4章7 アマミ 喫茶イコイ(8)
カウンターの向こうでは、長澤まさみ似の女性――名前はまだ聞いてない――と、妻夫木聡に似た男性――コマキさんと言ったかしら――が話している。私は、同じカウンター内にしゃがんでいる店長に言った。
「て、店長……、あの、ウメダさんたち、撃たれちゃったんじゃないですか?……」
「そうですね……、撃たれたようです。あと、私はマスターですから」
「ちっ」
「い、いまアマミさん舌打ちした!?」
「店長。マスターとか、どうでもいいですっ。早く、救急車を呼ばないと……」
「しかし、相手は銃を持っています。下手に動けないし、通報も危険です……」
「じ、じゃあ、私が、手当します」
「いやいや、いやいや、危険です。このままここに隠れていた方が……」
店長は私を止めようとした。
「でも、このまま出血を止めないと……」
「アマミさんは看護系の学生だったね……」
「ええ、怪我人を放っておくなんて出来ません」
「あ、ちょっと、待って」
私は立ち上がった。ウメダさんたちを撃った彼女が銃を構えてこっちを見る。
「あ、あのっ、すみません」
「何?」
「あの、撃たれた人の手当てをしたいんですけど……」
「余計なことしないで、じっとしてなさい」
「で、でも……」
「殺されたいの?」
彼女は銃をこっちに向けた。私は「ひゃっ」と言ってしゃがんだが、その時、
「応急処置できるんですか?」
コマキさんが、私に話しかけてきた。
「は、はい。まだ短大で勉強中ですが、一応は……」
私は頭だけ出して答えた。すると、彼は、
「傷の手当てをさせてやってくれ」
と彼女に頼んだ。
この人、話が分かるわね……。そう来なくっちゃ。
「なぜ?」
「彼らが死んだらどうするんだ!?」
「別に死んだってかまわないでしょ。わたしに何のデメリットがあるのかしら?」
「お願いだ。頼む」
「わたしのメリットは?」
「……」
「ないなら、この話は終わりよ」
「そうだ……、そっち側に、扱いやすい、若い女の人質がひとり増えるってのは、どうだ? トイレ前なら、逃げられる心配が減るんじゃないか?」
はあぁっ! ナ、ナニー!!
こ、こ、この男、私を勝手に人質にして……。後でとっちめてやる!
わたしは、男をキッと睨みつけた。しかし、この男、飄々とニッコリ微笑む。このKY男め。
彼女の方は、ほんの少しの間、考えたようだが、私をみて、黙って銃口を左へ振った。
それを見て、私は、救急箱と大量のナプキンを持ち、カウンターを出た。手当は出来るようになったけど、なんか納得できない……。
トイレ前にはウメダさんたち3人がいた。マツさんとタケさんは「アニキ、アニキ、しっかりしろ! 目を開けてくれ!」と、泣くように声をかけている。肩を撃たれていたが、上腕動脈は傷ついていないようで、思ったほど出血は酷くない。ウメダさんはトイレのドアに寄り掛かっていて、ピクリとも動かない。撃たれた場所は、胸の中心から、やや左より。心臓がある所だ。
「ああっ!! ウメダさん!」
私はウメダさんに駆け寄り、呼吸と脈を確認した。
「こ、これは……、ウ、ウメダさん……、どうして……」