表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

水面下では色々始まっている

 現在最前線を走る攻略組は、主に3つのギルドで構成されている。

 ヤマタケ率いる渡り鳥。

 ジルヴァナス……もといサブマスターのアルビスが指揮を執る番外の騎士団。

 そして、ギルドマスターのアムネリアを筆頭に女で構成されたギルド『秘密の花園(ガルデンメイデン)』。


 注目してもらいたいのはアムネリアだ。

 女、そう女だ。

 なにをどう定義しているのか、こいつのギルドは女しかいないらしい。

 女キャラじゃない、女プレイヤーでもない。

 ただただ、ギルドの加入規約には女とあるだけ。

 ……まさか20名近くいるギルドメンバー全員が女プレイヤーなわけあるまい。

 仮に全員女プレイヤーだってんなら、もうこのゲームにいる女キャラの大半は男よ。


 他はともかく、アムネリアの醸しだす雰囲気が女なのだ。

 こういう奴がいるから世にいる男プレイヤーは夢を見る。

 人の夢と書いて儚いとはよく言ったものだ。


 俺が独白にふけっているところ、ゆりっぺに小突かれて現実に引き戻される。


「ちょ、ちょっと何でも屋。アムネリア様がいるんだけど、夢じゃないわよね?」

「おいミーハーゆりっぺ、いまそういう空気じゃないから控えてくれねぇ?」

「きゃーちょっと、あのアムネリア様よ? 実は何でも屋ってただのネカマじゃないのね!!」

「ただのネカマだから。こいつらとはベータ時代に知り合っただけだからスクショ撮ろうとすんのやめろ」


 たっくこれだからミーハーは。

 なにがアムネリア様だ。こいつの本性を知ってたら二度と口にできねぇぞ。


 攻略組なんて括っているが、こいつらは仲が悪い。

 一同に介せば口での罵り合いが始まり、次第には獲物に手がかかる。

 最初に手を出すのが女のアムネリアなんだから、世も末だ。

 俺とゆりっぺが雑談の興じている間も無言の争いが始まっているようで、三者の目線が交差する度火花が散るさまが幻視できた。


「いや、俺は俺で何でも屋に用があってきたんだが、邪魔者が付いて来やがってな」

「邪魔者は君たちだろう? リーチェのストーカーなら間に合ってるから、二度と近付かないでもらいたいんだけど」

「……別に。邪魔しにきたわけじゃない」

「あー、ギスんのはいいが。お前ら俺たちを見て何か一言ねぇの?」


 俺は髪を弄りながらこれ見よがしにチラつかせる。

 ソレに習ってディーネとゆりっぺは胸を張る。無い胸をいくら張っても無いものは無いんだが、口には出すまい。


「ああ、髪型変えたんだね。ショートのリーチェも可愛いよ」

「……うん、可愛い。ぜひウチのギルドに、後ろの娘もカモン」

「いや入らんけど。というかウチの身内を誘うな」

「……いけずな所も、グッド」


 良いリアクションをとってくれる2人はさておき、見るからに不機嫌なヤマタケは大袈裟に肩をすくめツバを吐いた。


「生憎、俺はネカマを褒める趣味はなくてな……後ろの2人はいいんじゃねぇか? 見たところまだ始めたてか?」

「おい最強ええどういう了見だてめぇ。まるで俺しかネカマが居ないみたいな発言よぉ」

「言ったろ? 俺は見ただけでネカマか分かるんだよ」

「一度ネカマに騙されてる奴の眼なんか信じられましぇ~ん」

「ほう、いい度胸だ」

「あ? やんなら表出ろよガチ恋勢」


 剣に手をかける俺とヤマタケ、既に間合いを測り始めジリジリとすり足で移動を開始するが、ここで待ったがかかった。

 メガネをかけなおしたアイビスは俺とヤマタケの間に入ると声を張り上げる。


「アリスさん! 喧嘩はやめてくださいよ! 結局話し進んでないじゃないですか……」

「あー分かった分かった、俺もデスペナルティ中だ。大人しくすらぁ」

「ふん、アイビスに免じてここは引いてやる」

「それで、何の用だよお前ら。ここにいたって経験値は稼げねぇぞ」


 全員テーブルにつきドリンクを頼む。

 ようやく本題に入れるとアイビスは胸をなでおろし、意を決したようにこちらを見据えた。


「明日、アリスさんにギルドハント参加依頼を出しにきました」

「あぁん? ギルドハント?」


 ヤマタケとアムネリアを見やると、二人とも同意権なのか首を縦に振る。

 ……また面倒そうなイベントだぁ。


 ギルドハントってのはギルド単位で狩りを行うことだ。

 これだけだとへぇそうなん? ぐらいだが、ギルドハントのいいところは効率だ。

 長時間拘束される狩りにおいて、野良パーティでは実力や連携の面で捗らない事も多々ある。

 目標数まで狩り続ける、一定レベルまで狩る。

 そういったラインを決めて狩りを行う際、ギルドで動くと都合がつきやすいのだ。

 何より分配で揉めないし、普段から一緒に狩りをすればそれだけ練度も上がる。


 本来、部外者である俺を誘う理由はない……というか、部外者が入ればそれはギルドハントじゃない。

 こいつらに限って人員が足りないなんて事はないと思うが……。


「ビス、お前の所はジルヴァナスとお前でタンクは足りてるはずだよな?」

「……はい。今日もギルドハントに行っていたんですが、テレポしたんでアリスさんの所にいると思ってきてみたら……なにやらヤマタケさんとアムネリアさんに対抗している様子で」

「ガキか! 却下だ却下! 次アムネリア、お前の所もサブタンクはネネモネがいるよな?」

「……アネモネちゃんもいる、よ? でも、アリスちゃんと一緒に狩り、行きたいなって」

「女っぽくしても俺は騙されねぇから。却下却下」


 しょげるジルヴァナスとアムネリア。

 いや、テレポは俺のせいだからこんどビスに何か詫びをいれるとして。


「……で? お前まで俺と狩りに行きたいとかぬかすんじゃねぇだろうな?」

「アホか、俺は実利で来てんだよ」

「実利? ……まさか、ついに中身が男でもいい――」

「ちっげぇ! いい加減そのネタひっぱるのヤメろ! ……今度のレイドでお前をウチの部隊に入れることになったんだよ。その打ち合わせも兼ねてだ」

「レイド? 俺はどっかの最強さんのせいで目出度く参加できなくなった筈だぜ?」

「あれは言葉の綾だ。決闘で俺に勝てるやつなんかいねぇんだから、ただ意気込みを見たかっただけだ」


 いや、別に参加したくて決闘したわけじゃねぇんだけど。

 ナチュラルに煽りをかますヤマタケ。

 これは俺だけじゃなくアムネリアやジルヴァナスにも向けてだろう。

 どうするか悩んでいたところ、横でゆりっぺから色々説明されていたディーネは感極まった様子で俺を手放しで褒めてくる。


「攻略組って一番ゲーム上手い人達ですよね!? そんな人達に誘われるなんてアリスさんすごいです!」

「ハッ、良いかディーネ? こいつらは攻略組なんて持て囃されてるがその実、ただ経験値やアイテムの美味しい狩場で永遠と狩っているだけだ。暇な時見計らってレイド倒す簡単な仕事でぇ」

「協定があるから俺たち渡り鳥はスローペースなだけだ。その協定も次のレイドで終わり、そっからは攻略組じゃねぇ、攻略ギルドになるさ」

「はん、お前らがゲームを攻略してるってんなら『冒険屋』はこの世界を攻略してるってことだ。いずれ勢力図は変わるぜ?」

「そんときはそんとき。で何でも屋、ギルドハント参加するのか?」

「……ちょいまち、お前らのギルドサブタンクいねぇのか?」

「恥ずかしい話、ウチはサブタンク無しでやっててな。聖騎士2人出張ってもいいが、今回は抜かり無く行きたい。魔法騎士のお前が一番適任だ」

「検証すらままならねぇのによくもまぁいけしゃあしゃあと……どうすっかなぁ?」


 俺はヤマタケに受け答えながらチラリとアムネリアの方を盗み見る。

 俺の意図を理解したのか、アムネリアは無言のまま小さく頷くと席を立った。


「まぁ天下の最強さんが頼むんなら仕方ねぇか。いいぜ、入ってやるよ」

「決まりだ。明日正午ブブラッドで集合、遅刻すんなよ」


 アムネリアに続くようにジルヴァナスやヤマタケも席を立つ。

 ようやく酒場に平穏が戻ると他のプレイヤー達が騒がしくなる中、アムネリアが足早に俺に近づくと耳打ちしてきた。


「……アネモネちゃんから、伝言。この後、会議、だって」

「了解」


 デスペナルティ中だってのにイベントが多くて嫌になるね。

 




 ロアさんの店の真向かい、そこには白い小さなプライベートルームがある。

 俗に豆腐小屋と呼ばれるその家は、俺のクラスである魔法騎士たちが集う集会所だった。

 プライベートルームには入室制限が掛けられるようになっており、ルーム所有者が自由に決められる。

 なのでこの部屋に介するメンバー全員、魔法騎士というわけだ。


 俺が行った時には既に集会所の席は上座を残し埋まっており、皆沈痛な面持ちでその時を待っている。


「よう、待たせたな」

「ううん、今来たとこだよ♪」

「初々しいカップルみたいな掛け合いやめろ、ネネモネ」

「だーかーらー! ネネモネじゃなくてアネモネだって、何回言わせるのさ。プンスカプンだよ~」

「はん、ログイン戦争の敗者に人権はねぇ」

「相変わらず口悪いよねっ。アリスのバカ~」

「その伸ばし棒もやめろ、気色悪い」

「こうすると心なしか表現が柔らかくなるって、ネットで書いてあったもん」

「んな訳ないだろカス~」


 俺が入ると同時にハニカミながら応対したのはネネモネ。

 秘密の花園のサブタンクとして活動するプレイヤーで、その実力は折り紙つきだ。

 ただ言動に難アリで、こうして会う度になにかと突っかかってくる。


「アネモネ殿、アリス様が困っている様子、やめなさい」

「ベンケも悪いな。さっき招集したばっかだってのに、会議にまで参加させて」

「いえいえいえいえいえ! この弁慶、アリス様がいるなら例え清水の舞台だろうと喜んで飛び降ります次第!」

「あいっかわらず気持ち悪いなぁ弁慶。アリスさ、洗脳でもしてるの?」

「アネモネ殿! せっかくアリス様が某に話しかけてくれているのに会話に割って入るな! 馬鹿!」

「いや、流石に人格まで矯正してないから。とにかく二人とも座れ、会議を始める」


 気持ち悪いこの男はベンケ。

 ネネモネ同様ログイン戦争に敗れ弁慶の名を奪われた奴だ。

 俺の貢ぎスト上位の1人で、ジルヴァナスを除いた上位4名でパーティを組んで活動している。

 どうも弁慶のロールプレイっぽい事をしていて、他の3人も日本由来の名前で。

 ナベツナ ヨシツネ ベンケ セイメイ。

 と、元ネタが分かる範囲で名前を弄っている様子。

 後発組ではかなり上の部類で、今回のレイドにも参加するみたいだ。


 俺は空いていた上座に深く座り足をテーブルに乗っける。

 パンツはサービスだ。


「じゃあまず最初の議題だが、なんで俺が取り仕切ってるんだよ」

「毎回最初の議題にするの辞めない? 実際アリスが取り仕切ってるわけだしさ」

「そりゃ状況がそうだからだっての。この集会所も名義は秘密の花園だろうが」

「私そういうの向いてないし~。アリスが適任だと思うよね? ベンケ?」

「アネモネ殿にしては的を得ている。アリス様以上に相応しい人はおらんでしょう」


 こういう時だけベンケを上手く使いやがってネネモネのやつ……。

 他のメンバーを見てもやはり首を縦に振るだけで、誰一人代わろうとしない。

 学級委員長を他薦された気分だ全く。


「はぁ、もういいや。じゃあ次、フェイズ1の進捗を頼む」

「はい。前回の人口調査以降、魔法騎士の人口は変わらず。観測者からもクラスチェンジした報告は上がっておりません」

「……掲示板は?」

「有志による情報操作により、メインタンクは聖騎士、サブタンクは暗黒騎士でテンプレートが出来上がっています。どうも触ったことがないユーザーからも魔法騎士は不遇職扱いされている様子で、ますます魔法騎士下げが広まるでしょう」

「ご苦労。ネネモネ、アムネリアから何かあるか?」

「アネモネ! ……リアちゃんからはいつでもオッケー貰ってるよ。渡り鳥はようやく暗黒騎士に着手したみたい。現状聖騎士2人でゴリ押しが効く環境だから、余計みたいだね」

「く……クハハ……」


 俺は思わず笑いがこみ上げてきて手で顔を覆う。

 なぁヤマタケ、最強よ。

 勢力図が変わる。俺は言った。

 協定なんて腑抜けた事を言っている間も水面下では既に始まってんだ。

 こればかりは戦争屋――アムネリアに感謝しなくちゃなぁ。


 MMORPGにおいてクラスの強弱はすぐに変更される。

 今まで雑魚だ何だと言われていたクラスがアップデートした結果上方修正されて強クラスに一躍躍り出るなんてよくあること。

 2次クラスは正式サービスが開始されてから実装されたモノだ。

 誰も彼もが情報不足の中、掲示板や人伝で情報をかき集めるだろう。

 だが、情報を秘匿している奴らがいるとしたら?

 

 誰もがお人好しじゃねぇ。

 俺たち魔法騎士は特大のネタを隠し持ち、不遇職に甘んじている。

 それを可能にするため、魔法騎士になったプレイヤー全てを取り込んできた。

 現状有力な魔法騎士、そしてクラスチェンジしたての魔法騎士に至るまで今や全員身内だ。


 本来であれば攻略を優先するトップギルドが率先して軒並みあるクラスを検証しなきゃならねぇ。

 それを怠ったのは失態だったなぁヤマタケ。


 全てはたった1回のチャンスをもぎ取るため。

 最強を落とす、その瞬間まで。


「クハッ! クゥァハハハハァ! フェイズ1完了……! これよりフェイズ2へ移行する。騎士最優のクラスが俺たち魔法騎士だと知らしめるぞ……ッ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ