参加させられたゲームで、人を殺せと言われたのだ。仕方が無いことではあるのだろうが……。
だが、このままでは状況は悪くなる一方だ。未だに映し出されている黒板の映像には、階段を降りている殺人鬼が写っている。
この学校の校舎は、今俺達がいる新校舎と殺人鬼がいる旧校舎に別れている。
数年前に大規模な工事が行われ、増加する生徒を受け入れるために無駄に広々としたグラウンドを使い校舎を増設したのだ。
建物の配置に少し疑問を持った僕が調べた結果によると、どうやら旧校舎の近くのグラウンドには地下の荷物置きがあるらしく、それ故にグラウンドを挟んで向かい側に新校舎を建てたそうだ。
グラウンドの大きさは、旧校舎から新校舎まで直線で300メートルはある。
重い鉄を持ち、ゆっくりと降りる殺人鬼のスピードでは道を知らないことも考慮すれば10分程は時間があるだろう。
だが、所詮は10分だ。人を殺す為の心の準備時間としては、あってないようなものだろう。
「な、なぁ……明、どうする? 」
「とにかく、逃げよう! 確かあれが居る場所は旧校舎だ。上手いこと隠れながら逃げれば、入れ違いになって旧校舎に行ける」
「そ、そうだな! よし……そうしよう! 」
「ならみんな! 荷物は全部ここに置いて、連絡の為に携帯だけ持って直ぐに移動できる準備をしよう」
分かったと、皆が動き始める。だが、そんな事をしてなんの意味があるのだろうか。
ただの時間稼ぎにしかなるまい。
寧ろ、緊迫する空間。殺されるかもしれない恐怖に精神を蝕まれ、余計な体力を使ってしまい全滅……なんて事も起こりえない。
「待て」
僕は、口を開いた。
「なんだい? 」
「本当に逃げるのか? 」
「当たり前だ、それが得策だからね」
「いや、違うな。自分の一存で仲間が死ぬかもしれないと、責任を先延ばしにしているだけだ」
「なっ……」
野橋は言葉を詰まらせる。
「てめぇ! 三軍のくせに巫山戯るなよ……黙れ!」
「図星すぎてそれしか言えないのか? 」
「てめぇ……」
拳を振り上げた宍戸を、野橋はその拳を掴んで止めた。
「確かに、そうかもしれないね。でも、それ以外どうしろと? 」
「殺せば良いじゃないか。あの殺人鬼を」
「どうやって? 君には何か策があるの? 」
「知らん。さぞ優れている一軍の方々で対処すれば良いじゃないか」
皮肉を言う。
流石の野橋も、薄気味悪い笑顔が静かに消えた。
「あまり無責任なことを言わないでくれるかな? これは、もしかすれば誰か死んでしまうかもしれないんだ」
「なら逃げ続けるのか? 終わる事の無いこのゲームに、何も無い状況の俺達が逃げ続けて何になる? 」
「それは……そうだ、助けを呼べばいい! 」
「馬鹿だな。携帯も繋がらない、支配者は謎の力を持っている。そんな状況で助けが呼べるわけないだろ」
「………………」
「いいか、解決方法は1つだ。殺される前に、殺す事だ」
野橋は、それ以上何も言うことが出来なかった。
「じゃあ後は、お前達で頑張ってくれ。俺は、一足先に逃げさせて貰う」
沈黙の続く教室。俺は、静かに立ち去った。
「ッチ……なんだよ奴。結局逃げるんじゃねぇかよ! 」
教室の空気は最悪だ。皆が暗い顔をし、これから迫り来る恐怖に身を震わせている。
そんな中、飛び交う言葉は亜玖斗に向けての罵詈雑言だけだ。
だが、1つだけ良い事もある。
皆が、才魔 亜玖斗と言う共通の敵を持つことで、意見の一致が生まれたのだ。
一軍、二軍、三軍が、指示されての行動ではなく、心からの行動。
つまり、才魔 亜玖斗に対する怒りの感情が行動源になり、どのような形でも心を合わせた者達は、より力を強く持つ。
「皆、聞いてくれ。俺は、才魔の言うことは間違っては無いと思う。確かに、逃げ続けていても不利になるだけだ。だから、俺は皆にお願いしたい。俺と一緒に戦って欲しい! 勿論、嫌な奴は降りていい。無理強いはしない。でも、数は多い方がいいんだ。だから、頼む……」
頭を下げた野橋に、まず声をかけたのは宍戸であった。
「当たり前だ、何でも協力する。仲間だろ」
「そうだよ! 私は明について行く! 」
俺も、私も!
一軍のメンバーは、全員が参加の意思を告げた。
すると、二軍、三軍とちらほらと手を上げるものが出てくる。
ここは仲間意識などではないだろう。強いものに取り付く弱者の考え。
それでも、人が増える事には変わらない。
「じゃあ、作戦を説明するね」
あれから数十分が経った。
黒板の映像は、殺人鬼の場所を常に教えているようで、教室には数名の女子が携帯を通して位置の情報を送っている。
僕は、その様子を彼らから少し離れた場所で見ていた。
「あとは、ここには奴を誘き寄せるだけだ」
「そうだな。よし、教室で待機している奴らに連絡を入れよう」
「頼んだ」
宍戸は携帯を取り出し、待機組に誘き寄せろと指示を出した。
因みに作戦だが、屋上に殺人鬼を連れて来る。そこで、鉄の板を何枚かに重ねたものを持った人5名が殺人鬼にタックルして、下に落とす。そして、下で待機している軍団が鉄の棒で滅多打ちにするという作戦らしい。
タックルの前にも鉄の棒で殴り、少しでもダメージを与えるつもりらしい。
だが、僕はこの作戦が成功するとは思えない。
あの巨漢だ、学生如きが……それも重たい鉄の板を持った状態で力で推し勝てるとは思えない。
どころか、鉄の棒で殴られその衝撃で板から手を離し吹き飛ぶだろうと予測している。
まぁ、彼らの作戦を見てみるのも悪くは無い。
「明君、そろそろそっちに行くよ! 」
教室待機の女子から、携帯を通して声が聞こえる。
男子達は、緊迫する状況に唾を飲み込んだ。
すると、突如屋上の扉が大きな音を立てて開いた。
同時に、数名の男子生徒が出てきて左右に掃ける。
「そろそろ来るぞ」
視野が狭いことは既に把握済みなのか、皆扉の位置より手前側で用意している。そうすれば、視野の狭い殺人鬼に不意打ちができると踏んだのだろう。
そして、殺人鬼は現れた。
「いけぇぇぇぇぇ! 」
野橋の叫び声で、右側から殺人鬼の後頭部に鉄の棒が直撃する。
「オゥッ……」
殺人鬼は、少し声を漏らしてよろけた。
「いまだぁぁぁぁ! 」
その掛け声で、板を持った生徒が殺人鬼に押し出す。見事に不意を疲れた殺人鬼は、じわじわと屋上の縁まで押されていく。
「うぉぉぉぉぉおお! 」
勢いは止まらない。どんどんと押して、殺人鬼が下に落ちるかと思われたその時。
ピタリと止まった。
「フンヌゥッ! 」
そして、殺人鬼は、その全てを押し返した。
そして、その大きな鉄の棒を容赦なく降り抜いた。
――ガァァァン!
大きな音がなり、鉄の板がくの字に曲がる。
吹き飛ばされた生徒は、後ろの壁に打ち付けられ、気を失った。
「く、くそっ……退散だ! みんな逃げろ! 」
野橋のその叫び声に、皆が階段へと駆け寄る。
スピードだけは誰よりも劣る殺人鬼は、ゆっくりと扉に近づくが、恐らく皆逃げ切れるだろう。
それを察したのか、殺人鬼はその大きな鉄の棒を縦に構えた。
「オォォラァァア! 」
――ドゴォォォォン!
鉄の棒を、勢いよく床に突き付ける。
その衝撃はすざまじく、屋上の床が抜けた。
だが、その穴も扉までは届かない。あと一人、宍戸が扉をくぐれば皆、無事生還できる。
だが、そうはいかなかった。
大きく揺れた床に、宍戸はバランスを崩し抜け落ちた下へと落ちそうになる。
「うわぁぁぁあ」
「宍戸! 」
それを見た野橋が、宍戸の手を掴む。
間一髪。落ちること無く、その手は繋がれた。
「よかった。いま、引き上げ……」
宍戸の手は、伸ばしの手を離れた。
殺人鬼が宍戸の頭を掴み、強引に引き剥がしたのだ。
「あぁ! やめろぉ、やめてくれ! 死にたくない! 俺はまだ死にたく……」
グチャりと音を立てて、宍戸の頭は握りつぶされた。
「し、宍戸……」
野橋は、その状況に放心する。
呼吸が荒くなり、身体が震える。
「何やってんだ! 行くぞ! 」
同じ一軍の西尾に手を引かれ、彼は下の階へと逃げていった。
そこに残ったのは、貫通している屋上の床と、頭を潰された宍戸の死体だけであった。
パラパラと降り出す雨が、その血を洗い流す。
血は雨水を伝い、ゆっくりと僕の足元まで広がった。
そして、殺人鬼と目が合った。
だんだんと雨が強くなっていく。
「ツギハ……オマエだ」
カランカランと鉄の棒を引きずりながら、殺人鬼は僕の方へと向かってくる。
逃げ道は3つ。後ろと、右と、左。
1番広いのは後ろだ。
後ろへ逃げた。時折あるパイプ管を飛び越え、なるべくと広い所に走った。
殺人鬼は、そのパイプ管を破壊しながら進んでくる。
「このままじゃいずい……よし」
中央辺りまで来た僕は、くるりと向きを変え殺人鬼に向き合った。
「おい豚、さっさと殺してみろよ」
僕は中指を立てて挑発する。
冷静な殺人鬼を相手にするよりは、ただ怒り狂った殺人鬼を相手にする方が楽だと判断した為だ。
人間離れした力に、鉄パイプで殴っても倒れない肉体。
そんな奴に知能までついてきたら、いよいよ勝算が無くなる。
「ナメヤガッテ」
ドスンドスンと足音を立て、重たい体で走ってくる。ギリギリにまで引き付けた僕は、振り下ろされた鉄パイプを交わし、横に走り抜けた。
力はあるものの、機動性が無いのは把握済みだ。
殺人鬼が振り向き、鉄パイプを横に薙ぎ払う。僕は、それをスライディングで躱す。
その鉄パイプは、目の前にあった避雷針をへし折った。
床に倒れ、折れた避雷針が飛び散る。
予測できないその破片は、僕の目の前に飛んできた。
それをギリギリで飛び退いて躱すも、バランスを崩し尻を着いてしまった。
迫り来る殺人鬼。
「コレで、オワリダ」
鉄パイプを振り上げた、その時。
――ドーーン!
その男の高く掲げられた鉄パイプを目がけて、雷が落ちた。
その雷は鉄パイプを伝い殺人鬼に流れ、殺人鬼の強靭な体を内部から焼き付くした。
今、僕の身体の下にはゴム製の床マット。お
僕に流れる心配はひとつも無い。
その雷は、外壁をを伝い地面へと流れて行った。
煙を上げて立ち尽くす焦げ付いた男は、未だ鉄パイプを手放さずにいる。
なんという生命力であろうか、人間とは思えない。
僕は、靴で男を蹴り倒すと、ゴム製のテープを持ち手に何重にも巻いたカッターナイフをポケットから取り出し、男の喉元を二、三度刺した。
そして、男は死んだ。
僕はゆっくりと腰を上げると、死んだ宍戸の死体を漁る。
そこには、誰の名前も記入されていないプレートがあった。
僕はそれを手に取る。
ーーーーーーー
保有者
才魔 亜玖斗
保有pt 10000000pt
ーーーーーーー
名もないプレートには、新たにそう刻まれた。
今だ収まらない、人を殺したことによる高揚感を心に隠し、ゆっくりと教室へ戻って行った。
全て計算通りだと、少しだけ微笑みながら……。
僕が教室に戻れば、空気はずっしりと重かった。
誰も歓喜の声を挙げない、賞賛しない。
「ジャッジャジャーン! みんなお疲れぇ。無事ゲームクリアだよ〜!」
その空気をぶち壊したのは、やはり支配者であった。重たい空気には合わない、どこか嬉しそうな明るい声。
ゲーム前とは違い、誰一人として言葉を発することは出来なかった。
「じゃあ、ゲームクリアの報酬として貢献度のポイントを送っておくから、各自で確認しておいてね! 」
俺は、ポケットから自分のプレートを取り出す。
ーーーーーーー
保有者
才魔 亜玖斗
保有ポイント 23000000
ーーーーーーー
凄い、これは凄い!
たった一人人を殺しただけで、貢献度として1300万ポイントも手に入った。
俺は、胸が高鳴るのを実感していた。
だが、教室にプレートを確認するものは、亜玖斗を除けば誰一人としていない。
「ふざけるな……ふざけるな! 」
野橋が机を強く叩き、立ち上がった。
「人が死んだんだぞ! 」
「だからなぁに」
「お前は……なんとも思わないのか! 」
「知らないよ。人間如きの命なんて」
冷たく言い放つ支配者に、誰もが恐怖しただろう。
これは単なるゲームではない。いつ死ぬかわからないデスゲームなのだと。
「僕はね、殺し合いが見たいんだ。皆の恐怖している姿が見たいんだ! ふふふっ、せいぜい僕を楽しませてよ」
「おい! 」
「………………」
支配者は、それ以降返事することは無かった。
そして、黒板にはまた来週と大きな文字で記されていた。
そして、教室にいる全員が意識を手放した。
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