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悪いことを覚えたディーネ

「ねーアリスさんってばー」


 ログインすると待ってましたと言わんばかりにディーネがやってくる。

 知り合ってから5日ほど。

 始めたてのディーネに言うのも何だが、こいつ友達いないの?

 俺が1人でいようと誰といようと気付きゃすぐ後ろにいる。

 そりゃまぁ俺を除いてゆりっぺもいるだろうが、あいつは自身の貢ぎストで手一杯の様子。

 俺の方からもゆりっぺの貢ぎストに「ゆりっぺを甘やかすな」と忠告しているため、最近じゃ狩りもちゃんとこなしてるからあまり一緒にいる機会がない。


 ……まさか俺が暇だと思われてる?


 いやいやなにもまさか。

 俺だってレイドボス戦までもう数日しかない身だ。

 装備の事もあるし、会議にはちょくちょく顔を出してる。

 先日の下見にしろ、それなりに忙しいんだ。


「ねーねーアリスさんってばー」


 だというのにこいつは俺から離れようとしない。

 流石に空気を読んで忙しく振る舞えば遠慮しがちに1人で狩りに行くと言ってどこかに行くが、いつまでも1人で狩りしてちゃ効率もクソもない。


 俺が無視するのが不服な様子のディーネは頬を膨らませ足を小突いてくる。

 仕方ないと俺は溜息をこぼしディーネに向き直った。


「ディーネ、お前今レベルいくつ?」

「ふふん、良い質問です。なんとこの間レベルが上がって――」


 一呼吸を置きドヤ顔で仁王立ちするディーネ。

 なんか結果が見えてきたが、大人しく喋らせることに。


「8になったです!」

「へぇ! そりゃすごい、よくブブラッドまでこれたな?」

「ブブラッドに行くっていうパーティに一緒に連れてってもらったんです。良い人で助かったですよ」

「……ちなみに男?」

「男ですけど?」

「なにか見返りとか求められたり?」

「またパーティ組んでねって言われましたです!」


 こいつ、知らぬ間に貢ぎスト候補を……!?

 レベル8って言えばまだアイオーン周辺で活動するレベル。

 ブブラッドじゃパーティの平均レベルが20は要求される。

 それを考えればディーネなんかお荷物もお荷物。

 攻撃してもろくにダメージが出ないし、万が一攻撃を喰らえば2.3発で死んじまう。


 素でこの威力……恐ろしい。


 急成長を見せるディーネに俺は思わず舌を巻く。

 やはり俺の見込み通り……こいつはいずれ俺を超えるネカマになれる。


「ま、まぁそれならいい。ただな、この辺じゃお前のレベルだとまともに倒せないモンスターばっかだ。そりゃその辺の優しいお兄さんに頼めばパーティを組んでもらえるが、レベル差がありすぎて旨味がない」

「旨味、です?」

「パワーレベリング防止用に、パーティ内でレベルが10以上差があると経験値の入りが悪くなる。……お前のレベルが上がるのが遅いのは、1人でやってるってのもあるが、ペナルティ状態でパーティに加入してるからだ」

「うぇえ!? じゃ、じゃあ今まで、自分からレベルを上げづらくしてたんです?」

「ああ、だから今の状態で俺とお前がパーティを組んでもお前のレベルはいつ迄たっても俺に追いつかない」


 俺の言葉に絶句するディーネ。

 それもそうで、こりゃ言外に俺とディーネがパーティを組んでも良い事ないから組まないと言ってるようなもんで。

 

 俺もレイドボス戦に向けてレベリングをしなきゃいけない。

 金に糸目をつけないなら一人のほうが短時間効率は高い、って言ってもリスクが高すぎるし……。


 アレ、やるか。

 アレならディーネも一緒にできる。


「いやディーネ、一つだけ方法がある。ある2人に協力を取り付ければ可能だ」

「ほ、ホントです?」

「まぁパーティは組まないけどな」


 思い立ったがすく行動。

 俺はある2人にメッセを飛ばし門前で集合の旨を伝え、ディーネと門へとむかった。




「ああっ! 麗しの君よっ! 君にデートに誘われたなら断るすべを僕は知らない! 全てを投げ捨て君との逢瀬に身を委ねよう! さぁリーチェ、こんな僕の無知さを罵ってくれないか!?」

「……おう、ジルヴァナス。いや白痴くん。俺以外にもいるから、逢瀬じゃなくて狩りな、狩り」

「…………騒々、しい。鞭なら、くれてあげる?」

「おっとアムネリア嬢、鞭なら結構だ。もっとも、リーチェからなら喜んで頂くけどね」

「す、すごいメンバーです……」


 ディーネのすごいという発言に斜め下の意味が込められていない事を願いつつ、あながち間違っていない指摘だと俺は頷く。


 ジルヴァナスもアムネリアも、攻略ギルド、そのマスターだ。

 こう簡単に誘いを受けてもらえるとは思っていなかったが、このメンバーなら容易にこなせる狩りだ。


「ジルヴァナスはともかく、アムネリアは良かったのか? お前もレイド戦前で、メンバーの練習とかあるだろうに」

「…………アネモネちゃんに、任せてきた」

「今しがたネネモネからお怒りの手紙が俺のメッセに――目を逸らすな!」


 こいつ、ネネモネに丸投げしてきやがったな。

 まぁいい。

 苦情の手紙を見なかったことにしつつ、俺達はブブラッドを発ち狩りへと出かけるのだった。


「そういえばリーチェ、今日は何を狩りに行くんだい?」

「あんまり人がいないとこならどこでもいい。そこで俺とアムネリア組、ジルヴァナスとディーネ組に別れる」

「…………パーティ組まない、の?」

「ああ、悪いが今回は俺とディーネのレベリングメインだ。付き合わせる形で悪いが、何か埋め合わせはする」

「レベリング出来ないんじゃなかったんです?」

「いや、パーティを組んでなければペナルティは発生しない」


 本来パーティを組んだ場合、得られる経験値をパーティ人数で割った数値が得られることになる。

 例えば100経験値のモンスターを4人で倒した場合、何があろうと1人25ずつ経験値がもらえるわけだ。

 ゆりっぺが昔やっていたのはコレの悪用で、自身だけ狩りに参加せず棒立ちしたままでもパーティさえ組んでいれば経験値が入るシステムを逆手に取ったわけ。

 ここにレベル差のペナルティが加わると、本来100もらえるハズの経験値が、10分の1。つまりは10しかもらえなくなる。

 ベータ時代この仕様が分かった時は酷いもんだったぜ。

 レベル低い奴がパーティに入りゃお荷物どころか足枷にすらなるってんで、高レベルのプレイヤー達はどんどん先へ行くのに低レベルの奴らは追いつくのがどんどん難しくなっていく。

 そこで見つけた穴が、パーティ申請を出さずにパーティプレイをする方法だ。


 方法は簡単、盾役がヘイトを稼ぎその内にアタッカーが倒す。

 本来のパーティと何ら動きは変わらない。


 ただ経験値の入り方が変わる。

 上記の様にパーティの場合人数で割った経験値が入るが、この場合はダメージを与えたプレイヤー全てに均等に分配される。

 二手に別れた場合、互いに50ずつ、レベル差関係なく経験値が得られるってわけだ。


 もちろんこの方法にも穴があるし、悪用する方法もあるんだが今回はなんとかなるメンバーを揃えたつもりだ。


「てなわけで、ジルヴァナスはヘイトを稼いでディーネが一撃入れたらボコれ。STR型のお前なら多少は早いはずだ。アムネリアは俺がヘイト稼いだら焼き払ってくれ」

「了解、その方法なら4対まで対応可能だからディーネ嬢のレベルなら一気に上るだろうね」

「…………了解、頑張るね」

「よし、後は『ヤツ』の対処だが――ー」

「あの!」


 黙りこんでたディーネは俺の話に割り込むようにして声を荒げる。

 今まで聞いたことのないような声に俺はディーネを見やると、俯く姿が映った。


「なんだよディーネ。完璧な方法だろ」

「あの、やっぱり、やめないです、か? その、これじゃまるで私、悪い事してるみたいです……」


 悪いこと……まぁ大方その通りで、俺やジルヴァナス、アムネリアは黙りこむ。


 パワーレベリングはレベルを無理やり上げる方法だ。

 ゆりっぺもそうだったが、いくらレベルだけ上がっても実力が伴わないんじゃ、どうしたって意味がない。

 盾役のヘイト管理とか、アタッカーのDPS調整、スキル回しなんかはどうしたって練習が必要になる

 それは俺も重々承知している、が……。


「なぁディーネ。確かにパワーレベリングは人力チートなんて言われてるが、強い奴が弱い奴の手助けをするのが悪いと思うか?」

「それは……」

「そりゃレベル上げだってMMOの楽しみ方の1つだけどな。俺や、ジルヴァナス、ゆりっぺだって皆、お前と一緒にプレイしたいんだ」


 お前からも何か言ってやれとジルヴァナスに目配せをすると、わざとらしく咳をした奴は惚れ惚れするイケメンスマイルを振りまく。


「ディーネ嬢、僕のギルドじゃ一部パワーレベリングをOKということにしてるんだ。新人が入っても一緒に狩りに行けないんじゃ困るし、何より馴染めないだろう? だから足並みを揃えるという明確な理由があれば構わないと、僕は思ってる。プレイヤースキルはやっていれば次第に付いてくる。ディーネ嬢にやる気さえあれば、レベルが上がってからでも遅くはないさ」

「どっかのバカみたいにやる気がないからボッ立ちしてるなんて理由じゃなけりゃ、全然ありだと思うがな。利用規約で禁止されてるわけじゃなし、秘密の花園じゃどうなんだ?」

「…………ギルド内でのみ、OK。野良では禁止、ってことにして、る」

「ということだ。それで、どうする? ディーネが嫌ってんなら、他の方法を考えるが」

「そう、だったんですね……」


 一度考えこむように唸り声を上げたディーネは、吹っ切れたように大きく頭を下げる。

 さっきのように俯いているわけじゃなく、最敬礼の姿勢だ。


「わ、私も皆さんと一緒に遊びたいです。だから、よろしくお願いしますです!!」

「よし、んじゃ続きだが――」


 クハ、チョロい。

 これで俺は楽してレベリングができる。

 1人でレベリングするよりか遥かにリスクが少ねぇ。

 それにアムネリアとジルヴァナスがいりゃあ『ヤツ』も凌げるだろう。


 そんなことはおくびにも出さず、俺は話を続けレベリングを開始するのだった。




「ウオォォォオオ! アムネリアさぁァン!? 早くしてくれませんかねぇ!?」

「…………もう、ちょっと縦、一直線に」

「今掠った! 剣ふる音聞こえたから!」


 地鳴りすら聞こえてくる狩場で俺はただただ走っていた。

 背にはオークが4体迫ってきており、猛攻と怒号の嵐の中ひたすら駆け回っている。

 トレインと呼ばれる行為で、一般的にはMPKなんかで使われる事が多い。

 レベリングでも同様の使い方をして、モンスターのヘイトを稼いで複数の敵からターゲットを取りヘイトを稼いだプレイヤーが走る。

 そうすることで後ろにモンスターの列ができあがることからトレインと呼ばれるようになった。


 パワーレベリング開始から2時間、既に数レベル上がっている事を考えるに、効率はいい。

 いいんだが……。


「もうちょっとやり方あるだろっ! えぇおい戦争屋! お前の気性が荒いのは知ってるけどそんなドSだったなんざ知らなかったぞ!」

「…………その名前で呼ばれるの、嫌い。虚神の炎、剣が如し『レイヴァーズスルト』」

「え、いやちょ――」


 短い詠唱の後、走っている俺の目の前にいたアムネリアは特大の魔法陣から炎の剣を射出する。もちろん標的は俺の後ろにいるオーク。

 つまるところ俺達の作戦は一直線に並んだオーク達をアムネリアの魔法で一気に倒す方法だ。

 レイヴァーズスルトは炎系等の上級魔法に位置し、縦に一直線に攻撃できるAoEだ。

 上級魔法ということもあって5、6発も射てばオークは沈む。

 もちろんその分MPの消費も激しいので俺が渡したポーションをガブ飲みしてのやり方だが、費用対効果は良い。


 が、気を悪くしたようで俺が避ける行動を取る前にぶっ放された魔法は俺を貫通しながらオークを焼き払った。


 みるみるうちに減っていく体力。

 あコレ死んだかも。

 そう思った時、投げやりにぶつけられた回復ポーションでなんとか生き存えることに。


「…………次言ったら、アリスちゃんでも許さない、から」

「お、俺が悪かった……悪かったから、方法変えよう、な?」


 まぁ、こんな方法もアムネリアにしか出来ないわけだが。

 現状、こいつを超える魔術師はいない。

 戦争屋という名前はアムネリアが嫌っているため、一般的には四魔使い(エレメンタルマスター)と呼ばれている。

 魔法ってのはスキルとは別の魔法ツリーと呼ばれる独立したツリーで出来上がっている。

 そのため4属性である風、火、水、土、その四種を上級まで実践で扱えるアムネリアは他の魔術師とは別格だ。


 上級魔法なんざレベルが上がれば使える。

 だが扱えるようになるのはまた別だ。

 なんせ詠唱が長ったるすぎてロクにDPSがでない。

 中級を連発してる方がコストには見合うくらいだ。


 だが魔法には熟練度があり、詠唱速度……節を省いて使うことが出来るようになる。

 これはちょっとした初見殺しで、中級ばかり実戦向きだからと使っていると上級は一回使ってから宴会芸にしかならんというプレイヤーもしばしば見受けられるぐらいだ。


 アムネリアの場合序盤に上級を覚えてひたすら熟練度を上げる事で現状の効果力を手に入れたが、並の人間じゃできない。それを支える土台が居ないからな。

 秘密の花園のギルマスであるアムネリアはほぼ無理やり上げたようなもんだ。


 いずれどの魔術師系統のクラスに就いているプレイヤーは上級、それ以上の魔法に着手するだろうが、急いでまで上級に固執したのは一重に渡り鳥の存在が大きいからだろう。

 張り合おうとすればどうしたって勝てる材料が必要だ。

 そして上級をマスターするには時間がかかる。

 その為に渡り鳥に殴り込みして、惨殺しながら協定を結ばせるなんざアムネリアぐらいしかしないだろうがな。


 そりゃまぁ四六時中どこからともなく魔法がぶっぱなされればヤマタケもおちおち狩りしてる場合じゃないだろう。

 あいつにも準備期間が必要だろうが、一歩間違えば戦争に入るとこだ。


「……アムネリア、そっちの『準備』はどうだ?」

「…………大体、80%は完了。黒森竜が終わったら仕掛けられる、かな」

「上々だ。こっちもフェイズ2に入った、ヤマタケの悔しがる顔が目に浮かぶ」


 談笑もそこそこに、レベリングを続けていく俺達。

 だが、そこで待ったがかかった。

 響き渡る咆哮。

 俺がヘイトを取っていたはずのオークすら飛んで逃げていく。

『ヤツ』がどうやら来た様子だ。


「来やがったな……っ! アムネリア、ジルヴァナスと合流するぞ!!」

「…………メッセ、ジルヴァナスから。合流地点にいる、って」


 このパワーレベリングには穴がある。

 というのも、ベータ時代に発見されたこのパワーレベリングは大流行した。

 無論正式サービスが開始したら対策されるだろうと思っていたプレイヤー達はものの試しにこの方法でレベリングをする。

 するとどうだ?

 あっけなくこのパワーレベリングが成立した。

 運営のアホどもめ、これなら怖いものはないぜと意気揚々に狩りを続けたプレイヤー達は見事に3時間後、リスポーン地点に居た。

 プレイヤーからは邪神の抑止力と呼ばれるモンスター。

 このパワーレベリングが抜け穴と思いきや、それは深い落とし穴だった。


「プレイヤー絶対殺すデビルマンのお出ましだ……っ!」

今月頑張るからゆるしてクレメンス……

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