表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

褐色銀髪蒼眼とか狙いすぎて逆に新鮮

 俺は今始まりの街アイオーンに来ている。

 というのもヤマタケとの決闘に負けた俺はデスペナルティでステータスがレベル1相当まで落ち込み、ブブラッドではまともに活動できなかったからだ。

 まぁあれだな。相手が悪かった。

 最強さんに勝とうなんざ百万年はえぇんだよ、次元が違うね。

 え? ソレ以前の問題?

 そりゃお前、ステータスも装備も違うんだから勝てるわけ無いじゃん。

 こちとら一般プレイヤーだぜ?

 どうあがいたって攻略組トップに勝てねぇよ。無理無理。


 そんなこんなで初心者並に弱くなっている俺だが、実はこの街には定期的に来ていたりする。

 というのも……。


「お、おいあの子可愛くねぇか? ちょっと声掛けてこいよお前」

「やだよお前、ナンパみたいじゃねぇか」

「はぁ~俺らのパーティにも華がほしいよな、華が」


 ここなら貢いでくれる初心者を青田買いできるってわけだ。

 まぁ仮にパーティに誘われても断るが。

 今レベル1までステータスが下がってるってことは、極端なことを言えば雑魚なわけで。

 そんな状態で美味い狩場に行ってもお荷物だし、俺でも行ける狩場に行っても旨味がない。

 うーまーあーじー。


 俺はネカマだが姫ではない。

 自分だけ何もしないで狩りに参加するのはパーティに不和を招くことがある。

 姫プレイなんてのは初心者のやることよ、俺みたいにネカマ上級者になれば体を張って好感度を稼ぐって寸法だ。

 俺は貢がれるのは好きだがどうせ狩りに行くのなら自分も参加する。

 騎士系は人数が少ないから野良パに潜り込みやすいしな。

 

 じゃあなんでここに来たのか。

 ぶっちゃけ暇なのである。

 1日経ちゃペナルティも終わるわけだが、その1日何もしないなんてのはゲーマーとしてナンセンスだ。

 というか、リアルで1日潰せるならネカマなんてやっていない。


「……たまにはソロで狩りもいいか」


 というわけで適正狩場より少し上のとこへ移動する。

 経験値もそんなにもらえるわけじゃないが、ブブラッドでは入手し難い素材やアイテムもあるのでその補充も兼ねてだ。

 いくらレベルが1相当でも装備は良いのでなんとかなるという気持ちできたが、既に先客がいた。

 この狩場にはレッサースパイダーが生息しており、そいつが落とすアイテムである糸をとりに来た。

 別にこの狩場以外でもレッサースパイダーはいるがここが一番効率が良いから来たのだが先客がいるとなると面倒である。

 ネトゲってのは意外とマナーが厳しいもんで、特に狩場ではなにかとうるさい。

 これ以上悪目立ちして掲示板を盛り上げるのも癪なので待つことにした。

 したんだが……。

 

 その先客、ソロである。

 古くよりMMORPGってのはパーティプレイが主流だ。

 もちろんソロで出来ない事もないが、MMO――大規模多人数プレイを想定して設計されており、1人でプレイすることを想定していない。

 主に役職は3つ、盾役、攻撃役、回復役という感じになっていて、それを全て一人でこなすなんてのはゲームシステム状不可能だ。

 だから野良パなんてものがあるし、大抵の場合1人でプレイしてちゃすぐに詰まる。


 まぁ、その、なんだ。

 目の前の先客も今まさに死にかけているわけで。

 このまま放っておけばカップ麺ができるより早く死んでアイオーンへと死に戻りすることになるだろう。


「ていっ」


 俺は先客に向かってポーションを投げた。

 ポーションを使っての回復方法は2つ、飲むかぶつけるかだ。

 俺が投げたポーションが先客にあたりHPが回復していく。

 こうみえて俺は優しい。

 掲示板じゃ悪魔の所業だとか人間じゃないなんて言われているが、俺は優しいのだ。

 俺を構成する4割は優しさと言っていいだろう。残る6割はその見返りを求める下心だ。


 無償の愛なんてものはこの世にない。

 必ずなにかしらの見返りがある、それが目に見えないだけだ。

 まぁなにより。

 その先客が女キャラだったというのが一番の理由だった。


 女キャラがソロでやってるなんてのは珍しいからな。

 大抵街であったような野郎ばっかのパーティに誘われてしまってすぐに囲われちまう。

 希少種、そう希少種だ。

 たかだかポーション1つで恩を売れるのなら盛大に着せてやればいい。


 なんて取らぬ狸の皮算用をしているまにスパイダーを倒した女キャラがこちらへと駆け寄ってきた。


「あ、あの! さっきは助かりましたです!」


 なっ……! です口調だと……!? まだ生きていたのか!?

 俺は女キャラの顔を見て絶句した。

 褐色肌に青みがかった銀髪、くりくりと大きな蒼眼。

 身長をかなり低めにしどんな相手でも上目遣いで対応できるようにしている。

 一部のユーザーからは絶対の支持を得られるそのキャラメイク。

 無言でいる俺に首を傾げるその仕草……ネカマ力1万……2万……。


「計測不能……だと?」

「計測……? どうしたんです?」

「い、いや、なんでもない」


 くっ、ネカマと分かっていてもこの破壊力。

 同じネカマでなければ危なかった。もし俺が普通のプレイヤーならイチコロだっただろう。

 こんな可愛い女キャラ、女性プレイヤーなわけないだろう? ネカマだよ決まっている。ネトゲの女キャラは大体男だからな。騙されんよ俺は。

 クールになれ、深呼吸しろ。


「ふぅ……いや、当然の事をしたまでだ。気にしないでくれ」

「いえ、きちんとお礼はさせて欲しいです! といっても、なにも持っていないんですけど」

「じゃあ今ドロップしたアイテムの中に糸があればそれで手打ちでいい。俺はそれが目的でここに来たんだ」

「そんなものでいいんです?」

「ああ、ちょっと必要でな。……ところで、初心者か?」


 貰える物は貰っておくとして。

 トレードを終えて俺は女キャラへ向き直る。というか、名前知らないな。


「はいです! 最近始めて、ようやくレベル2になったばかりです!」

「そうか、そういや名前がまだだったな。俺はアリスだ、よろしく」

「ディーネっ言いますです! アリスさんは結構プレイしてるんです?」


 ふぅむ、この同業者へも口調を変えない徹底っぷり。

 目敏く俺の装備を見て経験者と判断する思考能力。


 くくく。こいつぁ使えるぜ。たまには初心者の狩場にも顔を出すもんだ。


「ああ、デスペナルティでステータスが落ちててな。暇潰しがてらこっちまで来てたんだ。よかったら俺が色々と教えようか?」

「ホントですか!? 助かりますです……友達もできなくて困ってたんです」

「ああ、俺としても同業者で仲間がいれば心強い。俺に弟子入りすれば貢ぎストなんざすぐできる」

「貢ぎ……? なんです、それ?」

「ああ、これからゆっくり教えていく。覚えることはたくさんあるからな」


 ネカマ初心者は下手に動きすぎて的にされる恐れがある。

 きちんとしたネカマプレイを身につけなければ、すぐにこの界隈から消えてしまうことだってあるんだ。

 だからこそ俺がディーネを育て恩を売り見返りとしてその上前をはねる……ほら、誰も損をしない平和な世界の出来上がりだ。


「とりあえず今日は狩りを優先しよう。パーティ申請を送るから承諾してくれ、クラスはなんだ?」

「えーと、シーフです」

「ダメージディーラーか、丁度いい。俺はタンクだから、スパイダーのヘイトを俺が稼いだら横から殴ってくれ」

「了解です!」


 ディーネを率いて狩場へと入っていく。

 流石に多数のレッサースパイダーを引くのは今のステータスじゃ厳しいので、見つけた一体にナイフを投げつけておびき寄せた。

 スキル、怒りの錨(アンガーアンカー)

 騎士クラスに存在するスキルの一つで、攻撃した相手のヘイトをコチラへ向けるというものだ。

 このスキルをくらったモンスターは俺目掛け攻撃してくる。

 ヘイトが移る原因は多々あるが、その内の一つであるファーストアタックをとるのはタンク職の役目だ。

 錨なんていっているが、投げれるものがあればぶっちゃけなんでもいい。

 俺はナイフを使ってるし、実際に小さい錨を使ってるプレイヤーもいるんだとか。


「よし、ディーネ。ヘイトは俺が稼いでおくからその内に倒しちゃってくれ」

「はいです!」


 小剣を2振り取り出したディーネは逆手に持つと横からチマチマと殴り始める。

 DPS――ダメージパーセカンドといって単位時間における火力が高過ぎるとたまにヘイトがダメージディーラーに移ってしまうことがあるが、まだディーネのように始めたてのプレイヤーであればその心配もない。

 適当にヘイトを稼ぎながらレッサースパイダーの攻撃をよける俺だが、これでも自分の仕事はちゃんとしている。

 盾役である俺の仕事は仲間を攻撃されないようにすることだ。

 測っていないから詳しくは分からないが、おそらく俺のレッサースパイダーへ与えているダメージ量はディーネのそれに劣るだろう。

 盾役が守り、ダメージディーラーであるディーネが殴る。

 2人なのでそれくらいの立ち回りしかできないが、回復なら戦闘が終わった後にすればいい。


 たかだか1人増えただけなのにさっきディーネが1人でレッサースパイダーを倒した時よりも格段に早く倒せた。 


「どうだ? 楽だったろ」

「は、はいです! パーティだとこんなにあっさりと勝てるんですね!」

「ああ、この調子でどんどんいくぞ」


 嬉しそうにはしゃぐディーネ。

 初めてパーティプレイをした時は俺も感動したもんだ。

 今は謂わば餌付けの最中。カッコいい先輩を演じ、弟子に優しくレクチャーするアリスになる。

 こうして俺に懐かせて徐々に徐々に、ネカマプレイを教えていけばいい。

 

 そのまま続けて2時間ほど、レッサースパイダーを狩った。

 効率はかなり悪いが、そんなのは瑣末な問題だ。

 ディーネを生え抜きのネカマにする。アリスブランドの最初の一歩は地道だ。

 狩りの帰り、レベルも上がってご満悦のディーネに俺はふと気になって聞いてみた。


「なぁディーネ、なんで小剣二刀流なんだ?」


 小剣二刀流ってのは言ってしまえばナイフを二本持ってる。

 まぁダメージディーラーに盾は殆ど意味がないのでたいていの近接クラスの場合両手、片手で持てる長剣がメインになってくる。

 片手でも持てるってのはつまり片手が空くわけで、俺みたいにナイフを持ってもいいし剣を持ったままポーションだって飲める。

 ソレに対して小剣二刀流は手数が増えるというメリットもあるが、デメリットがある。

 リーチは結局一緒なので間合いは一定だし、片手でしか切れないので力も加えにくい。

 相手が長剣の場合打ち合えば防ぐのは難しい等々。


 二刀流ならあの憎きヤマタケもやっているがあいつのは理に適っている。

 長剣とナイフの二刀流なら違う間合いで敵の意表をつけるし、何より廃人なら両手ともに上手く扱えるだろう。


「かっこいいからです!」

「そっか、ならいいや」

「え、いいんです?」

「あん? いいに決まってるだろ、ちゃんと理由があるならわざわざスタイルを崩す必要はないだろ」


 長ったらしく語ったが、プレイスタイルは人それぞれだ。

 何も理由がなく、なんとなくで小剣二刀流やってますなんて言われたら発狂しそうだが、かっこいいという理由なら止めはしない。


「それに、俺も人のこと言えた義理じゃないからな」

「どういうことです?」

「オルブリじゃ今のところ2次クラスまで確認されてるんだが、この間運営からの発表で各クラスに就いている人数が発表されてな」


 俺は魔法で盾を作り出しディーネに魅せつける。


「《魔法騎士メイガスナイト》――かっこいいだろ?」

「か、かっこいいです!」

「まぁ騎士系の中じゃ不遇クラスでな、断トツで人数が少なかったってオチ」


 魔法騎士は謂わば器用貧乏だ。

 騎士だけどちょっと魔法が使えて、騎士だけどちょっと火力が出て、騎士だから盾役もできる。

 聞こえは良いが、さっき言ったとおりパーティプレイの基本は役割分担だ。

 盾役に魔法も火力もいらない、必要なのはどれだけ攻撃を受けられるかだ。

 もちろんいいところもあるが、やっぱりメジャーどころは《聖騎士パラディン》だろう。

 俺はドヤ顔でディーネに語る。ゲームは可愛さカッコよさをどこまで突き詰められるか楽しむもんだと。


「いいじゃねぇか、かっこいいから小剣二刀流使って。俺もかっこいいから魔法騎士やってんだからな。笑わねぇよ」

「ア、アリスさん、カッコいいです! 私も頑張ってかっこ良くなるです!」

「よし、今日から自分磨きだ。街へ戻ったら美容院へ行くぞ」

「な、何か間違った方向へ行ってないですか!?」


 間違ってなどいない。

 女は外見が全てだ。装備はもちろん髪型だって気を配らなきゃいけない。

 俺が魔法騎士に就いているのはカッコいいのもあるが目立つからだ。なんなら魔法騎士ってだけで目に留まる事すらある。


 今度はどんな髪型にしようかなんて考えていると、急にディーネに抱きつかれた。


「やめろぉ! 俺はガチ恋勢じゃない! ガチ恋勢じゃないんだ!!」

「伏せてくださいアリスさん!」


 待ってくれ、俺はガチ恋勢じゃない。

 確かにキャラはすごい好みだし全然イケるけどこういうのはもっと段階を踏んで――。

 押し倒された俺の眼前を矢が通り過ぎる。

 急速に頭が冷え、ようやく事態を飲み込めた。


 シーフ系クラスのスキル危機感知だいろっかん

 視界外からの攻撃の際頭にアラートが鳴り響くスキルで、モンスターの発見などに役立つスキルだ。


 俺は抱きついているディーネを引剥がし立ち上がると周囲を警戒する。


「ディーネ、レッスン1だ」

「レッスン1……です?」

「俺たちの界隈じゃ敵がいる。場合によってはかなり多くなるが……今回のはちと面倒だ」


 煤けたローブを羽織るプレイヤーが4人ほどゆっくりと近寄ってくる。

 中には弓を構え既に戦闘態勢の者もいた。

 その後ろには集団から浮く綺麗なローブを羽織った女キャラが1人。

 気持ち悪い笑顔を貼り付けゆったりと歩くそのキャラを睨みつけ、俺は苦々しく口を開く。


「――同業者ネカマ、そしてその囲い(サイフ)だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ